青山与三右衛門信昌
このたびは青山与三右衛門信昌です。
「おお、若様ここにおられましたか」
吉法師を見つけ、青山与三右衛門が駆け寄ってくる。
「釣りに参りましょう、釣りに」
「そなた釣りが好きだの」
「釣りが好きなのではございませぬ、若様が好きなのでございまする」
吉法師は横目で与三右衛門の顔を見る。長細いヘチマのような顔をしている。
その頬に小さな噛み痕のようなものがある。
母親の乳房のアザを思い出した。
「そのアザは何だ」
「いえいえ、何でもざいませぬ」
「ワレが噛んだのか」
「大切な宝物でございます」
「そんなアザの何が大切か」
「若様からいただいたものは何でも大切でございます」
「……で、あるか」
吉法師はどんぐりを拾う。
「ほれ、ありがたいか」
「おお、これは、ありがとうございまする」
与三右衛門は目を輝かせてそれを受け取った。
「気持ち悪い」
「気持ち悪い某は嫌いでございますか」
「嫌いではないぞ」
「ならば気持ち悪くともかまいませぬ」
「変わり者め」
「若様の家臣ですから」
与三右衛門は得意げに言った。
釣り竿をもって山崎の浜辺に行った。
ここには小高い岩場があり、魚があつまってくる場所がある。
小物に桶を持たせ、釣った魚はその中に入れた。
少し海水を入れていたものの、魚はすぐ死んでしまう。
死んだ魚を見ると、メバルは口をつぐんでいたが、カサゴは大きく口を開けて死んでいた。
「カサゴはいつもながら嫌みったらしく死によるのお、このメバル口を開かぬか、何故だ」
「おそらく、このメバルは武士であったのでしょう。武士は潔いものです」
「そのようなものか」
「はい」
与三右衛門は嬉しそうに答えた。
信長に付けられた家老は林秀貞を筆頭に、青山与三右衛門信昌、平手政秀、内藤勝介の四人であったが、林はとげとげしく、青山はなれなれしく、平手はうやうやしく、内藤は無口であった。
青山与三右衛門信昌は信長のお気に入りであったようで、
後々、その息子の与三もかわいがり、自分のツルの飼育係にして目をかけていました。
信長は鷹狩りなど動物を捕ることが好きでしたが、その反面、ツルを飼っており、動物を飼うことも好きでした。