1/1
プロローグ〜追われる男〜
その力を前にして、人は理性を保てるのか?
男は逃げた。逃げていた。体はボロボロで、体力もほとんど残っていなかった。しかし、目的の場所はすぐ近くにあった。もうすぐ、もうすぐなんだと自分を励まし続け、ここまできた。あの子はあそこにいる。「ジュード---」思わず愛する息子の名前を口にする。あの子を巻き込むつもりはなかった。巻き込んではいけなかった。でも---こうするしかなかった。もう遅かった。「ゴホッ---」咳をすると、血の混じった痰が出てきた。もう長くはないな---。しかし、あと少しだ。
「国立総合博物館まであと200メートルです」音声案内を確認して、男はまた歩き出した。
どちらにしろ、彼は生きる事を許されないだろう。強い光に隠されていた影を見てしまった今となっては---