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そうだ……。僕は藍梨栖に教室から連れ出されて……。
藍梨栖はそのまま僕を中等部管理局の執務室へ連れて行き、二人きりの密室状態を作りあげた後、強引に中等部管理局への入局を迫ってきた。その有無を言わさぬ迫力に僕は早々と白旗をあげて、彼女の望み通りNRS生徒会中等部管理局の一員になったのだ。一員と言っても特に役職を持っているわけではない。今のところ雑用係みたいなことをやらされている。ことあるごとにこき使われ、いつも散々な目にあわされてきた。
もしかすると、今のこの状況は藍梨栖に無茶振りされた挙句に天国に召されてしまったということかも……。
そうなっても不思議ではないくらい藍梨栖の人使いは荒かった。そして、どうやらそんな僕をここから連れ出そうとする輩がいるらしい。
まさか、あれがいわゆる天使というやつか……?
遠くで手を振る人(天使?)の姿が見えた。手を振りながら何かをしきりに叫んでいる。
嫌だ。もし今天国にいるのなら、ずっとここに居させて欲しい。
――と思ったそのときだ。
「一振っ!!! 一振ぃ――――――!!!」
突然、大きな声が頭の中に響いた。それは聞き覚えのある声だった。その攻撃(口撃?)とも言える声の一撃のおかげで、僕は現実を認識し失っていた少し前の記憶を取り戻した。
一 僕は藍梨栖と一緒に校内パトロールをしている最中だった。
二 そのパトロール中、中等部二年のクラスが並ぶ三階南廊下で事件が発生した。
三 目の前には顔を切りつけられてうずくまる生徒(♀)がいて……。
四 犯人と思われる人物が僕を見た。(目だし帽着用、手には刃物←ヤバイでしょ)
五 藍梨栖が僕の後ろに回り、慌てふためく僕を盾にとった。(なんてことだ!)
六 藍梨栖の小ぶりな胸が背中に押し付けられる格好になり、
幸か不幸かわからない状態に……。(うへっ)
七 眩い光に一瞬眼が眩んだ直後、視界が闇に覆われ僕は意識を失った。
極度の緊張、言い知れぬ恐怖、抑えきれない興奮などの様々な心理的負荷が重なり――つまりは気が動転しすぎて――失神したことを僕は認識した。
――ということはだ。もし、いつもと同じパターンなら、例の状況に陥っているはずだ……。
意外と冷静に分析していることに自分自身が一番驚いていた。昔は研究機関の指導者の手を借りなければ混乱状態から脱せなかったくらいだから、この状況はかなりの進歩だと言っていい。あそこでやってきたことが間違いではなかったということの証明でもある。僕は確かに落ちこぼれではあったけれど、訓練に対して真摯に向き合ってきたことは紛れもない事実。例えそのときは結果が伴わなかったとしても、そういった過程はどこかで自然と実を結ぶものなのかもしれない。
――などと考えている間に僕の意識は段々と回復していき、やがてあたり一面暗闇だった世界が光を取り戻した。完全に覚醒して視界が開けたそのとき、最初に僕の両目に飛び込んできたのは予想していたとおり――失神している自分自身の姿だった。