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日帰り異世界は夢の向こう  作者: 扶桑かつみ


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100「王都侵入(2)」

「じゃあ、行こうか」


 今回は前衛を務めるアクセルさんの声を合図に、焼けこげて真っ黒けになった石造りの廃城を目指す。

 やってきた時間がよかったのか、周囲に魔物も亡者もいない。『帝国』の兵隊もいなかった。


 けど、貴族街の半ばに差しかかると、恐らく今日行ったであろう戦闘のあとが生々しく残されていた。

 そこかしこに、亡者となった人間が残した装備やその残骸が散見できる。崩れ始めている何かの魔物の死骸もあった。

 破壊されたスケルトンの数も半端な数ではない。明らかに、廃墟となった後に戦闘が行われた証拠だった。


 そしてアンデッドの成れの果ての近い場所に、今日死んだばかりと思われる兵士達の死体がそこかしこに転がったままになっている。


「これ『帝国』の兵隊だよな」


「こっちの鎧付きスケルトンは、死霊騎士アンデッドナイトだよね。それとも馬の骨はないけど、首無しはデュラハンかな?」


「宮廷魔導士だったアンデッドもいるんでしょう?」


「それっていわゆるリッチじゃないのか?」


 リッチが通じないかもと言った後で思ったが、ハルカさんは普通に理解していた。『ダブル』が持ち込んだゲームオタク用語の浸透度合いが分かる一瞬だ。


「自力でアンデッドになったわけじゃないから、単に魔法が使える亡者じゃないの?」


「何にせよ、動くヤツはいないな」


「昼間だし日陰に隠れてたりして」


「何にせよ警戒しつつ進むしかないだろうね」


 そこで進行先に大きな光が見えた。王宮の内部からのもので、規模はともかく色から考えて火もしくは炎の色だった。

 そしてその光のすぐ後に、くぐもったような衝撃音が響いてくる。

 王宮内で戦闘が行われているのだ。


「急ごう!」


 オレはそう言い、アクセルさんに並ぶような形で進んだ。後ろにはハルカさんとボクっ娘が続く。

 そして急いで突入した王都ウルズの王城内は、まさに死の城だった。


 城を覆った火災の炎のために全ての可燃物が焼けてしまい、石造りの構造物だけが煤で汚れた無惨な状態で残されていた。

 焼き煉瓦を使うことは珍しいため、目に映る人工物のほぼ全てが石か金属だった。


 太い木材の梁などが焼けた状態で残されている事はあるが、たいてい木で作られている屋根もほとんどが焼け落ちて、屋内でもこの世界特有の二つのお月様を見ることができるだろう。


 例外は屋根も石など不燃物で作られた王宮の本宮で、今回の目的地はその中央にある大広間の方だ。

 天井まで石で組み上げられた、国家規模を考えると贅沢な構造を持ち、内部空間もかなり広そうだ。


 そして今、オレ達4人は城の水堀を持ち前の身体能力に任せて飛び越え、そのまま一気に走る。

 堀を越える少し前に城の中心部で爆発音がして、その後剣戟のような音を聞いたからだ。


 王宮内に入っても、『帝国』の兵士や騎士、魔法使い達の無惨な死体が数体転がっていた。

 死体は今できたばかりのように新しく、周囲に砕かれた多数の骨と武具も見受けられた。


 中には魔法のローブとスタッフだけが落ちていたりもする。そのうち一つは、かなりの品のようだった。

 そして近くには、鎧をまとったガイコツの残骸がそこかしこに転がっている。

 まるで『帝国』軍が、アンデッドの排除をしてくれたみたいだ。


 戦闘の跡は、王宮の大広間へと続いていた。

 戦闘の音も激しさを増しているし、王宮中央の建造物からは、炎などの光が発生しているのも分る。

 大広間は非常に広く石造りで形を完全に保っている。


 また、外からの光も射しているように、事前に聞いた構造では外からも直接入れなくもない。

 今は扉を無くしている正面扉からでなくても、屋外からも入る事ができる筈だ。オレ達の身体能力なら、ちょっとジャンプすれば外から覗き見る事もできるだろう。


「あの中にいるって事だよな」


「ええ、体勢を整えて行きましょう」


「いや、今は『帝国』軍と恐らく魔女の亡霊が戦闘中だ。気づかれない様に近づいて、まずは状況を確認しよう。このまま突っ込めば、双方から攻撃を受けてしまいかねないからね」


「漁父の利を狙うんだね」


 騎士にその言葉はないだろと思うが、アクセルさんは気にしていない。なら、作戦はそれで良いという事だ。

 しかしこのままでは、アクセルさんは目立ち過ぎる。


「どっちにせよ、偵察はオレとレナだな。アクセルさんじゃ音がたちすぎる」


「だね」


「じゃあ、私とルカは周囲を警戒しておくので、二人はそれぞれ別の隙間や窓から中を少しだけのぞいて、すぐにまたここで合流しよう」


「二人とも気をつけてね」


 4人はうなずきあい、それぞれ行動を開始する。

 オレは右、ボクっ娘は左から、ハルカさんとアクセルさんは正面扉の前を避けた場所で待機しつつも周囲の警戒する。


 オレとボクっ娘が、今は何もはまっていない窓から屋外に出て大広間に接近する間も、中では激しい戦闘が行われている様子だった。

 魔力と爆炎の輝き、そして爆音や金属の音がひっきりなしに窓や隙間から漏れてくる。

 それに、やけに暑い熱気が部屋から継続的に吹き出している。


 オレは向こう側のボクっ娘に視線で合図を送りつつ、縦に細い窓から中をのぞき見る。

 そして驚いた。

 驚きのあまり、しばらく息が止まったほどだった。


 焼けこげボロボロになった広間の真ん中辺りに、一人の女性が戦闘中なのに場違いに落ち着いた仕草で立ち、その周囲を半包囲するように数名の重装備の戦士達が取り囲んでいた。

 その後ろにも数名いて、恐らくは魔法のため精神集中をしている。

 彼らの足元には、骸骨と骸骨の装備も幾つか転がっている。


 その中で何よりも驚いたのが、『魔女フレイア』の姿だった。

 服装は胸元を強調した、この時代の支配階層や富裕層が着る貴婦人用のドレスらしく、いくつか装飾品らしい輝きも見えている。


 けど、その中の人影は半ば透けていた。向こうの景色が少し見えてしまっている。

 それだけなら驚きも少ないのだけど、何よりもオレを驚かせたのは、顔立ち、髪の色、髪型の全てが、現実でのシズさんそのものだったからだ。


 これがいつものしょーもないモードなら、「おや、バグですか」などとボケていただろう。

 けど、オレは完全に固まっていた。

 正気に戻れたのは、耳元でささやくボクっ娘の声を聞いたからだった。オレの様子が変なのを見とがめてか、先にこっちに来てくれたようだ。


「ちょっとショウ、何ボーっとしてるの。見とれてるんじゃないよね」


 ちゃかしているが声は真剣だ。気付いたオレも、なるべく真剣にボクっ娘の顔を見返す。


「シズさんだ。間違いないよな」


「『魔女フレイア』でしょ」


「だから違うだろ。現実世界の常磐静さんそのものの姿だろ。見て分かんないのか?」


 一瞬ボクっ娘が呆然とする。


「そんな事あり得ないよ。ボク、今までそんな話し聞いた事がない」


「じゃあ、もう一度ちゃんと見てみろ。あんなまんま日本人が、ここにいるか?」


 オレに促されて、ボクっ娘がさっきまでオレが見ていた窓から少しだけのぞき見る。

 すぐ間近で見る戦闘モードのボクっ娘の顔はなかなかに凛々しく、髪型も合わさって少しヒーロー漫画の少年主人公っぽい。

 けど、こっちを振り向いたボクっ娘の顔は困惑気味だった。


「確かに、そう、だよね。あっちは光の反射も強くてかなり透けてたから気付かなかった。先入観もあったんだろうね。でも、どうして」


「さあ、意識だけだからかもしれない。肉体はもうないわけだからな」


「なるほどね。ウン、その線はありそう」


「で、どうする。戦闘はシズさんの圧倒的優位って感じだけど」


「とにかく、二人に一度合流しなきゃ」


 確かにその通りだ。オレはシズさんが気になったが、とにかく二人してさっきの場所まで戻る。



「どうだった?」


「何があったのかな?」


「はい。戦闘は『魔女の亡霊』が圧倒的に優位でした。けど、ちょっと説明が難しいんだけど、オレの見たところ外見は『魔女フレイア』というより、もう一つの世界でのその人そのものなんだ。けど、理由が今ひとつ分からなくて」


「魂だけ、という事?」


「そうとしか思えないよ」


「簡単に滅ぼす、と言うわけにはいかなさそうだね」


 4人してその場で悩み込む。しかし、すぐにオレは決意した。


「あの、一度シズさん、いや『魔女サイレン』と話してみたい。だから、みんなは何かあったとき、オレをサポートして欲しいんだ」


 オレの言葉にハルカさんが苦笑しているので、オレも苦笑で返した。


「止めても無駄ね、ってお約束の言葉をかけてほしいの」


「ボクはもともと、お三人を守るためにここまで来たんだから今更是非もない」


「ボクも異存なしだよ。向こうで見知ってるショウにしかできないだろうし」


 みんなの言葉にうなずいたオレは、武器を収納して立ち上がり、今度は既に扉のない正面扉に向かって進んだ。

 部屋の中から聞こえる戦闘音は徐々に小さくなっているが、まだ続いている風だった。


 オレは直前で一度立ち止まって大きく深呼吸をしてから、中へと足を踏み入れた。


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