Episode02
――書斎にて
「浩、どもどーも」
翼の挨拶に頭に黄色のバンダナを巻いた男が反応した。この男こそ織阪邸図書室管轄、田中 浩だ。
「おお、翼と忍のお二人さんか。こんな古くせえ書斎に何の用かな?」
「お前の力を借りたくてな。オレからのお願いなんだが、"しょーもない伝説の書"はあるか?」
「あるある、あの茶色のカビ生えたやつだろ?」
「カビ生えてるとか保存環境悪すぎるだろ。どんな管理してやがるんだ」
「まぁまぁそう言うなって、注文の品ならここにあるじゃないか」
そういって浩は机の上に無造作に置かれた茶色の本をぽんぽんと叩いた。叩かれるたびに埃が舞う。なるほど、よく見ればカビが生えている。表紙には"伝説の書"と書かれている。
「先日秘宝っぽい笛かなんかが見つかったらしいじゃんこの家の庭で。多分それについて調べてくるだろうなって思ったから用意してたわけさ」
「じゃあ持ってこいよ忍の部屋まで」
「いや、忍以外の人間が来るかもしれなかったから特に何も出来なかった」
「屁理屈抜かすなカス」
翼と浩がやんややんや言い合っている中、忍は机の上の伝説の書を手に取った。そして表紙に手をかけページを捲った。黄ばんだ羊皮紙に黒い文字が刻まれている。日本語ではない、古代言語。読める人間は数少ない。
「翼、浩、こいつを見てくれ」
忍が本のページのある箇所を指差した。そこには笛の絵があった。木でできているかのような質感の笛、どこかで見たことがある。
「こいつが世界樹魔笛なのか…?たしかに発見されたモノと似ているが…」
「そう信じて間違いないだろうな。ただその他の秘宝がどきにあるか、だ」
「この書物にヒントはないのか…?無いのであれば探しようがないな」
「オレに聞くな翼。浩、手がかりになりそうな文献はあるか?」
「残念ながら関連書籍はそいつのみだ。一応ここの書物は全部把握してるからな、間違いない」
「さすが"超記憶"の持ち主だけあるな」
デュアル・ギャラクシーズの人間は一人一人が超能力のようなものを持っている。浩の"超記憶"がいい例だ。彼は記憶力がずば抜けており、一度見たものは何があっても忘れることはない。
「そいつは残念だ、わかった。こっちで書の中身をじっくり見ておくよ」
「あいあいさ、生憎その本の言葉は読めなくてな。そういう古代言語を勉強してた忍なら読めるだろうがね」
「ふん、ありがたいお言葉だ。行くぞ翼」
そういって忍が書斎から出た途端――
「しーのぶー!」
忍が突如金髪ツインテールの女性に抱きつかれていた。忍自身はその拘束から逃れようともがいている。一方女性の方は忍の抵抗を無視して笑顔を浮かべている。
「探したんだよ忍ちゃん!私の可愛いお嫁さん!」
「誰がお嫁さんだボケ。脳ミソ冷ませ花鈴」
「ひどくない!?せっかく私がこうやって忍ちゃんに愛を示しているのに!」
「どうしようもねえなこりゃ」
「あ、翼くん。もしかして嫉妬してる?忍ぶちゃん奪われて嫉妬しちゃってる?」
「どこに嫉妬要素があるのか説明してほしいんだが」
「翼、頼むからそんなこと聞くな」
「…まぁ誰にも忍ちゃんはあげないから。今から二人で"ゆりゆり"しちゃうんだからね!」
「待て待て待て待て。オレはそういうの興味ないからな!?仮にもお前、オレは男だが体は女だ。そんな状態でなんだ…その…ええいそれ以上喋らすな!」
「でも本音は一緒になりたいんでしょ?」
「ああこの女殺してぇ」
忍に溺愛してるこの女性の名前は 峰咲 花鈴。織阪邸の通信設備担当をしている。ご覧の通り彼女は忍に片思いしている。忍はその気持ちを理解できないようだが。
「後で一緒にお風呂入る?」
「断固として拒否だ。オレは誰とも風呂なんて入りたくねえんだよ」
「そんなこと言うんだったら…仕方ないなぁ――はい、翼くん。これあげる」
そういって花鈴は翼にポケットから出した一枚の写真を手渡した。
「なんだこれ?」
「裏返してごらん?」
「ん」
ぺらっ
「…なんじゃこりゃ」
「…忍ちゃん」
その写真は実にけしからん内容だった。ざっくり言えば"忍の布一枚纏っていない寝姿"。
「可愛いでしょ?」
「忍…これ…」
ふと見れば忍はひどく赤面していた。
「あーあーあーオレは裸族じゃないでーすー!どうせ加工かなんかしたんだろ!オレちゃんと服来てねーてーまーすー」
「…今朝下着で寝てたバカが何ほざいてやがるんだ」
「なんで翼も味方してくれないの!?ふざけんなよ畜生!なんk、そんなにオレの体に興味あんの!?」
「ないわバカ」
「私はあるよ!」
「花鈴、お前の夢は?」
「忍ちゃんと結婚することです!」
「お前やっぱ死ねよ」
秘宝のことなど忘れて言い合う忍達であった。