冒頭
遥か昔、神々が住む土地に二人の神がいた。
破壊の神と創造の神。
相対する神たちは地上の所有権をめぐり日々死闘を繰り広げていた。
だが、そんなある日、破壊の神は創造の神の目を盗み自身の化身である悪鬼を地上に解き放った。その事態にすぐに気が付いた創造の神は対抗するべく地上にいる人間たちに七色の力を与え、世界に神授と呼ばれる書物を世界中に散りばめた。
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地上に悪鬼が蔓延り、人々が七色の力を手に入れてから五千年。長きに渡る沈黙を破り神々は互いに次の一手を仕掛けようとしていた。
ゆっくりと目を開ける。いつも見慣れた茶色い天井ではなく、無機質な真っ白な天井だ。この天井は年に数回見たことがある。
すぐにここがどこか、なぜ自分がここのベットで横になっていたのかも理解できたので重たい体を起こす。ああ、まだ体の節々が痛い。
起き上がると右手の窓から心地のよい風が吹き込まれる。
「おはよう神門君、あなたが最後よ。早く教室に行って結果を聞いてみたらどうかしら?」
ベットから少し離れた椅子に腰を掛けている女性が言う。
短く切りそろえられた綺麗な髪、なぜかこの日はいつも掛けている眼鏡をしていない。
彼女にはよくこのような形でお世話になっている。また今回もお世話になってしまった。
俺の名前は神門 道理色校に通う色使いの見習いである。
色校とは色使いを育てる、または統治する施設である。悪鬼が地上に蔓延り、人々に七色の力が与えられて約三千年。悪鬼による人々への被害はもはや人類規模の問題となっていた。
そこで世界中のお偉いさん達は考えた。そうだ、悪鬼を倒す人間を育成する施設を作ろう。そうして生まれたのが色校である。
「分かりました。素直に教室に行って来ます」
ベットの隅に立てかけられていた刀を腰のベルトの隙間に入れる。
悪鬼を倒すための施設というだけにこういった武器の携帯は認められている。俺の武器は刀、名前は夜道 名刀というわけではないが長い間使ってきた大切な相棒だ。
俺は部屋を後にした。
ちなみに今俺が寝ていたのは色校の医務室、そして椅子に座っていたのは医務室担当の伊古奈柚葉先生である。
医務室を出るとそこは無機質な廊下が続いている。さすがは世界中のお偉いさんが作った施設、綺麗で無駄な感じがしない。
俺以外に何人か廊下を歩いている。おそらく俺と同じ色使い見習いだろう。医務室から出てきたということもあり、何人か俺のこと見たがすぐに興味をなくす。
ちなみに俺は色使いの見習いだ。一人前の色使いになるには試験を受けなければならない。そして、その試験は昨日あった。
結果としてはだいたい予想はできる。おそらく落第だろう。だが、やっちまったというより仕方がないという気持ちで溢れている。別に落第し慣れているわけじゃないぞ。
なんて一人で考えているうちに目的の教室の前にたどり着いた。
色校には幾つかの見習い組が存在する。組といっても一つの組にそう人数はいない。俺がいる組には俺を含めて計六人の色使い見習いがいる。俺以外みんな優秀な奴ばかりだ。
扉に手をかけ教室の中に入る。教室は医務室と同じぐらいの広さ、医務室と違うのは木で作られた机がいたるところに転がっている。
「今回は珍しく道理が一番最後でしたね」
「うるさい前回はお前だっただろ」
荒れた教室の中に少年が二人、そのうちの一人がなんともいえない顔で俺のことを見ている。椅子に座っている二人とも俺と同じ組の色使い見習いである。
「前回のことなんて忘れましたよ」
少年の一人が鼻で笑う。
彼の名前は鳳 秋水、背丈は俺よりも頭一つ分高く、女性にも引けを取らない長髪を頭の後ろで一つ結びにしている。そして手元には彼の背丈を裕に越える薙刀がおかれている
俺が刀を使うように秋水は薙刀を使う。
「ちなみに俺が一番乗りだ」
秋水とはもう一人、この教室に俺より先にいた少年が言う。
彼の名は等々力 比叡 (ひえい)口元をマフラーを隠し、腰のホルスターには二丁の銃が入っている。普段はあまり口を開くことはないが実力は俺や秋水よりは一枚上手だ。
俺の組には秋水と比叡の他にあと三人いるが、どうやら今日は来ないだろう。