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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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102 「王宮の間での戦闘(2)」

 3人の魔法使いが一度に倒されると、形成が一気に『帝国』兵に不利となった。どうやら、オレたちが倒した魔法使いたちは、彼らの前衛に強い支援か防御の魔法をかけ続けていたようだ。

 常時浮かんでいた魔法陣がそれだったのだろう。

 そして支援が無くなると、たちまち一人が炎に包まれる。


 これでさしもの『帝国』兵も動揺するかと思ったが、『魔女フレイア』への包囲の輪——といっても残り四人だったが——を解いて、オレ達というより出口に殺到しようとした。

 相変わらず引き際は心得ている連中だ。


 けれども、彼らの行く手には、オレとアクセルさん、さらに後ろにボクっ娘とハルカさんが控えている。

 後ろではハルカさんのいる辺りがさらに輝きを増した。

 おそらく、近接戦モードに入ったのだ。今振り返れば、美しく光り輝く白銀の甲冑姿が拝めたことだろう。


 けどオレは、そこまで連中を行かせる気はなかった。アクセルさんも同じ気持ちのようだ。二人して無言のまま敵に先手を打つべくうって出た。

 しかしオレ達が新たに切り結ぶよりも早く、少し中側にいた一人が炎に包まれる。


 背後からの一撃とは、『魔女フレイア』はまったく容赦がない。けど、流石にすぐに攻撃出来るのは一人が限界で、残り三人はオレたちをすり抜けようとする。


 当然オレとアクセルさんがインターセプトしたが、流石に手練らしくそれぞれ一人を止めるのが精一杯だった。

 残り一人は二人の間をすり抜け、ハルカさんがインターセプトに入る。そいつはそれすらすり抜けようとしたが、ボクっ娘の矢の速射を受けて抜けきる事ができず、防御全開のハルカさんに抑え込まれてしまう。


「降伏なさい。貴殿らに正義はない! 我はアースガルズ王国、マルムスティーン伯爵が第三子アクセル。貴殿らの身の安全は私が保証しよう」


「神殿からも働きかけます。降りなさい!」

 

 エンゲージした時点で二人が降伏を呼びかける。

 オレの前の男にも言うべきかと思ったが、その瞳を見た時点で無駄を悟った。

 降伏を呼びかけた二人も同じように思っているのだろうが、声をかけずにはいられなかったのかもしれない。

 情報を外に出したくないので、捕まえるか殺すしかないからだ。


「甘いな」


 そこに静かだけど確固とした言葉が響いた。魔女もしくはシズさんの声だ。

 そしてそこに、切り結んでいる3組の間に炎の壁が立ち上がる。


 一瞬オレ達も冷や汗をかいたが、その炎で両者が飛び退くことで接近戦が一度解かれる。

 そして炎の方は、そのまま後ろに下がった黒ずくめの重装備の騎士らしき男達を飲み込んでいった。

 それでも一人が、全身を炎で焼かれながらも進もうとしたが、さらなる追い打ちの炎の槍によってトドメをさされてしまう。


 オレたち4人が手を下すいとまも無かった。


 一方的な戦闘に4人共が毒気を抜かれたように立ちつくしていると、やはりどことなく気軽な足取りでシズさん、じゃなくて『魔女フレイア』がゆっくりとした歩みで近づいてくる。


「ありがとう、みんな。助かったよ。……ああ、随分熱いだろ。すぐに元の温度に戻すから、少し待ってくれ」


 少し精神集中すると魔法陣が3つ現れて魔法が発現し、それまで灼熱のようだった大広間全体の温度が見る見る下がっていく。

 まるで人間エアコンだ。


 そして魔女がオレの5メートルほど前まで来て立ち止まると腕組みをする。


「……フム、少しは反応を示して欲しいものだな。私の態度はそんなに変か?

 まあ、剣に手をかけ続ける気持ちも分からなくはないが、これでも私は正気だ。騙してもいない。我が名と神々にかけて誓おう」


 その言葉に最初に反応したのは、オレの側まで近づいて来ていたアクセルさんだった。


「ご無礼申し上げました。しかし、貴殿のそのお姿と振る舞いには、疑問を感ぜずにはおられません。貴殿は誠、近隣にその御名を轟かせた、魔導師フレイア殿でありましょうや」


「間違いない。我が魂にも賭けて誓おう。我こそがフレイアだ。既に肉体は朽ち果て、かような姿にこそなってしまったが、我が魂はいまだこの中にあり続けている。亡者や死霊などでは断じてないぞ。隣国の騎士殿」


 そう言うと、右手を自分の胸元にあてる。この世界の流儀や仕草が、実に堂に入っていた。

 そしてその言葉に、アクセルさんの方は貴人に対する礼をとって、剣を後ろに置いて跪いた。


「重ねてご無礼申し上げました。もしさらなる無礼でないのなら、事の顛末てんまつ愚昧ぐまいなるわたくしめにお教え願えませんでしょうか」


「承知した。……久しいな、アクセル卿。このような姿の私が言うべきでないかもしれないが、お父上はご壮健かな?

 ところで、今の私はどう見えている? ここには姿を映せるものがなくて難儀していたのだ」


「はい、おかげを持ちまして、父はまだまだ息災にしております。それと貴殿のお姿ですが、仕草や声などは私の記憶に留まるものではあるのですが、お姿がわたくしが記憶する魔導師フレイア殿とは幾分違ってございます」


「て言うかさ、あっちのシズさんまんまです。コスプレみたい」


 オレの素のツッコミに、シズさんが「なっ!」と言葉を失い愕然となっている。

 姿勢まで崩れ、いつものクールな印象は少しも感じられない。

 ボクっ娘も、口を手で押さえてクスッとしている。


(なんか、疑うのも馬鹿馬鹿しくなってきたなあ。けど、ギャップ萌えでカワイイかも)


 そう思うくらいに、心に余裕もできた。


「久しぶりシズさん。いつも目にはしてるから、ちょっと違和感あるんだけどね」


「そうだな。ずいぶん久しぶりだな、レナ」


 ボクっ娘の自然な話しぶりに、シズさんもペースをすぐに取り戻したようだ。

 そして彼女にとっての新参となる女性に視線を向ける。ハルカさんもそれを待っていたようだ。


「初めまして、ハルカです。って口調でいいんでしょうか?」


「ああ、構わないよ。ショウから話しは聞いている。初めましてハルカさん、私が常磐静だ。まあ、適当に呼んでくれ」


「じゃあシズで。ところで、ショウが私のこと変に言ってませんでしたか?」


「いいや、綺麗な人だと誉めていたよ。で、私も呼び捨てにさせてもらうよ」


 二人が見つめ合ったあと、それぞれの気持ちを込めてオレに視線ビームが飛んでくる。

 二人の間にも、微妙に緊張感が漂っているように感じたのは、オレの気のせいではないと思う。

 が、それも少しの間だけだった。


「あっと、申し訳ないアクセル卿。まあ、見ての通り、私は以前の私ではないようだ。この二人とも同郷のようなものだ。アクセルもあわせて、儀礼抜きで接してくれると助かる」


 いつの間にか立ち上がり、みんなのやり取りを静かに見守っていたアクセルさんが、ややぎこちなく握手のため右手を差し出した。


「分かりました。では改めて、シズさんでよいでしょうか。私の事も敬称抜きでお呼び、いや呼んでください」


 その右手に、シズさんが少し困惑した表情を浮かべる。


「すまない、アクセル。今の私は全て素通りしてしまうんだ。この衣服も、幻覚の魔法で見せかけているに過ぎない。この半透明のかりそめの身体は、恐らく死霊のように薄い魔力の集りでしかないんだ。おかげで、『帝国』兵の攻撃はほとんど通じなかったがな」


 そこで一旦居住まいを正すような仕草をしたシズさんが、全員をゆっくりと見回す。


「さて、恐らく時間がなさそうなので、現状を手短に説明させてもらおう。

 言うまでもないが、私は『魔女フレイア』だ。しかし、今のこの私は本体とでも呼ぶべき存在の、残り滓のようなものでしかない」


 そう言って右手を自身の胸元に当てる。


「そしてここ一週間ほど、以前から私が手に握っていた魔導器と自分の精神体や死霊とでも呼ぶべき身体の主導権を奪い合っていた。

 そこに『帝国』の兵士が何かの魔法で強い干渉をかけたおかげで、魔導器の方が私の半身を持って地下に逃げ出してしまったんだ」


「じゃあ、さっきの爆発音がそうなんですか?」


「それほど前ではないから、同じ爆発だろう。それでだ、ヤツも魔法を使うには私の精神とでも呼ぶべきものが必要らしく、そんなものまで切り離して持って行ってしまったらしい」


「そんな事が起こるんだね」


 流石の事態にボクっ娘が唖然としている。全く同感だ。

 シズさんもそう思っているようで、何とも言えない苦笑いを一瞬浮かべる。


「全くだ。しかもその影響で、今の私はどうやら怒ったり悲しんだりといった人としての負の感情を持ち合わせていないらしい。

 しかも魔法を使うとき、戦闘をするときに感情を強めると、精神集中すら出来なくなってしまうので、出来る限り平静でいなければならなかった。ここまでは理解してもらえただろうか」


 言葉使いが少し難しいが、こういう話し方の方がアクセルさんには理解しやすいようだ。

 全員の沈黙を了解ととったシズさんは、小さくうなずくと続けた。


「ウン。それでここの地下には、私の心の半分とヤツの本体の魔導器がいると考えられる。そして負の感情の塊となった私の悪い部分を持つヤツは、今や爆発寸前だ。

 次に大きな心理的衝撃を与えると、恐らく酷い事になる。戦闘など以ての外だ。だから私は、この場でこれより先に誰も行かせないようにしていた」


 そこで一旦言葉を切ると、視線をオレ達から少し外す。

 そこには、『帝国』の遺体の一つがあった。


「本当は話し合いで決着が付けばよかったのだけど、『帝国』兵は話を聞くだけ聞いて交渉するふりをして、その後は私を排除しようとした。だから今の戦闘も止めようがなかった。そして話した以上、逃がす訳にもな」


「あの、それで酷いことって」


 内心分かっているのだろうが、それでもハルカさんが問いただした。


「決まっている。復讐と破壊だ。今の私の負の感情には、それしか残っていない。この私が半分に切り離されたのも、情けない話しだけど、私自身が私の負の心に耐えられなかった事も影響していると思う」


 そして次に何かを言う前に先に下を見る。

 その先に、オレ達の倒すべき敵が居るのだろう。


「ヤツはこの下から出たら、この国を滅ぼした国々へ復讐を果たすために進んでいく筈だ。もしかしたら、今地下でその準備をしているかもしれない。だから、誠に申し訳ないが、皆さんの力を貸してほしい。この通りだ」


 シズさんが深く静かに、全員に向けて頭を下げた。


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