2.第一章、第一節、第二項
3.
第一章
第一節
第二項
ヴェロニア天帝国のとある辺境
「・・・くそッ!なんなんだアイツらは!!」
一人の兵士が愚痴を零す。
すぐにでも瓦解しそうな陣形で突き進み、
ひとりまたひとりと犠牲を積み重ねる。
「どうして、こんな所に・・・ッ。
くそッ!!ここはもっと楽だと聞いていたのにっ!どこに行っても争いばかりじゃないか!」
グオォォォオオオオオオオオーーーッ。
ドンッーー。
「ああぁぁぁぁアアアアーーーッ。
し、死にたくないっ・・・」
「ぎゃあああーーーッ。」
「っ、オイ!!
くそっ、またやられたのか・・・
ははっ、もうお終いだ・・・。」
諦観とは違う、喪失感とでも言えばいいのか。その兵士は脚に力が入らない。
いや、既に力を入れるべき脚を失っていた。
「・・・ーーけ抜けろ!行けぇーーーーっ!」
遠くから、女の声が聞こえる。
まだ幼さを残しているが、遠くまで透き通る鈴の音のような声だ。
ドカラッ、ドカラッーー。
ズザザーーー。
「無事かッ!?ーーッ!
ダメだ、既に事切れている・・・」
馬から降り、容態を見るも既に息はなかった。
「ッ。どうしてこんなに反応が遅れたッ!?
先に動いたはずの第2大隊はどうした!!」
ヴェロニア天帝国守護騎士団第3大隊副隊長
アリア・シュヴァルツ・ユニアが叫ぶ。
「そ、それがッ・・・、
先見で到着していた大隊は、
壊滅し、隊長と副隊長は既に撤退しているとの事ですっ!!」
側近からの報告を聞き、アリアは拳を握りしめる。
(自分の隊を見捨てて・・・撤退しただと・・・ッ!!愚かな!!)
「命欲しさに、自らの兵たちを見殺しに・・・ッ。」
アリアは悔しさに唇を噛む。
天帝国の重役たちは、自分の命が一番なのは初めから知っていた。というよりは、ほぼ周知の事実であった。
数年前の戦争でも隊を捨て、隊長と副隊長が懲罰をくらっている。
それでも、自分の命欲しさに隊長が即座に撤退するという愚かな行為は減らなかった。
(ーーッ。反吐が出る!!)
自分の思考を振り払い、目の前の敵を殲滅にかかる。目の前に佇む、自分の数倍はあろう体格の獣に怯むことなく、アリアは背中に背負っている2本の鞘のうちの刀身の長い方を抜刀する。
鞘に納めるタイプの、いわゆる刀。それも自分の背丈ほどもあるサイズの長刀だ。
(ッフ。今は集中しましょうーー。)
アリアは息を吐き自分の内側、心の臓のさらに奥深くにある核に意識を向ける。
すると、体が浮くような感覚に陥る。
龍脈から氣を得て、核が活性化する。
活性化した核から力が溢れ出る。
「ーーっ!はぁぁあああーーーっ!!」
刀身が光り、雷を帯びる。
ドッドッドッ、チリチリチリッーーー。
ドンッ!!
スッーー。
雷を帯びた刀を両手で持ち、地を蹴って高く跳び上がる。
目の前の獣の丁度首あたりまで跳ぶと、そのまま斜めに袈裟斬りを入れた。
音もなく、獣の首と胴体は別れた。
ドスンッーーー!!
と獣の首が地面にクレーターを作った。
おぉーーっ!!
と周囲の兵士たちから感嘆の声が、
「手を休めないでください!
動けるものは二手に分かれ、救護と殲滅に!」
即座に指示を出し、次なる標的へと跳ぶ。
ドッーー。
スッーー、バババッーーー。
次から次へとなだれ込んでくる獣をアリアは斬り伏せる。
(これでは、キリがありませんね・・・)
愚痴りたい気持ちを抑えて、アリアは跳ぶ。
「母さん、終わったよ。」
僕は言われていた仕事を終え、家の中に入る。
「あら、ありがとう。今日の分はもう終わったし、あとはゆっくりしようか。」
今日一日分の仕事を終えたようなので僕は椅子に座る。
母さんがカップに果実水を入れてくれた。
「ありがとう・・・、んくっんくっ・・・
ぷはぁっ。仕事終えた後の果実水は美味しいね。
母さんも座って飲みなよ」
そう言って、僕は自分の飲み干したカップに果実水をポットから注ぎ、母さんに差し出す。
「あらっ、ありがとう。ふふっ、コウに注いでもらえるなんて、今日一日頑張ったかいがあったわ」
母さんは僕の対面にある椅子に座り、
嬉しそうにカップを傾ける。
ユカリ・ヴァニアス、僕を育ててくれてた母さんだ。黒色の長い少しやつれた髪だが、美人だ。もっと綺麗に整えたら絶対にモテる。
「なぁに、人のことジロジロみて。変な子ね?」
果実水を飲む母さんを眺めていると、そんなことを言われる。いや、別にいやらしい目で見てないよ。
ふと、川で出会った?女性のことを思い出す。あの人もあんな出会いじゃなければ、僕は素直に目を惹かれていただろう。いや、あんな出会いでも目を惹かれていました。
正直、ちょっと良いなって思ってました。
あんな人が僕の奥さんになったら、毎日が楽しいのかなぁなどと、絶対にありえない事を想像してしまった。
(・・・イイねっ!!)
「・・・なに、ニヤニヤしてるの気持ち悪い」
どうやら顔にまで出ていたようだ。いかんいかん。
「いや、僕の母さんは綺麗だなって・・・
と僕が母さんに言おうとした。
ドォオオオオーーーーンッ。
「ッ!?なんの音だ?」
ビックリしてひっくり返るかと思った。
様子を見るべく、椅子から立ち上がる。
「母さんはここにいて。」
「う、うん。気をつけてねコウ」
母さんをその場に残して家を出る。
そこから見えた景色はーーー
「・・・なんだよっ・・・アレはッ!?」
自分の身の丈の3倍はあるだろうか、
とてもとても大きな頭が近くの森からこちらを覗き込んでいた・・・。