気が付いたら覇王になっていたんだが
気が付いたら椅子に座っていた。
なんかどこかの王様でも座っていそうなごてごてした装飾の椅子だ。
おかしいな。今日は部活で疲れてたから早めにベッドに入ったんだけど……夢かな?
なんかやたら豪華そうな衣装を着ているし、目の前にはファンタジー映画みたいな光景が広がっているし。
シャンデリアがぶら下がっている天井。そこから赤い絨毯が敷かれただだっ広い部屋に視線を移せば、片膝をつき俺に向かってこうべを垂れている何人もの人間がいたりする。
しかも、皆古めかしいというか、中世ヨーロッパの映画に出てくるような格好の人ばかりだ。
……変な夢だな。どこだ、ここ?
隣を見れば、俺と同じように椅子に座っている女性が居た。
すごい美人だった。
プラチナブロンドの金髪を結い上げて淡い水色のドレスを着ている。けぶるほど長い睫毛に縁取られた瞳の色は冬の空を思わせる青。
年は、俺より少し上……二十歳かそこらだろうか。
そう思った時だ。
「痛っ……」
突然頭が痛みだし――いろんな情報が湧きだしてきた。
ここはオルフェス帝国、首都サーベイン……そして、俺は。
「陛下? 如何なさいました?」
僅かに心配の色を滲ませて問い掛けてきたのは、そう、王妃であるフェリシア。
跪いたまま俺を伺うのは謁見中の騎士で、左右に立ち並ぶのは大臣や将軍達。
……夢じゃ、ない。
俺は――日本人だった記憶を取り戻した俺は、茫然自失の体で目を見開く。
陛下? と再びフェリシアが俺に呼び掛ける。
そうだ、俺は。
このオルフェス帝国の支配者。皇帝である、オルドロン三世なのだった。
*****
なんだよ、オルドロンって。変な名前。
なんて思いつつ、俺は自室にあった姿見で自分の顔を眺めていた。
彫りが深く、鼻が高い。肌は日焼けしていて少し浅黒く、髪は白っぽい金で耳の下辺りまで伸びている。切れ長の目はアイスブルーで、睨むとかなり怖い。
年は二十五。精悍な美形って感じな男だ。
……うーん、自分だと思えない。
俺はついついふざけて流行っていた芸人の物真似をしてみたりした。鏡ごしに見える侍従やメイドさんの顔がやばい。見てみぬふりされるって結構心にくるんだな……
「陛下。王妃様がご面会を希望されています」
お? あの超絶美人の王妃が?
俺が昔懐かし出っ歯なキャラクターのポーズをとったまま扉を振り向くと、フェリシアの来訪を告げた護衛騎士が見てはいけないものを見てしまった、という顔で固まっていた。正直すまんかった。
……うん、面白ポーズは自重しよう。
「陛下。体調の方は如何ですか?」
フェリシアは開口一番俺の心配をしてくれた。いやー、こんな美人に心配されるなんて照れちゃうね!
……でも、オルドロンと彼女は仲が良いとは言えない夫婦だった。
正確に言うと、オルドロンが駄目だ。こいつはフェリシアを冷たい女だとか実家の公爵家が気に入らんとか考えていて、結婚前からすげーそっけなかった。
夫婦になってからはますます距離を置いて、後宮に入り浸る毎日。嫌な夫だ。
でもフェリシアはそんなオルドロンを責める事もなく、ひたすら王妃として頑張っていた。
今の俺はオルドロンじゃないから、フェリシアの苦労やさりげない気遣いとかがよくわかる。
だからフェリシアの言葉に素直に微笑みを返した。
「うむ。少し頭痛がしただけだ、大事ない。心配をかけてすまぬな」
「は……」
おっと。普通に「心配してくれてありがとう」って言おうとしたのにオルドロン語になっていたな。やはり身体はオルドロンだからか?
それに、フェリシアがすごく驚いてる。まんまる目が可愛い。
「い、いえ。何事もないならよろしゅうございます」
「うむ」
ちょっと焦りつつフェリシアが頭を下げたので鷹揚に頷いてみせる。焦るフェリシアも可愛いなー。こんな可愛い奥さんに冷たくするなんてオルドロンはおかしいよ。男の風上にも置けないな。
「そちも身体には気を付けるのだぞ」
「……は、はい」
心配してくれたお返しに労ってみたら、また目を丸くされた。
どうしてオルドロンだった俺が、日本の平凡な高校生だった《渡部俊一》の記憶を蘇らせたのかはわからない。だけど、俺(俊一)になった以上、これからはフェリシアに優しくしていい旦那になろうと思う。
後宮はどうしよう……ちょっと興味はあるけど、複数の女性と付き合うなんて今の俺には厳しいなあ。でも、政治的に考えるといきなり廃止も出来ないし。
……有力貴族の娘である三人を残して、なんとかうまくやるしかないかな。
ああ、王様って面倒くさいな!
「陛下? また頭痛でも……?」
渋い顔をする俺を気遣ってくれる優しいフェリシアに癒される。……うん、彼女の為にも頑張ってみよう。
そう決意して、俺はオルドロンとして生きる事を受け入れたのだった。
*****
オルドロンになった俺が頭を悩ませたのは軍備の縮小だ。
オルドロンの奴(俺だけど)何考えてたのか、あっちこっちの国に喧嘩吹っかけてやがるんだよ。大陸統一とか掲げちゃって、覇王気取ってんじゃねーよ。
帝国はかなり強いけど、他の国だって同盟くんで対抗してるしさー、お互いかなりの痛手になるのが目に見えてる。
だから、俺は会議を開いて宣言した。
「周辺国との和議を進める」
会議は紛糾した。
「臆されましたか、陛下!」
「嘆かわしい! どうかお考え直しを!」
将軍やら大臣やらが唾を飛ばす勢いで喚く。臆して何が悪いって言うんだ。嘆かわしい? 戦うのが嫌なののどこが嘆かわしいんだよ。だから国が乱れるんだよ。今の帝国は内乱がいつ起きてもおかしくないのはわかってんだよ。
俺が黙っていると、将軍や大臣達が口々に今さら後には引けないだの帝国の威信がどうだのと言う。うるさい。あー、うるさい!!
「静まれ」
俺は椅子から立ち上がり、両腕を水平に広げ、片膝を高く上げた。荒ぶる鷹のポー……げふんごふん。
皆、静かになった。
俺は皆が固まったのを見て、再び着席する。
そしてゆっくりと語りだした。帝国の現状を、今は何を大切にするべきかを。
エキサイトしていた皆も頭が冷えたのか、悩むそぶりを見せた。
と、大臣の一人が意を決したように口を開いた。
「おそれながら……陛下、先ほどの姿勢にはどのような意味があったのでしょうか」
あれ? それ聞いちゃうの?
皆、何故か固唾を飲んで返答を待っている。やばいな、単に意表をつきたかっただけなんだけど。
俺は咳払いして、両手を組み合わせ、重々しく話しだした。
「……あれは余が考えだした平和のポーズ……体勢だ」
「平和の体勢……ですか?」
「うむ。両手を真っ直ぐに広げる事で敵意が無い事を示し、片足を上げてバランスを取る事で協調性を見せているのだ。余は今からの時代に必要なのは武器では無く対話だと感じている。ゆえに、この体勢を編み出したのだ」
こじつけです。
しかし、皆は感銘を受けたのか目を輝かせ「陛下……!」とか言ってる。
ま、丸く収まればいいよね!
内心汗だらだらの俺の前で将軍や大臣は席を立ち、皆して荒ぶる鷹の……いや、平和の体勢をとった。
「陛下のお気持ちは十分に理解いたしました。我らもまた、新しき時代を築きたいと存じます!」
「う、うむ」
ずらりと並ぶ異様なポーズをとるおっさん達。皆片足立ちに慣れてなくて、ぷるぷるしてる。
俺はとにかく吹き出さないようにするだけで精一杯で、まさか感動にうち震えていると誤解されているなんて気付かなかった。
だけど、こうしてなんとか平和への第一歩がふみだされたのだ。
*****
数年後。かなり大変だったけど、なんとか周辺国との和議も成功して、荒れまくっていた国内も落ち着いた。
フェリシアとの仲も格段に良くなっていて、子供も生まれた。待望の男の子だ。
「陛下、皆にお姿を」
「うむ」
今日は世継ぎの王子のお披露目だ。
俺が子供を抱いたフェリシアとバルコニーに出ると、どよめくように歓声が上がった。
「陛下……皆、あのように笑顔です」
「うむ、なによりだ」
眼下に見える国民達は、皆満面の笑顔で、数年前とは比べようもなく明るい。
それはいい。それはいいんだが……
「陛下のお考えになられた平和の体勢も、国民に普及しましたわね」
「……うむ」
そう。今やあのポーズは帝国の象徴とも言える。国民達が荒ぶる鷹の体勢をとる国家って、なんじゃそりゃ。
やっちまった感がはんぱねーよ。
笑顔で両腕を水平に広げ、片膝を高く上げている国民を見下ろし、俺は一人絶望を噛み締めていた。
これより数百年後。異世界トリップしてきた日本人が帝国を訪れた際、「何考えてたんだよ、オルドロン三世!」と叫んだのだが、今の彼に知る由は無かった。
なんかいろいろとすみません(汗)
お読みいただき、ありがとうございました。




