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ネクロポリス・リバーサイド・スクール  作者: 夕月萌留
NRS―四の章―
16/42

4-3

 気がつくと僕は自分の体を見下ろす状況にあった。これまでに何度も経験してはいるけど失神した自分の姿を見るのはやっぱり情けない。

「ただいまぁぁあ~~、あれっ、皆どうしたの?」

 玄関のほうから聞き覚えのある声がした。

「あっ、藍梨栖ちゃん。お帰り……かもです」

 その声は愛梨栖のものだった。中等部管理局の仕事が終わって帰宅したようだ。

「どうもこうも、このエロ不審者が姉貴の入浴を覗こうとしたんだぜ?」

「それでヨーコはそんな格好をしているのね」

 藍梨栖が僕――ではなく、僕が同調してしている人物ヨーコというらしいをじろじろと見た。下着姿の上にバスタオルを羽織っている――どうやら、先ほど見事な平手打ちを僕に食らわせたあの女の子と同調しているみたいだ。

「恥ずかしいので、あまり見ないで……。この人は藍梨栖さんのお知り合い?」

 藍梨栖は倒れている僕の体をじと目で見下ろしている。

「ごめんね、いつもの事なんだ。いや、その……こんな感じでよく失神するって意味ね」

「覗きとか痴漢とか、ヘンタイ行為をして回ったあげくに失神するなんてふざけたヤツだな」

 木刀を持った凶暴そうな女の子が今にも襲い掛かりそうな感じで僕の体を睨み付けている。

「と、とりあえずベッドにでも運ぶわ。目が覚めたら紹介がてらいろいろと説明するからさ。悪いんだけど手伝ってくれる?」

「お姉さまは早くお清めを済ませて欲しい……かもです」

「姉貴、ここはうちらに任せてくれよ」

「う、うん。わかった。じゃあ、あとお願いね」

 そう言ってヨーコは先ほどまでいた脱衣スペースに戻って引き戸を閉めた。引き戸の左側には洗面化粧台と三つの洗濯機が並んでいる。正面はバスルーム、右側がシャワーブースになっていた。シャワーブースの扉の横――壁際に衣服とタオルを入れるための籠が置いてある。当然、ここに来た目的は一つしかないわけで――

 わっぁぁぁあわぁわぁぁぁあ!! ■△☆○×

 わかってはいたけど、いざその状況になってみると脳内はパニック状態だ。目の前で繰り広げられる光景は言葉で表現しようがない。瞼を閉じようとしてもできるはずもない。意思の問題ではなく物理的にだ。僕の意思とは無関係にエデンの園が向こうからやってくる。ヨーコは一糸纏わぬ姿になるとシャワーブースに入った。


 ららら♪ ららぁん♪ ふんふふーん♪


 陽気な鼻歌とともにシャワーを全身に浴びる。その美しい髪を洗い、上から下へと順に体の各部位を洗っていく。僕にとってこの状況はさすがに刺激が強すぎた。僕の同超能力は対象者の視覚を共有し、対象者が心の中で強く思ったことを感じることのできる能力だ。その性質故に他人の入浴を覗き見しているような気分だった。正直、ヘンタイ呼ばわりされても何も言い返せない。

 気が気でなかったせいかシャワータイムはあっと言う間に終了した。ヨーコはシャワーを止めてブースを出ると、籠の中に入っていたバスタオルを一枚取り出し丁寧に体を拭いた。さっと着替えを済ませると脱衣スペースを出てダイニングキッチンに移動し、右奥のキッチンに進んで冷蔵庫を開け『ヨーコ』と手書きで書かれている清涼飲料水のペットボトルを取り出して蓋を開けて飲み始めた。

「んっ……んっ……んっ……んっ……ふぅ~。今日は本当に色々と大変だったなぁ。さっ、部屋に戻ろ」

 まだ半分くらい中身の残っているペットボトルを冷蔵庫に戻したとき部屋の入り口のドアが開いた。振り向くとそこにはさっき僕を木刀とスプレーで襲撃した二人組がいた。

美佐(みさ)(きり)、どうしたの?」

「姉貴、今日はうちら気持ちが抑えられなくて」

「そう……わかったわ……着いてきなさい」

 ヨーコは廊下を出て階段を上り二階に移動した。二階には五つの部屋があり、そのうちの一つ『ヨーコの部屋』と書かれた表札が掲げられている部屋に入った。部屋の中は綺麗に整頓されていて、ベッド、机、ドレッサー、衣服をしまうチェスト、本と小物が置かれている棚などがあった。ヨーコは部屋の照明を点けると入口のドアを閉めた。

〝二人ともこんなに不安そうな顔をしちゃって〟

 ヨーコは二人の様子を伺いつつドレッサーの前に移動して、引き出しの中から剃刀を取り出した。

 剃刀なんか取り出して、いったい何をするんだ? 僕がそう思った直後――

「ちょっと我慢してね」

 ヨーコは自分の唇に小さな傷をつけると美佐に対しても同じ行為を行った。二人の唇から一滴の赤い雫が滲み出す。

 何をしてるんだ? 

「大丈夫……安心して。力を抜いて、私に身を委ねなさい」 

 ヨーコは美佐の唇の上に自分の唇を重ねた。美佐の顔は幾分上気しているように見える。唇を重ねたまま二人はお互いに体を密着させて瞼を閉じた。

 それから程なくして僕は今まで感じたことのない異常な感覚に襲われた。視覚が認識している光景とは全く異なる映像が僕の意識に流入してくる。

 うぅ、く、苦しい。

 映像の流入とともに胸が締め付けられるような感覚、頭が重くなるような感覚に襲われた。今まで幾度も能力は発動してきたがこんなことは初めてだった。流入してくる映像はさらにその鮮明さや容量を増していく。

 頭が……割れるようだ……。

 映像の流入は止まる気配がない。僕は激しい頭痛に襲われた。能力の発動中に痛みを感じるのも初めてのことだった。

 ま、まずい、なんだ……これ……………………………………。

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