4.第一章、第一節、第四項
5.
第一章
第一節
第四項
ドカラッ、ドカラッーー。
(どうか、ご無事でいてくださいッーー。)
馬に跨り、地を駆けるアリア。向かうは獣たちと同じ方向だ。龍脈は川に沿っていたり、山と山の間の谷に沿って流れていることが多い。アリアが水浴びをしていたあの川、あそこが龍脈の流れている場所ではないかとアリアは推察していた。
その近くの村に住む人々は無事なのか。ただ無事を祈り、駆ける。今のアリアに出来る精一杯だ。
ドカラッ、ドカラッーー。
ドッドッドッーーー。
(なにか・・・くるっ!)
咄嗟に、背負っている大太刀ではないもう一本の刀を抜く。小回りのきく、普通サイズの刀だ。
ギンッ!
刃と刃が混じり合うような、金物同士が擦れ合う音が鳴る。獣の爪だ。
(咄嗟に抜き、身を守れましたが・・・なんてスピードッ!危うく腕を持っていかれかけました)
先を見据える。
そこには数十匹の獣が此方を伺っている。
どれも慰めにもならない、小さいとは言えないサイズばかりだ。
(これは・・・不味い、ですかね)
幾ら副隊長と言えど、このサイズのこの量の獣を相手取るのはほぼ不可能に近い。
(良くて相打ちまで持って行きたいところですが・・・)
アリアは死を覚悟した。
1匹でも多くの獣を道連れにしようと心に決めて。
ふと、青年の姿が脳裏をよぎる。
ここでアリアが斃れてしまえば、あの青年は、あの青年が住まう村はどうなる?と。
しかし現実は残酷で、目の前の獣の群れを斃しきり、青年の元へと駆けつけるのはほぼ不可能に近い。アリアにしては珍しく、あの青年ともう会話出来ないことを残念に思った。
(ふふっ、何故今あの青年の事を思ったのでしょうか・・・)
思考を遮るように、1匹の獣がアリアに飛びかかってきた。それをアリアはひらりと躱し、即座に斬って捨てる。
そうしてアリアは馬から降り、眼前に群がる獣たちへと意識を向け刀を納めると即座に大太刀を抜く。
と同時、自ら群へ突進して行く。
その手に握る、大太刀の刀身に雷を纏わせ。
「ハァァアアアアーーーーッ!!!!」
「母さん、こっちだ!」
コウはユカリとナタリーを引き連れ、安全な場所を探す。道中で小柄な獣を数匹斃したが、最初に相手にした獣よりは弱く、手間取る事なく処理をした。
(安全な場所・・・チッ、どこにある・・・)
進めど進めど、いたる所にに獣が在る。
全てを相手にする余裕はない。逃げ、隠れ、斃し、を繰り返して今に至る。
平穏な日常は既にない。今は命ある限りユカリとナタリーを守り、進む。
ドシュッー!
バババーーーッ!!
ドンッ!
近くで騒音が鳴る。
(なんだ・・・?)
どこからか、戦闘をしているような音が聞こえるがその様子は窺えない。
コウは意を決して、そちらに向かう事を決意する。
「母さんは、ナタリーと近くに隠れてて。誰かが戦っているような音が聞こえる。様子を見てくるから、頭を低くして音を立てないで」
コクコク、とユカリとナタリーは頷く。
コウは猟銃を一瞬だけ見て、強く握りしめると一息つき音のなる方へと向かった。
ドスッーー。
ザッ!
バババッ!!
ドンッ!
(・・・くっ!流石に、厳しいですか・・・)
アリアは手傷を負い始めていた。
流石に数が多すぎるのか、同時に飛びかかってくる獣を全て対処しきることは出来ず、数箇所傷を負ってしまった。そこからジワジワと、嬲られ始めた。
獣の攻勢が激しく、斬っても斬っても次から次に立ち向かってくる獣たち。
また2匹飛びかかってきた。
アリアは1匹を躱し、先に後ろの1匹を斬り捨てる、返す振り向きざまに残りの1匹を斬り捨てた。が、あと1匹が飛びかかって来ていることに、今気が付いた。
(しまっ・・・)
振り向く、スローモーションで獣が近づいてくる。そして、ほぼゼロ距離、
ドォーンッ!
視界から獣が消えた。
(何が、起きて・・・?)
今まさに、飛びかかって来た獣が近くの地面に斃れていた。その体には心の臓を抉り飛ばしたような跡があり、獣は絶命している。
「ユニアさんっ!ご無事ですか!?」
人の気配を感じ、振り向く。
そこには、コウがいた。
(なんだ・・・あの群れは・・・ッ!)
眼前には、数十匹は下らない数の獣がいた。
そして、その手前には1人の金色の髪の女性らしき人が、常人の動きを超える動きをし、尚且つ手には人ひとり分くらいのサイズの剣を握り、縦に横に、斜めに振り回している。そしておかしなことに、その剣の刀身はバチバチバチッと光を纏っていた。
コウはその横顔を知っていた。
先程川で見た姿、アリア・シュヴァルツ・ユニアその人だ。
2匹の獣がアリアに飛びかかる。
手前の1匹を躱し、奥の1匹を斬り捨てる。返し振り向きざまに残りの1匹を斬り伏せる。
(凄いっ!あの人、あんなに強いのか!)
しかし影から1匹の獣がアリアに飛びかかる。アリアはそれに気が付いていない。
「ッ、!」
コウは猟銃を構え、狙いを定める。
アリアが獣に気が付いた、がもう遅い。
アリアと獣の距離がゼロになる、瞬間にコウは引き金を引く。
銃口で風を纏い、射出された弾はアリアの眼前の獣に命中し獣を吹き飛ばし絶命させた。
コウはアリアに近寄り、
「ユニアさんっ!ご無事ですか!?」
と問う。
アリアは驚いた顔をした。それもそうだろう、先刻会話し、先程脳裏をよぎった青年が今目の前にいる。困惑していた。
「あっ、貴方は・・・」
アリアが何かを喋ろうとしたが、それを遮るかの如く獣たちが飛びかかってくる。
アリアは1匹を斬り捨て、
「すみません、今は理解が追いついていないですが、貴方戦えるのですよね?」
コウが持っている猟銃に目を向け、アリアはコウに問う。
コウは頷く、アリアはその頷きを確認し笑った。
「良かった・・・、私は今からあの群れを片付けます。少しだけ、お手伝い頂けないでしょうか。」
コウは再度頷く。
その頷きを確認したアリアは、
ドンッ!
と跳躍し群れへと向かって行く。
コウはすぐさま猟銃を構え、狙いを定める。
(ユニアさんの、動きの邪魔なりそうなやつを・・・まずはアイツだ)
ドォーンッ!
一発で仕留める。
ガチャリ、装填。
(次・・・)
コウは再度構え、狙い、撃つ。
その間、アリアは自分の突進に反応した獣たちを切り捨てて行く。少し遠めの獣はコウが仕留めてくれていた。
(上手いですね・・・)
獣を斬り捨てるのをやめず、アリアは思った。
アリアは近場の獣たちを次々と斬り伏せる。
1人、援護がいるだけで立ち回りは大幅に良くなる。少し遠めの獣に気を配らず戦えることは近接を主とするアリアにとっては凄く助かる。
そうして戦うこと数分のち、
獣の群れは全滅した。
アリアは一息つき、大太刀を仕舞う。
くるりと反転、ツカツカとコウに近寄る。
「あ、ユニアさん。お疲れ様でし・・・」
コウが言い切るより先に、アリアはコウを抱きしめる。
(・・・・・・・・・は?)
困惑した。何故?
一旦ここで区切りを入れさせていただきます。
また次の節まで終わり次第、投稿します。
今しばらくお待ち下さい。
では。