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ネクロポリス・リバーサイド・スクール  作者: 夕月萌留
NRS―壱の章―
4/42

1-4

 〝一振のやつまた失神しちゃって、肝心な時に役に立たないんだからぁ〟

 これは藍梨栖の心の中の声だ。僕は今、藍梨栖の視界を通して目の前の光景を見ている。藍梨栖が心の中で思ったことは僕の意識にも伝達される。これが僕の持っている特別な力『同調能力』だ。僕の精神が自分の肉体を離れて他人に乗り移ってしまう能力と言えばいいだろうか。どういう原理でそうなるのかは僕にもわからない。そして、困ったことにこの力は自分でコントロールすることができない。何らかの特殊な状況に陥ったときに勝手に発動してしまうというとても迷惑な力だ。

 コントロールできないのは僕が未熟なせいなんだろうけど……。

 能力が発動すると僕は気を失い、僕の体は大抵床に這いつくばって世間様に醜態を晒す。他人にはよく失神する気弱なやつって思われるし、特別な能力だというのに何もいいことがない。

〝早く追わないと取り逃がしちゃうし……〟

愛梨栖の心の声を聞いて僕は現実に引き戻された。目の前には床に這いつくばる僕の体がある。これがまだ事件現場にあるということは失神してからそれほど時間が経っていないという証拠だ。

〝しょうがないなぁ。一人で行くしかないか〟

 愛梨栖が顔を上げたとき、廊下を走り去っていく犯人の後ろ姿が見えた。その先には騒ぎを耳にして廊下に出てきた数人の生徒がいた。彼らは刃物を持った目出し帽の人物が自分たちのほうへ走ってくることに気がつき、悲鳴をあげながら教室に逃げ込んでいった。

「これを保健室に運んでおいて」 

 藍梨栖は近くの教室にいた男子生徒たちに僕の体を押し付けると犯人の追跡を始めた。

「ちょっと! そこの帽子のっ――まちなさーいっ!!!」

 当然、待てと言われてそのとおりにする犯人ではない。

「×△■○☆■×! ×△■○☆■××!! △■○☆■×★!!!」

 犯人に止まる気がないことを確認すると、藍梨栖は女の子が決して口にしてはならない単語を連呼し始めた。藍梨栖の人となりを知らない人たちがこれを聞いたなら思わず耳を疑っただろう。キレたときの彼女は本当に――残念だ。愛梨栖は罵詈雑言を犯人に浴びせかけながら追跡を続け、やがて廊下の端に到達するとその角を右に曲がった。その先には中等部管理局の執務室もあるが、そこにたどり着くこともなくこの追いかけっこは唐突に終わりの時を迎えた。

〝ちっ、先を越されたかっ!! もう少しだったのにぃ~〟

 藍梨栖が悔しがる。それもそのはず、なぜならさっきまで全力で逃げていた犯人が廊下の角を曲がった先のところで倒れて伸びていたのだ。そして、倒れた犯人の向こうには二人の生徒(♀♂)の姿があった。どうやら、そこにいる女子が振り上げている美脚に犯人はのされたらしい。

 しかし……まぁ、なんという絶景かな……。

 僕は見えそうで見えない桃源郷に思わず見とれてしまっていた。

「いったいどこの馬鹿が大声あげて騒いでいるのかと思えば、中等部管理局の『戦う局長』さんじゃあねぇぇぇかぁああ。なぁ、入奈ぁよぉぉおお」

兄様(にいさま)、早く帰ろ。入奈疲れたよぉ」

 侮蔑を含んだ笑みを浮かべて藍梨栖を睨みつけているのは倉敷宗谷(向かって左側の♂)だ。そして、宗谷にまとわり着いて気だるそうにしているのが倉敷入奈(振り上げていた美脚を下ろした右側の♀。桃源郷が遠ざかってしまったことは残念極まりない)。この二人は校内でも有名な保安局所属の兄妹だ。

「保安局二課のWA(ダブルエース)がわざわざお出ましになるとは……ね」

 藍梨栖は二人のことを警戒しながら倒れている犯人の様子を伺っていた。中等部管理局に強引に入局させられてから早一ヶ月。その間、耳にタコができるくらい何度もこの二人の話を聞かされていたけど実際に会うのは始めてだ。

 今は藍梨栖の視界を通して二人をみているだけだから会ったとは言えないか……。

「これ以上こいつに好き勝手やらせるわけにはいかねぇぇぇ。そうだろぉ、入奈ぁよぉぉおお」

「兄様、もう帰ろ。入奈、足痛くなってきたよぉ」

〝く~っ、せっかく中等部管理局の名声を高めるチャンスだったのにぃ!〟

 中等部管理局は元来事務的な仕事しかしていなかったのだけれど、藍梨栖が局長に就任してからは精力的にパトロールをこなして治安維持に努めている。でも、それは保安局の仕事の領域に踏み込むことでもあったんだ。藍梨栖は強い使命感に駆られてそのような方針をとったらしいけど、自分たちの業務領域を侵害された保安局の局員たちは怒り心頭だったに違いない。それ以来、中等部管理局と保安局との間には大きな確執――なかなか埋めることのできない溝が生じていた。

「あんたたち、そいつをどうするつもり?」

「こいつの身柄は保安局で確保するからなぁぁあ。こいつは痛い目を見た後、いろんなことをゲロッちまうことになるだろうぜぇぇぇ。なぁ、入奈ぁよぉぉおおお」

「兄様、さっさと帰ろ。入奈もう飽きちゃったよぉ。――こんなクズどうでもいいしぃぃぃ」

 さっきまで気だるげな様子だった入奈がいきなり豹変した。思わず仰け反りそうになるほどの鋭い眼光で犯人を睨みつけると、入奈は犯人の目だし帽を一気に引き剥がした。

「中等部三年クラス〝ゼロ〟――有働(うどう)修太(しゆうた)。兄様と二人きりの大切な時間をよくも奪ってくれたわねぇぇぇぇ」

 宗谷と入奈の二人は中等部校舎内の警邏を担当する保安局二課においてWA(ダブルエース)と称されるほどに腕が立つ。だが、その性格ややり方を含めて生徒の中での評判はあまりよくないらしい。

「動機は能力開発に失敗した腹いせ? 人間自体がクズならやることもクズクズクズだねっ」

「もうそのくらいにしておけ入奈ぁぁあああ」

「じゃあ兄様、帰ろ帰ろ帰ろ。入奈、警邏より会議の方が好きだよ」

「お前の言う会議はただの駄弁りじゃねぇぇかぁ」

 二人がじゃれあっている間、愛梨栖は犯人を取り返すためにずっと機を伺っていたが、さすがにこの二人がそんな隙を見せるはずがない。先に犯人を確保されてしまった以上、ここは引き下がるしかなかった。

「しょうがない。今回の手柄は保安局に譲るわ。でも、次の事件は必ずうちが解決してみせるから」

「お前がその辺をうろちょろするのは構わねぇぇがなぁぁ。邪魔者は誰であろうと排除するのがオレらのポリシーよぉぉおお。もし、仕事の邪魔になるようなら、容赦なく叩きつぶすから気ぃぃい付けることだぁぁああ」

「兄様、ほら手錠したよ。早く早く早く早く早くぅ」

「よぉしいぃいい、偉いぞぉ入奈ぁぁああ」

「きゃあっ、兄様に褒められちゃった」

 宗谷は犯人の体を軽々と片手で持ち上げて肩の上に担ぎ上げた。その怪力は誰がどうみても宗谷の体格に不釣り合いなものだった。

「じゃあなぁぁ、中等部管理局の戦う局長さんよぉぉお」

こうして倉敷兄妹はまんまと手柄を横取りし悠々と引き上げていった。ひとまずNRSを騒がせた連続傷害事件は無事に解決したのだった。

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