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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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118/118

118「一件落着?(2)」

 そうして二人で部屋からそっと抜け出し、小高い位置にあるアクセルさんの屋敷からブナの営林の間を通る小道をしばらく静かに歩いた。

 木々の間から見える空には、今日も大きな昼間の月と赤くぼやけたもう一つの小さな月が見えている。


「一件落着、ね」


「そうだな。けど、妙な謎だらけになったよな」


「そうね」


 そこで二人して、また少しだけ沈黙する。


「ねえ、ショウは、これから何かしたい事ある?」


「そうだな、目標はとりあえず二つかな」


「二つもあるの? 何?」


 ハルカさんが興味津々という眼差しを顔ごと向けてくる。

 その顔を見ながら、言うなら今しかないと思った。


「一つは、ハルカさんを現実世界で復活させる事。オレは向こうでも会いたい」


「え、ええっ?! ……けど、そんなこと」


 少し赤面して明らかに動揺している。


「クロのやったことを、あっちの世界でも再現出来るかどうかを探したい」


「……なるほどね。けど、どれくらい可能性があると思うの? こっちとあっちで人の意識や記憶、『魂』ってやつしか行き来出来ないのよ」


「けど、あれだけの事が出来たんだし、クロの言った事から考えると、可能性はゼロじゃないと思うんだ。だから、その可能性や方法を探したい」


 オレの言葉に「そう」と短く答えたハルカさんの声には、多くの感情が含まれていた。

 けど否定的な響きは感じられない。


「ありがとう。私も、ショウと現実世界でも会ってみたい。……けどこれって、私自身がする事よね」


「そうかもな。けど、オレが言い出した事だから……そうだな、二人でしよう」


 その言葉に、ハルカさんの瞳がオレの瞳を捉える。よく見るとお互いの姿が映っているのを見て取る事ができるほどの近さだ。


 そして数瞬が過ぎただろうか、「ハイ」と澄んだ声が紡がれた。

 そしてこの時のハルカさんの顔を見ていて、今がチャンスだとオレの中の何かが後押しした。


「……けど、これをハルカさんに、オレの気持ちを言わないと先に進めないかな」


「気持ち? 言いたい事があるなら言っていいわよ。今なら聞いてあげるくらいには機嫌が良いから」


 話しが少し逸れたと思ったのか、言葉と裏腹にハルカさんの眉が少し不機嫌を示す。

 しかし、オレがくそ真面目な顔をしていたせいだろうか、ハルカさんの顔も徐々に真顔になる。


 そしてオレは、さらにハルカさんに向き直る。

 ハルカさんが軽く息を呑む仕草が、オレにとって最後の一押しとなった。


「ハルカさん、好きです。オレと付き合ってください」


 その瞬間、ハルカさんの瞳が大きく見開かれる。

 このオレが、女性しかもちょっと居そうにないほどの美少女にコクる日が、まだ16才のこの時に訪れるとはオレ自身夢にも思わなかった。


 オレはハルカさんの肯定的と思える、少し恥ずかしげにする顔を見ながら、二人の心が繋がったように思えた。

 しかし、オレの話しはまだ先がある。これを話さないと、オレはこれからの一歩が踏み出せない。


「でさ、オレ、色々考えたんだ。話しを戻すけど、もし、万が一、あっちで会えないって時だけど、絶対無理って時だけど、……こっちでオレと結婚して子供を作ろう。無論オレは『賢者』になるくらい、こっちにいられるように頑張るつもりだけど、どうなるかは分からないから」


 ハルカさんは、今度はポカンと驚きの表情を浮かべいる。

 言っていることが、のぼせあがった子供の戯言に等しいことは、オレ自身が理解しているくらいだから、呆れていると考えるのが妥当だろう。

 ただ、そう思いつつも口は止まらなかった。


「あの、突然、しかも飛躍しすぎてゴメン。けど、オレなりに考え抜たんだ。もしオレが居なくなっても、仮にオレが消えても、家族がいれば、もうハルカさんはこっちで一人じゃなくなると思うんだ」


 そこまで言い切って返事を待った。

 もう、オレの心臓バクバクだ。

 ハルカさんは、オレの最後の言葉が途中から顔を下に向けてしまう。長い髪もあって、ハルカさんの顔も表情がまるで分からなくなった。


「ゴメン、やっぱり結婚とか子供って、子どもじみた発想だし、話しが早すぎたよな」


(まあ、最低驚くか、怒るかもなあ。それともオーケーなら、泣いて喜んでくれるたりするんだろうか)


 ハルカさんに謝りながらも、色々な考えが頭をグルグル回る。


「……私、まだ最初の返事すらしてない」


 「グッ」と顔を上げたハルカさんの第一声はそれだった。

 顔も少し拗ねた感じで、一見好意的とは言いがたい。いつもなら、反射的に謝っていたかもしれない。

 しかし瞳を見る事でオレの気持ちを伝えようとした。


 そうしてしばらく見つめ合っていたが、ハルカさんが先に口を開いた。

 表情も和らいでいる。


「けど、ありがとう。ショウの気持ち本当に嬉しい。……けどまあ、やっぱりチョット先走りすぎかしら?」


 言葉の後半は、少し腰を折ってオレの顔を下からのぞき込んでくる。イタズラっぽい顔が、また魅力的だった。

 オレもそこで吹っ切れた気がした。


「やっぱりそうだよな。じゃあ、こっから順番に始めようぜ」


 ハルカさんに何かをさせる前にオレは彼女を抱き抱え、上から被さるようにキスをしようとした。

 オレとしては、全ての勇気と行動力を動員した上での、勢いに任せた行動だ。


 が、寸前で右手で顔を押さえられ、半ば抱きついたまま顔をグーっと引き離されてしまう。


「えっ? なんで?! ダメなの?」


「ダメ以前に、私嬉しいとは言ったけど、まだokの返事してないでしょ。このせっかち!」


「えっと、じゃあ返事聞いていい?」


「今ので、もうちょっと様子見よ!」


 すぐ近くにある、ご機嫌斜めになった表情がかなりの迫力だ。

 しかしここは押すべきだと思ったのだけど、そうはいかなかった。


「そこっ、何やってるの! こっそりラブコメ禁止! せめて誰か見てるとこでしようよ。突っ込めないでしょ」


「朝からご盛んだな」


 ボクっ娘とシズさんの声が、少し離れた場所から聞こえてきた。

 すぐにも、少し前のオレが妄想の彼方に思いを馳せていた、夢にまで見たハーレム的情景が目の前に展開される。

 昨夜も少しその兆候があったのだけど、ボクっ娘が大騒ぎな上にシズさんの酒豪ぶりで台無しになったし、今も朝の静かな空気の中では少しばかり場違いな賑やかさだ。


「キスくらい別にいいんじゃないか。ここはなんちゃってヨーロッパなんだから、挨拶みたいなものだ。私も昨日の夜、唇以外で何度もしただろ」


「あれはお礼だとか言って、酒飲みが暴れてただけでしょ。嬉しいけど、嬉しくないですよ」


「そうか。じゃあショウ、朝の挨拶をしようか。もう酒臭くはないぞ」


「ダメ。そんな軽々しくしないで」


「そうだよ、ダメだよ」


 ケモナー向け美少女になったシズさんに、ハルカさんとボクっ娘が連合した。

 シズさんは会話を楽しんでいる程度なのだと思うが、まあ場慣れしてそうなシズさん以外は、日本人の少女だと思わせた。


 そうして三人が少しの間牽制を含めた視線を投げかけあっていたが、ハルカさんがふいにオレに顔を向けてきた。


「あっ、そうだ。危うく聞き逃すところだったわ。ねえショウ、それでもう一つは?」


「もう一つって何?」


「ショウのこれからの目標」


「ホウ、私も聞きたいな。何をするんだ。いや、したいんだ?」


 三人の視線がオレに集まる。


「オレさ、この世界の事をもっと知りたい。だから調べるための旅に出ようと思う。幸いってわけじゃないけど、この黒いキューブが何かの手がかりになるだろ」


「それが、ショウにとっての某物語の指輪というわけだな」


「不吉なこと言わないで下さいよ」


「単に切っ掛けと言うことだ。とにかく、冒険の始まりというわけだな。私も恩返しを兼ねて付き合おう」


 シズさんが不安になることを言ったので反論すると、なるほどと思える返しと、それよりも嬉しい言葉が続いた。

 そしてその横から、ボクっ娘がグイッとフレームインな感じで覗き込んでくる。


「冒険と聞いて、ボクが首を突っ込まないワケにはいかないぞ」


「二人とも一緒に行ってくれるの、すごく嬉しい。じゃあ、決まりねショウ」


 両手を胸の前で結んで嬉しそうなハルカさんが、さらに二人の輪に加わる。

 そしてオレが、3人に向かい合う感じになる。

 そして3人の期待と楽しそうな表情にも向かい合う事となった。


「えっと、いいのか?」


「そのキューブ以外、他に頼れるものはあるの?」


「……ありません」


「よろしい。じゃあ、フォロー・ミー」


 オレの返事に満足したらしく、ハルカさんがドヤ顔とオレへの疑わしげ表情を合わせた表情から、満面の笑みに変わる。



「でもボクらって、そのキューブ持ってると『帝国』からお尋ね者なんじゃない?」


 オレの冒険は、まだ始まったばかりのようだ。




第一部 完

まずは第一部終幕です。

随分前に書いた本作のリファイン部分がここまででしたので、私自身にとっての一区切りとして一旦完結としました。

この後も、「チート願望者は異世界召還の夢を見るか? 〜聖女の守り手〜」として第二部以後に続いていきます。(第五部で完結。)

別作品として掲載しているので、よかったらご覧ください。

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