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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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105「石巨人(1)」

 シズさんの姿が消えてから、数秒か数十秒が過ぎた、と思う。


「終わったのかしら?」


「さすがに、分からないな。他の場所につながる道などがないか周囲を調べてみよう。シズさんの話しでは、この奥にまだ未調査の空間か部屋がある筈だ」


「ウン。そこに機能停止した魔導器だけが転がってるといいね」


 まだ、半ば呆けているオレを置いて、3人が行動を開始する。

 さすがにオレはショックが大きくて、まだ動ける状態ではなかった。3人もオレの内心を察してくれて、3人は部屋の奥へと進んで他に出入りできる場所がないかなどを探している。


 そうして数分が経過した頃、どこからか「ガラガラ」か「ゴロゴロ」という鈍いくぐもった音が響いてきた。しかも屋内で響くような音だ。

 距離はそれほど遠くはない。

 どこかで誰かが戦うというより、何か大きなものが落ちたような音だ。建物でも崩れたのかもしれない。

 しかし警戒しないわけにもいかず、すぐに周囲の捜索を再開する。


 しばらくするとまた音が響いた。今度は場所もおぼろげながら分かった。奥まっていた場所、今3人が探している場所のさらに奥。岩を組み上げた大きな壁の向こうだ。

 僅かだけど地響きもした。

 慌ててみんなが、動かなかったオレのいる辺りまで戻ってくる。


「何の音だろ?」


「かなり大きいから、さすがに魔女ではないでだろうね。さしずめ、魔女に封じられていた魔物が束縛から解放された、といったあたりかな」


「この場の魔力が濃すぎて、魔力の反応は全然分らないわね。シズに、何かいるか聞いとけばよかった」


 と、そこで、ハルカさんがオレの方を向く。

 表情は、今にも両手に腰を当てて説教しそうだ。


「ホラ、いつまでそうしてるの。ショウが後片付けもシズに頼まれたようなものでしょ。それとも私が気合い入れた方がいい?」


 そう言うと軽く右手をあげる。平手打ち体勢だ。それを見て、さすがに苦笑した。


「平手打ちは勘弁してくれよ。確かにハルカさんの言う通りだ」


「よかった、やる気になってくれて。じゃあ、もし敵が出てきたら時間稼いでね。大きそうだから、念のためとっておきの準備しておくから」


 そう言うと、ハルカさんは地下の広間の入り口近くの平たい場所に手早く簡易魔法陣を作り始め、そこに幾つか呪具を置いていく。

 一人で魔方陣を作る時は、先に魔法でそれを地面に投影して、それに沿って下絵を手早く書いていった。

 アンデッドの集団と戦った時に使った『轟爆陣』の準備だ。


 響いてくる地響きから考えれば、これくらいの強力な魔法があってもいいと彼女は判断したんだ。

 この閉鎖空間で炸裂させればオレ達までもヤバそうだけど、逆に破壊力も相当高まりそうだ。


 その間オレたちは、巨大な敵と戦うための簡単な作戦を練る。

 そして音が変化し、何か大きなものが移動というか歩く音になる。ゆっくりと確実な歩みだけど、かなり遅い。

 地響きから推測できる大きさは、街の広場で出くわしたドラゴンゾンビより大きい感じだ。

 けど、シズさんが残した言葉から、逃げるという選択肢はない。


「結局、相手を見てみないことには、作戦も立てようがないな」


「『帝国』軍の地龍って事はないよね」


「あれを遠方まで運ぶという話は聞いたことがない。それに振動は奥だ。教えてもらったここの構造から考えて、あっちから入ることは無理な筈だよ」


「地龍ねえ。『帝国』ってドラゴンばっかり使役してるんだな」


「確かにね。けどこの音は、四つ足じゃないわよ。二つ足で、一体もしくは一匹ね」


 話していると、魔法の事前準備を終えたハルカさんがオレ達の方に合流してきた。

 魔法には龍石を使うらしく、前回のようにオレの魔力を吸った訳ではないので、いつもの冷静なハルカさんだ。


「よく分かるな」


「これでも昔は、方々のダンジョンや遺跡を荒らし回ったもの」


「その光景が目に浮かぶよ」


「フフッ、ダンジョン攻略は得意分野よ。けど、二つ足って何かしら」


「これほどの地響きをたてるほどの巨人は、滅び去った種族と言われている。だがここは、遥か古の遺跡というから油断はできない。できる限り相手との間合いをとって、威力の高い攻撃が出来るようにしないといけないだろうね」


「ヴァイス抜きだと大物は苦手だなー」


 足音は着実に近づいてくる。

 もうすぐ、空間の一番奥まった場所の向こう側当たりになる。

 扉などは見られないが、何か空間があるのだろう。しかも音の響き方からみて、かなりの広さだ。

 すると、ハルカさんが軽く胸元を押さえた。

 少し気分が悪そうだ。


「魔法使いすぎたか?」


「ウウン。さっきの魔女の魔力を強く感じるのよ。かなり反応強いかも」


「ボクもちょっと気分悪いかも」


「ボクもだ」


 ハルカさんは魔法を使うので、魔力に関する事にはオレよりずっと敏感だ。

 その事は、これまで一緒にいた時にも何度か似たような事があった。


 ボクっ娘とアクセルさんも1属性ながら魔法職に当たるので、同じように感じているのだろう。

 けど、ハルカさんの様子から考えると、今回は一番状況が悪いように思える。


「魔女の魔法に縛られ続けているのかもしれない。今回もショウの出番かもね」


 似たように思ったのであろうアクセルさんの声に、何か気の利いた言葉を返そうとしたその時、部屋の一番奥の壁が激しい音を立て、さらにかなりの量の礫と土煙が飛び散る。


「なっ! でかいぞ!」


「もっと後ろに下がろう!」


「一旦上に逃げる?!」


「あれが魔女本体なら、外に出すわけにはいかない!」


 アクセルさんの言う通りだ。

 未知の化け物の方は、一度で岩を積み上げてでできた壁は砕けず、おかげで事前移動ができた。

 けど、続けざまに何度も轟音が響くと、ものの10秒ほどで壁が砕けちってしまう。


 完全に砕かれた瞬間、大量の石の瓦礫が周囲に飛び散り、さらに大量の土煙が周囲に広がる。

 そしてその土煙の中からユラリと姿を現したのは、やや不揃いな造形の石巨人だ。


「ゴーレム! こんなのもいるのか!」


「いるけど……大きすぎるよ!」



 ボクっ娘の悲鳴をあげ、他の二人も絶句している。それほどの巨大な岩巨人ゴーレムだった。

 大きさは、おっさんオタク達が大好きな画面の向こうで活躍する巨大ロボットの半分くらい、おそらく十メートル近くある。


 これも後で聞いたが、普通は大きくても3、4メートルくらいで、今回のは破格の大きさだ。

 さすが古代の遺品、もしくは魔女のガーディアンといったところだろう。


 『帝国』の探し物って、魔女や魔導器よりもこれじゃないのかと思えるほどだ。

 けど、眺めるような余裕をかましている状態ではなかった。二人が同時にオレの方を見る。


「だが、岩巨人だ。魔の物でも生き物でもない、魔導器の一種だ。魔力を消せば動きも止まる。ショウ、頼む。ボク達が牽制しよう」


「ウン。やっぱりショウの出番だよ。たいていは特製の魔石に蓄えた魔力で動いてるから、それを壊せばいい筈」


「胸と額に大きな魔石が見えるでしょ、あれを一度に壊せば一発で止まる筈よ。逆に片方だけ壊すと、制御不能になって暴れたりるすわ。それに今回の場合は、魔女に手の内を見せる事になるから、一発で決めるのよ」


「けど、どうやって両方斬るんだよ。デカイから、かなり離れてるぞ」


「シズの言う勇者様候補生なんでしょ。ここから助走付けて飛び上がって、大上段から切り降ろせばいいのよ。

 あの力はある程度投射できるみたいだし、身体中の魔力全部解き放つ勢いでいっぺんに斬れば一発で終わるから、むしろ一番安全よ」


 手で指差したり簡単な仕草を見せながら説明してくれる。普通の体なら無理ゲーな動きだ。


「うわ、何その恥ずかしい攻撃。ていうか、そこまでの事がオレできんのか?」


「やるのよ、このポンコツ勇者!」


 彼女の叱咤の言葉には苦笑しか無い。けどそれで、踏ん切りがついた。


「ポンコツでも勇者でもないって。けど、やるよ。確かに頼まれ事だ」


「うん。けど、気負わないでね。ダメもとだし、次の準備もしてあるから」


「おうっ! じゃあ援護してくれ!」


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