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Second Life  作者: ROA
15/22

「消えない感触」

          15



 部屋の中に置かれていた家具はアルミ製のパイプを使用したものばかりだった。壁もコンクリートの打ちっぱなしで、冷たい雰囲気を醸し出している。

薄暗い照明が、アルミパイプに怪しく映っていた。ぼんやりと眺めていたコンピューターディスプレイに、アバターが激しく論争するログが流れている。

「Yumiは死んだ。」と。

 勿論、その意味はサービスを退会したということだ。

しかし、本当に「死んだ」んだよ、君ら神は。

 椅子にもたれかかり、唯一点灯してある照明に自分の手を重ねた。くっきりと自分の掌のシルエットが浮かぶ。

 Yumiは死んだ。…この手によって、裁かれたんだ。

 照明に翳した手を握り締める。

「全く、感触が消えない。」

 ぼそりと、下山拓馬は呟いた。

 良太が言っていた変なアバターはYumiのことだった。初めは気にもしなかったが、日記帳に書かれていた言葉が誰かに対するメッセージだと分かったのはつい先日のことだった。

 おそらく神も気付いていなかったのだろう。もし気付いていたのであれば、前回と同じように采配が振られていたはずだ。

 拓馬は神を助けたのだと、自分に酔いしれていた。

 握り締めた手を、もう一度開いてみる。

「人って、思ったより柔らかいんだな。」

 宅配便の振りをして、桐原由美の部屋に上がりこんだ。ポケットに隠し持っていたナイフを取り出すと、桐原は奥の部屋に逃げようとした。それを追って拓馬も奥の部屋に入る。

後ろから体当たりを食らわすと、面白いぐらいに吹っ飛んでベッドに倒れこんだ。桐原の上に馬乗りになって自由を奪う。そのまま髪の毛を掴んでベッドに押さえ込み、力を込めてナイフを背中に突き刺した。思ったより簡単に刃先は桐原の体に沈んだ。

 ああいう状況下ってのは、悲鳴は出せないらしい。ただ必死に逃げるだけ。

 あの時もそうだった。

神から采配を受けた男を裁きに行った時だ。白川武志って言ったっけ。

 あの時はナイフではなく、鉄パイプだった。その時は人間って硬いんだと感じたのに。手が痺れる程叩きつけて、やっとあの状況を作り出したのだ。しばらくはキーボードを叩くのが億劫になった程だ。

 一番簡単だったのは、セカンド・ライフの説明会で暴れたという男に制裁を下した時。ただ背中を押してやっただけで、あの世行きだ。駅のホームに落とすのは、面白くない。

次はやはりナイフにしよう。と拓馬は決めた。

セカンド・ライフに反対する者。それは退廃主義者として厳正に処罰が下る。その一部を拓馬は任されていたのだ。

処罰を受ける者の素性を知ることもなく、拓馬は3人の人間を殺害した。もとより、その者の素性など興味はないが。

処罰の方法は自分で考え、後の処理は厚衛省が行ってくれる。

 しかし、唯一問題があるとすれば桐原由美を殺害した時だ。

 拓馬は目を瞑る。

桐原を刺して、その感触を確かめていた時だった。インターフォンが鳴り、言葉通り拓馬は飛び上がった。足音を立てないように、ドアの覗き穴を覗くと玄関先にあの女が立っていた。

社長秘書の井川沙織だ。

何故そこにいるのか、その時は考えられなかった。思わず奥の部屋に戻り、逃げ場は窓しかないと思った。冷静になって考えれば、鍵を閉めて行けば良かったと思う。

飛び降りるとしても、たかが二階だ。窓際にぶら下がって降りればたいした高さではない。

慎重に窓枠に手を掛けた時、あの女はドアを開けやがった。バランスを崩して、拓馬はそのまま落ちた。一瞬呼吸が止まり、立ち上がれないかと思ったがすぐに治まった。周囲は薄暗かったし、木に覆われていたため、誰にも見られてはいないだろう。しかし、落ちた時の音を聞いた者はいるかも知れない。拓馬は慌てて立ち上がり、その場から逃げ去ったのだ。

問題は、部屋に続くドアを開けっ放しにしていたことだ。飛び降りる姿を見られたかも知れない。

拓馬は机の引き出しを開ける。そこには折りたたみ式のナイフが入っていた。

あの秘書の自宅は抑えてある。Second Lifeに会員登録をしているため、そのデーターを見れば家に押し入ることが出来る。後は男と住んでいるのか、家族と住んでいるのか、一人暮らしなのかを調べればいい。

もしあの女が戸神社長に変なことを話してしまえば、俺は終わりだ。いくら神のためとはいえ、神の采配を無視して殺人を行ったのだ。ただでは済まないだろう。

しかし、桐原由美を殺害してから3日が経っていた。いまだに何のトラブルもないことから、井川は何も社長に伝えていないのかも知れない。もしくは、拓馬に気付かなかった可能性もある。

だが、不安要素であることには違いない。

拓馬は、折りたたみナイフを取り出し刃を開く。

怪しげに光るナイフの刃先に映る自分を見て、計画を考えた。

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