8話
よく分からずに書いてる
ユガは激怒していた。
今まさに灰色の地面にじわりと吸収されていくのを、持ち手のついた空の小さい樽を片手に呆然としていた。なぜこんな事態に陥ったのかというと、遡ること数分。いつも通り赤水をさあ飲もうといざ腰にぶら下げていた樽に手を伸ばそうと振り返えってみますと、なにやらぽたぽたと水滴が垂れているではありませんか。さんざん昨日一日中飲みまくった末、そのまま眠ってしまい中身がまだ少し入っているにもかかわらず、知らずに起きたときにそのまま腰に下げてしまった。ユガが立ち上がった瞬間、重心が不安定な取っ手が付いた樽は当然というべきか少なからずもこぼれていってしまった、というあらまし。どうやら一番気にしているのは服(ただの布切れ)にもついてしまったことのようだが。
「匂いが……」
後で水につけておくことを肝に銘じたユガは、とりあえずこの第一級戦犯「樽」の改良を図ることにした。まず、大前提としてこぼれないようにと、飲み口を細くする。これによりくちの端からこぼれることもなくなる。次に腰に括り付けやすいように上下に膨らみを付けて真ん中を細くする。これで斜めにもなりにくいはず、さらに後は細くなった飲み口を栓でもしておけば完璧だとユガは変形していく物体を相手に一人で呟いていた。
完成した水入れを腰に下げようとするが、赤水で汚れた部分に触れると手が若干のべたつきを伝えてきた。ユガ本人としては赤水の匂いが取れずともかまわないほどの芳醇な匂いを漂わせているのだが、それゆえどうしてもべたべたするのはどこの誰であろうと嫌な思いになる。少し落ち込んだように水入れを虚に放り込むと、人目も無いこの世界で汚れた服を脱ぐと、素っ裸のまま歩き出したユガはとても開放感に満ち溢れている。何かに目覚めかけるが押し留めつつ海へと辿り着くと、服を持ったまま飛び込んだ。岸で洗濯をするという発想は無いようだった。
水の中であろうが、胃に肺に水が入ってこようが一切お構い無しに沈んでいくユガ。汚染された海も透明度を取り戻しつつあるが、まだまだ2割も浄化は進んでいない。木から見下げた海はそれほどまでに濁っていた。ユガにとって汚染されようがなんだろうが服がべたつかなければそれでいいと沈みながら服を擦っていた。海の底まで辿り着いてやっと体に圧迫感を感じたユガは、どうやら海の底というのはとても圧力を前進に感じるんだなぁ、と考えながら暗い海の中でただひたすらに服を擦っていた。もう十分だと思えるほどの時間が経っていたが、如何せん暗闇の中で確認のしようが無かった辺り、ユガは天然だった。
岸まで戻り服の汚れがしっかり取れていることを確認すると、服を着た。完全に全身がびっしょびしょであったが、もはや気にせず木の上で寝ていたらいつか乾くであろうと打算を打つと、体内に侵入してきた水を魔力で操りえずきながら吐き出し、元の道を歩いて戻って行った。
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木の下に辿り着く頃には体の露出している部分はある程度乾いてはいるようだったが、どうしても服や髪に付着したべっとりとした液体は魔力をもってして強引に水と不純物とで切り分ける必要があった。後は雨を被った日のようなもので、とりあえず日当たりのいい木のてっぺんにまで上ることにした。
木登りに苦戦するなど見目麗しく若々しいユガにとって、とてもではないがあり得るわけもなかった。軽く跳ねて数10m上の枝に乗るとスルスルと上っていった。上りきったユガは辺り一面緑の一切欠けた茶色の大地が広がっているのを、眺めながら丈夫な枝に座り込む。頭上からはすっかり曇ることの無さそうな空が広がる。水中で長時間遊んでいたユガは自分が眠くなりつつあるのを自覚しながらも、地面に落ちないように他の枝に背中を預けながら微睡んでいった。
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服が、というよりは布切れが何度かの風雨に晒されパリパリに乾ききった頃にユガは目を覚ました。と同時に何かしらの違和感を感じていた。主に頭と風景の違和感が。頭に手を当てると手に触れる髪の面積が増えたように感じる。どうやら髪が伸びたようだが、火の雨が降り注いだあの日以来身長だけでなく髪の毛や爪も伸びなくなってしまっていた。ユガは完全に自分の不老不死性が原因で伸びないわけはなく、単純に栄養が足りなかったという次元ではなく、食べられるものが無いこの世界でどう栄養を摂るというのか。
それもこれも赤水のお陰だと気づくのにさほど時間はかからなかったようで、木に感謝しつつ下を覗いてみるユガ。寝ている間に随分と木も成長したようで、地面との距離がユガ一人分ぐらいは高くなっていた。とりあえず降りてみようと身を乗り出すとそのまま跳び跳ねる。重力に従い地面にまっ逆さまに落ちるところを体勢を立て直し、足を魔力で強化すると静かな音を立てて着地した。
着地してユガはあることに気付く。動くときに肩甲骨まで伸びた髪が邪魔になると。早速髪の毛を一本だけ抜くとそれで髪の毛を纏めた。非常に強引なやり方ではあったが、効果はあったようでユガは首を振りまくってはフラフラしていた。まるで尻尾のように振り回された髪は未だ元気そうに揺れている。
とりあえず寝起きの体に赤水を注ぐことでユガは完全に意識を覚醒させた。というところで今日も何をするかと考えるユガ。赤水を煽りながらぼーっとしていると、中身がなくなったのか虚から追加させる。ついでだからと虚の中身を整理でもしようかと考えたユガは、木から少し離れたところに歩くとそこで赤水以外のものをすべて吐き出した。
宝石は宝石、鉱石類は鉱石類、その他武器や布に食べれそうだけど食べたくない食料などに分ける。そこで不思議に思ったことがあるようで、山のように積まれた枝が気になっていた。どう見てもあの木の枝だった。
「適当に作った魔方陣だったし、設定に巻き込まれたかな」
と一人ごちるユガ。どうやら木が勝手に落とした枝らしく、それが虚に入ったものと思われる。せっかくあの木の枝なのだし、腐らせるわけにもいかないとの思いからユガは、家を作ることにした。
建てる場所は何処でも良かったのだが、広く見渡せてかつ生物が誕生したらすぐに分かるようにと、木のてっぺんに建てることにした。この木であればたとえ頂上に家を建てたとしても問題はないという結論に至った。
ということで建てるためにまずは枝を木材に加工する必要があった。魔力の力をもって枝同士を角柱に変えていく。それと同時に固定するための鉄釘を作っていく。不純物を取り除き鉄を加工する。あとは家になるように切断したり組み立てると立派な木造の一軒の小屋が完成した。中身が寂しかったのか台や椅子を置いたり、布を加工し木材と組み合わせることで寝る場所を確保した。
完成した家を見て満足すると中に入り寝転がるとそのまま寝てしまった。
そしてユガは気付くことはなかった。自作した家にはユガの魔力がすべてに含まれており、つまりは結界のような意味を持つことでたとえあの白い光であろうと破壊不可能な、傷一つ付かない要塞を作り上げてしまったことに。
適当すぎて設定とかどうでもよくなってきた