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朝のホームルームが終わりに差し掛かったとき、教室の前方のドアが勢いよく開いた。ドアの向こうから現れたのは小柄で華奢なツインテールの女子生徒だった。その娘がキョロキョロとあたりを見回しながら『近衛一振はいる?』と言ったので、皆の視線が彼女から僕のほうへと一斉に移動した。クラスメイトたちの視線を案内板代わりにして、ツインテールの女子生徒は迷うことなく悠々と僕の席に向かって歩いてくる。
なんだろう……。僕に用事?
僕は皆の視線に耐え切れず顔を下に向けてじっとしていた。一歩一歩を踏みしめるようにして歩く足音がしんと静まり返った教室に響く。緊張感が高まり鼓動が早くなる。
この僕にいったい何の用があるっていうんだ?
その足音が僕の席のすぐそばまで来たとき、僕は顔を上げてそこにいる女子生徒の顔を見た。――と同時に、その娘は僕の右腕をがっちりと掴んだ。
「えっ……えぇっっ?」
彼女は僕の右腕を掴んだまま離そうとしないどころか、強引に僕の腕を引っ張り何処かへ連れ出そうとする。
「ちょっ……ちょっと、待って」
「いいから、あたしに付いて来なさい」
制止する先生や唖然とする他の生徒に対して彼女が言い放ったのは『局長権限』という言葉だった。これが彼女――NRS生徒会中等部管理局局長こと、日野愛梨栖との最初の出会いだった。