表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
信長物語  作者: 楠乃小玉
2/12

第二話 タバカリ

幼い信長は母と引き離され、いきなり那古野城の城主にされた。

 小さな吉法師には気になることがあった。

 一緒にお風呂に入ったお母さんの乳房の少し上のほうに赤いアザがついていた。

 「このアザは何じゃ」

 「これはね、お吉にかみつかれたのですよ」

 「我がやったことか、なんと申しわけもない」

 「いえいえ、大丈夫よ、いたい、いたいと言ったらすぐにはなしてくれたもの」

 「ウソじゃ、ひどいアザになっているではないか」

 「自分の子供の事、痛いことなどあるものですか」

 母は微笑んだ。

 しかし、その一件があってから、吉法師は乳母の池田殿から乳を貰うことになった。

 よほどひどいケガであったのだろう。

 フロからあがって布巾で頭をふいていると乳がやってきた。

 「おお、吉よ、お前に城をやる」

 「城でございますか」

 「おう、那古野城という立派な城じゃ、これからそこで暮らすのじゃ」

 吉法師はチラリと母のほうを見る。

 「母が恋しいか、心配いたすな。那古野では我が腹心林秀貞をつける。乳離れは早いほうがよいわ」

 「わかりました」

 吉法師は頭をさげた。

 那古野城での暮らしはあじけないものであった。

 林秀貞の教授は実に退屈でつまらない。

 林の隙を見てよく逃げ出して遊んだ。

 あるときは、林の家臣が吉法師を見つけ、

 あきれ顔でため息をついたので、青大将を「まむしだ!」と言って

 投げつけてやったりした。

 

 日がたつにつれ吉法師はまったく林の言う事を聞かなくなった。

 それにたまりかねたか、林は信秀に頼んで新しい師匠を寄越した。

 橋本一巴について鉄砲を、市川大介に弓を、平田三位に兵法を習った。

 吉法師はこれに熱心に従い、メキメキと武芸を上達させたので、

 林秀貞の機嫌は一層悪くなった。

 林は陰で吉法師を愚鈍と罵ったが、

 その噂を聞きつけて信長の大叔父、織田秀敏が様子見にやってきた。

 吉法師は庭で泥をこねて団子を作っていた。

 そこに秀敏が近づく。

 「おお、団子を作っておるの、この団子の一つを一つを足せば二つとなる。もう一つたせば三つとなる。分かるかな」

 秀敏がそういうと吉法師は眉間に深いシワをよせた。

 「ちがう」

 「何が違うか」

 「一つと一つを足せばひとつじゃ、ほれ」

 二つの泥団子を合わせて一つにした。

 「それは形を一つにしただけじゃ、分量は二倍になっておる」

 「この二つの団子、分量が均等であると誰がいった。秤をもって調べたか。それをタバカリと言うのだ」

 眉をひそめならが吉法師は秀敏を凝視した。

 秀敏はニヤリと笑う。

 「まこと、そうであったな」

 秀敏はその場を離れた。

 一部始終を見ていた林秀貞が足早に秀敏に近づく。

 「噂に違わぬ大ウツケでございましたでしょう」

 秀貞がそう言うと秀敏は少し首をかしげた。

 「たしかに大ウツケであるな」

 「でしょう」

 「そのなたの目が節穴の大ウツケじゃ、織田家の跡取りは吉で決まりじゃの」

 そういって秀敏は去っていった。

 

信長の乳母

織田信長は幼い頃疳の虫がつよく、よく乳母の乳房にかみついたという記録が残っています。

その末、池田政秀の娘である養徳院が乳母になってからは乳に噛みつかなくなったので、そののちは

ずっと養徳院が乳母をつとめた。

当時は「おおちちさま」と呼ばれていた。


尾張のウツケ

ウツケとバカのことである。

吉川広家も幼少の頃はウツケと呼ばれていたので、これは尾張特有の放言ではない。

人を侮蔑する言葉としてよく使われた言葉にウツケとタワケがあるが、

ウツケは本来「空け」と書きタワケは「戯け」と書く。

つまり、ウツケは脳みそ空っぽという意味でありタワケは戯けるという意味になる。

本来、テレビドラマなどで演じられる無頼の信長であれば「タワケ」と呼ばれていたはずだ。

しかし、信長は幼少期ウツケ、つまり頭が悪いと周囲でもっぱらの噂であった。

ウツケの本来の意味は空洞、空っぽの意味である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ