24.ベタなものが書きたくなる
便宜上レジスターのことをレジと表現しております
とあるコンビニ。
時刻は午前3時を過ぎた頃。
「イーラッシャイマセー、オッハーヨゴゼマス」
外国人アルバイトのパパランパラは深夜であってもマニュアル通りに元気よく大声を出し、客を迎え入れる。
時間を考えないアルバイトの大声に客は一瞬たじろぐも、気にしないよう顔を背けた。
入ってきたのは上下黒いジャージにサングラス、そこそこ若そうな男だ。
男は商品を一通り物色すると、何も手に取らずパパランパラの前に立つ。
男がポケットから手を出すと、そこには刃渡り5センチほどのナイフが握られていた。
ナイフの切っ先をパパランパラに向けてぼそぼそと声を漏らした。
「か、金。金を出せ」
「ハイー?」
「わ、わかんねえか、ほら」
男はしゅっしゅっとナイフを前後に振るう。
パパランパラはきょとんとナイフの動きを見ていたが、急に照れた様子で笑みを浮かべて首を振った。
「oh、オキャクサン。ソウイウノ、コマルヨー。ジブンノヘヤデヤテネー」
「はぁ?」
「ソレ、セクハーラヨ。ヒトマエデオ○ニージェスチャーシチャダメヨー。ミンナオカシイネー」
「強盗だよ! お前、なに考えてレジに立ってんの? てか、みんなってなに? え、そういう客が来るの、この店?」
男の急な激昂にパパランパラはひどく驚いた。今の手の動きは、そういった動作にしか見えなかったからだ。
一方男は男でそういう客がいるのかと心配になり辺りを見回した。
「ゴートーダサン?」
「強盗」
「ゴットー?」
「ごうとう」
「Go to H××l?」
「言ってねえよ!? ごーとーだって!」
「oh、ゴートーサン。ゴヨケンナンデスーカ」
「なんだよ、お前強盗の意味もわかんねえのかよ。全然日本語ダメじゃねえか」
「ニホンゴムツカシイ。マダポラポラナイヨ」
「ポラポラってなんだよ」
男の問いにパパランパラは目を細めると声のトーンを一段下げて答える。
「ポラポラとは日本語における「流暢」と意味を通ずる、我が祖国ポッポポロッポの公用語であるポッポポロッポ語である。類語として「ポレポレ」「ボポレボポラボ」などが存在する」
「今、随分ポラポラに喋ったよね? しかも「流暢」って日本語はわかるんだ?」
「ポラポラナイヨー」
パパランパラの変化に男は戸惑う。
こいつと会話しているのは時間の無駄だ。早く切り上げよう。
男はそう決めた。
「とにかく。さっさとほら、金出せって」
「ナゼダゼ?」
「あのな、強盗っていうのは、こうやって脅して、お金をぶんどる奴のことなの。わかる?」
「ソレハイケナイコトネー」
「あ、うん、そうね? いけないことだけどね。だけど、お金出してもらわないと、ほら、こっちも引っ込みつかないからね? ケガさせちゃうかもしれないし」
「NOOOOOOOOO!! GYAAAAAARYYYYYY!!!」
「ちょっ?!」
途端、パパランパラが絶叫をあげた。
興奮と混乱。
どうやら「ケガ」という単語に反応してしまったようだ。
声が店内に響く。長く続けられれば付近の住人も気がつくだろう。
落ち着かせようと男がパパランパラに手を伸ばす。
しかし、
「F××K! F××K!! おでんF××K!!」
「あっつっ!? あっ、あつって、ちょ、落ち着け!」
パニック状態に陥ったパパランパラはおでんを箸で掴んでは投げつける。
こんにゃくは顔面に、大根は床に、煮玉子はパパランパラの口に、汁がびしゃびしゃとレジ周りに跳ね回る。
「ポポポラパッパ! ポポパッパラ!! パポポ、パラッパラッパー! ポポルッポウ、ポッパッパポリンキー! フゥーッ……」
「ポリンキーて? なんで?」
一通り暴れて落ち着いたようだった。
ひとまず動きを止めたパパランパラに男もほっとする。
「バカか。そんな慌てんじゃねえよ、やけどするじゃねえか。って、あつっ!」
「HAHAHA」
もう落ち着いているパパランパラが箸でおでんの汁を飛ばす。
彼なりの愛嬌だった。
「HAHAHAじゃねえよ? なんなんだよ、お前。とんだクレイジーアルバイターじゃねえか。なんでこんな奴雇ってんだよ、ここの店長は」
「テンチョ、モウスグクルーネ」
「あン? なら、急げって。レジから開けて、金出して。怪我したくないだろ?」
「ワカッタ、ワカッターヨ」
パパランパラはおでんの汁でびしゃびしゃになったレジを操作する。
しかし機械はなんの反応もしない。
2人は目を見合わせて首をひねる。
パパランパラはなにを思ったのかレジを持ち上げた。
おでんの汁が更に跳ね、その拡がりはとどまるところを知らない。
伸びたコードがビンビンに引っ張られていく。
「いやいや、お前。それ、危ないから、やめろって」
「イマ、アケルカラマッテーテ!」
パパランパラがレジをカウンターに叩きつける。
あまりの衝撃音に恐怖心を煽られた男は距離を取った。
だが機械は頑丈だ。ビクともしない。
「F××K!」
パパランパラがなにに対してキレたのか不明だ。
しかしキレてしまったのは確実だった。
カウンターの下から金槌を取り出すと、ガツンガツンとレジを力任せに叩き出す。
なにかに憑りつかれたかのように、一心不乱。
その様子に男は更なる恐怖を感じた。こいつ危ない。
「もーいい、自分でやるから!」
「デキルネ! ワタシ、自分デデキルネ!」
「やめろって、危ないから! 俺も危ないから!!」
「ソコクニカゾクイル。ヨメ、ムスコー、ムスメー、ハハー、チチノー、タメニモー、ケガデキナイネー」
なるほど、一所懸命なのは家族のためだったか。男は出稼ぎの辛さ、大変さなど考えたこともなかった。けれどすぐにいやいや、それ、今の行動とあんまり関係ないだろと気がつく。
「いいから、家族の為にもやめて! 危ないから!」
「オトウトー、アニー、アネー、ハハノハハー、チチノチチー、ムスコノムスコー、シンセキー、オバノオバー、トナリノオバー、モリノドウブツタチー、ウミノナカマタチーノタメニモー」
「多いいからー! それ、もー、コンビニのバイトじゃ守りきれないからー? 森と海のは他の団体に任せよー? だからもう、それ離せって、な?」
男が必死に説得を試みた瞬間、金槌が男の鼻先をかすめる。
パパランパラの視線は男の顔に向いており、確実に当てにきていた。
「危なっ! 危ないから! それ、今俺めがけて振り下ろそうとしたよね?!」
「HAHAHA」
「だからHAHAHAじゃねえよ?!」
男の激しい口調にパパランパラは目尻を下げ、声の抑揚を失くして答える。
「笑うことによって副交感神経が活発化し、脳が感じたストレスや恐怖といったものを和らげる効果があり、今のお客様にとっては有効だと判断した」
「だからなんで急にポラポラになんの?」
「ポラポラチガウヨー」
どれだけ叩いてもレジが開かなかったので誤魔化そうとした、パパランパラなりの照れ隠しだった。
「あああああ!! もー!! なんなのお前? デンジャラスアルバイターすぎんだろー、もーっ!!」
「ア、テンチョ、キターヨ」
「ああン?」
1人の男が店に入ってくる。
「テンチョ、コノオキャクサン、ナンカヨウアルテ」
「oh。テンチョノ、パパウポポル、デス」
「お前もかよ!」
結局、なにもしていないのに疲れ果てた男はそのまま帰路についた。
帰り道で職質に遭い、ナイフを所持していたために大変怒られることとなった。
コンビニではなにごともなかったかのように今日もパパランパラが客を迎えている。




