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信長物語  作者: 楠乃小玉
7/12

女たち

結婚する姉の蔵の方に吉法師は引き出物を渡しにいった。

吉法師は金山神社の前に突っ立っていた。

熱田の西にあり熱田の刀鍛冶たちの信仰を集めている鍛冶の神である。

その北には織田信秀の居城である猿渡の城がある。

ここで待っていれば吉法師の姉である蔵が父信秀に挨拶にくると吉法師は考えたようだ。

退屈した吉法師が人差し指をしゃぶる。そして、それを鼻の穴に入れて鼻クソをほじった。

鼻をほじるクセは、昔なにげなく鼻クソをほじっていたら林秀貞が

「武家の棟梁になられるお方がそのような品のない事をしてはなりませぬ」

 と言ったので

 「であるか、なら毎日ほじってやる」

 と言って毎日ほじっていたらクセになってしまったものだ。

 吉法師の後ろから細くて白い手が伸びる。

 手には懐紙が持たれていた。

 その懐紙でそっと吉法師の人差し指についた鼻クソを拭き取る。

 吉法師が見上げる。

 そこには姉の蔵の方が居た。

 吉法師はそれをじっと見た。

 蔵の方はニッコリと微笑む。

 「姉上大好きじゃ」

 そう言って吉法師は蔵の方に抱きついた。

 「まあ、まあ」

 蔵の方は吉法師のあまたをなでた。

 「ああそうじゃ、姉上の婚儀にあわせて引き出物をと思っての」

 「まあまあ、そのような事、吉殿が気をつかわれずともよいのに」

 「熱田社の宮司の千秋李光せんしゅううすえみつがの、

 高級な茶葉をくれたのじゃ。家人に聞いたら銀粒十個くらいの価値はあるそうだぞ」

 「そうなのですか、それなら吉殿の大切な方に吞ませてあげなされ」

 「だから姉上にあげる」

 「此方はよいので、もっと大切な方に吞ませなされ」

 「姉上は十分に大事だ」

 「その気持ちだけで十分堪能いたしました、よってお茶はたれかに」

 「吞んでもおらぬのに堪能したとは奇妙な事をおおせじゃ」

 「女は気持ちだけで堪能するものですよ。

 それに、吉殿がそのお茶を誰かに振る舞い、吉殿と親しくなれたなら

 それこそ、此方の喜びでございます。此方は十分に吉殿としたしいので」

 「そこまで仰せなら、誰かに振る舞うことといたそう」

 吉法師はしばし考えた。

 頭の中に織田信康や青山、千秋の顔が浮かんだ。

 「それでは、父上に挨拶がございます故」

 「うむ、息災でな」

 吉法師が手を振る。

 蔵の方は深々と頭をさげた。


 蔵の方が津島に行くと、吉法師は姉に会いたくて頻繁に津島に行くようになった。

 津島には吉法師と年ごとが近しい女児がいた。

 名をお豪という。

 大橋氏の一門衆である祖父江秀重そふえひでしげの娘だという。

 その娘は幼いながらも平家物語を諳んじたので、同じく平家物語を親しく読んでいた

 吉法師は大いに気に入った。その娘の勧めもあり吉法師は源氏物語を読んだ。

 豪は源氏物語の夕顔が好きだと言った。まるで自分のようだと。

 「裕福な家庭で名門大橋氏の一族として暮らしている其方が

 夕顔に似ているとはおもしろい事を言う」

 吉法師がそう言うと豪は少し憂いを含んだ表情で微笑をうかべた、


織田信長は平家物語が好きで、その人生に大きな影響を与えます。

織田信長の初期の書状を見ると、そこには「藤原信長」と記したものがあり、

元々藤原氏の出であることがわかります。

その後、成長するにつれ、敦盛の幸若舞 を好んで踏むようになり、言動に平家物語の無常観を

表すものが多くなっていきます。

家紋も五つ木瓜(織田木瓜)でしたが、次第に平家の揚げ羽蝶を使うようになり、

諸行無常を表す無文字の旗もつかうようになります。

津島大橋氏は元々平家の家系であり、そういう事もあって、信長は津島衆につよく感情移入

していくことになります。織田家は元々北朝方の家ですが、津島衆の影響で、神皇正統記も

読んでいたようで、南朝方を自称する浪人者を多く抱えています。

特に楠正成への傾倒ぶりが激しく。

楠正成の子孫を自称する浪人者である楠木正虎を士官させ、右筆として厚遇します。

それだけではなく同じ藤原氏の一門であり名門であった生駒氏と土地の土豪で楠正成の子孫である

神野氏の一族の娘を結婚させています。

政略結婚でもない土豪の娘を、かなり家格の高い生駒氏と結婚させることは、当時としても異例です。

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