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この世界で目覚めて最初に見た景色が、眼前に広がっている。
聖堂のごとき学舎に、生徒を迎え入れる鉄の門。あの日と違うのは、今の時間帯に登校する生徒が自分一人しかいないことと隣にグレイがいない、ということだけ。
「行ってらっしゃいませ、お嬢様」
いつもよりも少し早めの時間に起こされ、あれよあれよという間に登校時間になっていた。ここ数日部屋着のワンピースしか着ていなかった体に、制服は少し窮屈だ。グレイによってきっちり着込んだ制服は、1年生特有の少しサイズが大きいということはなく、体のラインにきちんとあっている。男子であるはずの体を隠すように露出は少なめで、スカートはきっちりひざ下まである。裾がひらひらと揺れるさまをぼんやりと眺めながら石畳を進むと、玄関口に人影が見えた。
長い金色の髪の目のさえる美少女だ。
彼女はこちらに気が付くと、意思の強そうな目をさらに細めながら値踏みするようにこちらを見た。
「待っていましたわ」
腕を組みながら少し高圧的に見えるその態度に頭の中で何かがひらめいた。
―――この子、シレイネ・バレットだ!
シレイネ・バレット。
いわゆる乙女ゲームにおけるライバルキャラ。ラブラビの舞台であるリシュティナ王国の第二王子、グレイス・リシュティナの婚約者であり、ティスティアと並ぶ四大公爵家の一つバレット家の長女だ。
幼少期より王室の教育を施され、国母になることを前提に育てられた少女。さらには『月のない冬の夜に生まれた金の髪に金の瞳の少女と王子が結婚すれば国は安泰である』という神託を受けた少女とされている。同年代より大人びている彼女は見る人にとっては高圧的だった。
「初めまして、私はバレット家が長女、シレイネ・バレットと申します。これから三年間、どうぞよろしくお願いいたします」
両手でスカートの裾をつまみ、膝を曲げて深々とお辞儀をする。嫌味なくらい美しい挨拶だ。
「こちらこそお初にお目にかかります。ノイツ家のティスティア・ノイツです。至らないところがあるかと存じますが、どうぞ仲良くしてくださいね」
ここ数日で身に着けた即席の挨拶で返す。彼女に比べたら優雅さのかけたぎこちないものだろうが、しないよりましである。
「別に私はあなたに何か秀でたものを求めているわけではありませんので、かしこまる必要はありません」
顔を上げればそう言葉にした彼女は背を向けて歩き出していた。慌ててそれを追いかけるように足を進める。背筋を凛と伸ばし、堂々と歩く姿はまさに孤高の花。俺がさえない男子高校生のままだったら一章死ぬまでお近づきになれないタイプの隙のない美少女。
「ねえ、あなた。歩くときに足音をそんなに立てるのははしたなくってよ」
なんとか追いついた俺にさらっと冷たい一言。
そう、彼女は、人付き合いがど下手くそなのである。




