6話
この人何書いてるんだろ。
ユガは真っ暗闇の中、火を付けて暖を取っていた。
結局あの資料によると、この世界は撃ち出された魔法のようなもので滅んだらしい。そして融解した大きい鉄の塊は発射台だったようだ。融解していた理由はどうやら自爆、自業自得、と結論付けた。施設内の魔力自体は壁の中にあり結界が感知されないようになっていたようだが、魔力の感知能力と隠蔽能力では発射台の感知能力の方が高かっただけということもわかった。矛と盾では、矛が強かったらしい。
「まあ僕程度に破られる結界なんてたかが知れてるよね」
今回の件の所為で再び沸いてきた暇と孤独感に苛まれ、ぼやいていたユガ。そこであることを思いついた。
「どうせだから、魔法の勉強でもしますか」
500年目にして、ついに魔法というものを学ぶことを始めた。
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滅ぶ前の世界の魔法事情というと典型的な詠唱を用いて発動される。ただ、それだけである。先ほど見つけた魔法陣というのはそれこそ新発見と呼ばれるべき存在であっただろうと想うユガだった。が、しかし皆一様に同じ白く薄い布を着たあの地中の人間達にとって、あんなものを自慢されても石ころを見るようなものでしかなかった。
当然ユガは知ることはなく魔方陣について研究してみようと動くのだった。
「あれはまず、円を基本としていた」
地面に円を書く。結構難しい。魔法で円を作るように直接土を動かした。
「あとは魔力で好きな文字を書く、か」
発火、と書く。
「execution」
(起動)
魔法陣の上で突然火が灯された。何やら僕の中で魔力が騒いでいる。あの女の記憶の一部に魔方陣を使ったような痕跡が残っていたようで、実際に書いた魔法陣そのものを魔力の中に取り込めるようだ。取り込んだ魔法陣は二度と上書きできないようだが、発動速度が早いということとあとかっこいいという情報を魔力のほうから教えられた。最後のほうはいらないと思った。
「どうせ何もないんだし、ちょっと撃ってみるか・・・・・・。決してかっこよさに惹かれたとかじゃなくて」
適当に"光""収束""射出(拡散)"とその他もろもろを書き込んだ。
「store」
(格納)
一連の詠唱を教えてくる魔力に遠い目をしながら、何かが入ってくる感覚を不思議に受けながら考えていた。ひざを地面につけて座っていた体を立たせながら次の詠唱を聞き出す。
「fetch」
(取り出し)
頭に浮かんでくる1個の魔法陣。10個格納すれば10個並ぶのだろうか。初めての感覚に火照ってきているユガ少年(?)はその1個を選択する。するとstandby(待機)の文字が領域に浮かぶ。
「open」
(展開)
すると前方に地面に書いた物の3倍ほどの大きさとなって魔力が這うように魔法陣を形成していく。完成するとユガは完全に興奮していた。自分が昔では考えられないほどの大きな魔法を撃とうとする自分に酔っていた。大きく息を吸い、ユガは叫んだ。
「execution!!!」
(起動)
何も起きなかった。
その年から約2年ほどユガは頭を抱えて蹲ったまま動かなかったという。
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ようやく再起動したユガは未だ引きずったままにあの元故郷の村まで戻ってきた。目印の成長した木を目指して3年かけて歩いてきた。実はその道中に黒歴史を1度だけ繰り返していたようだが、結局はまた蹲ることで終わった。
「成長したな、君は」
ユガの身長の2倍以上はありそうな木に成長していた枝からは、張っていた結界の影響からかユガの魔力を感じていた。そしてなぜここに今更戻ってきたかというと、おそらくはあと5000年は崩れないであろう結界を、魔法陣を利用して張りなおそうと来たのだった。
張ってある結界は魔力が途切れれば弱くなり何かの拍子で崩れる可能性が出てくる。しかし魔法陣を応用すれば周囲から魔力を取り込み半永久的に結界を張り続けることができると考えたのだ。方法は単純で結界を陣に書き込み木に載せるだけ。
離れて発動の確認をしようとするとただの球体の結界だったものに、陣に書き込んだ文字が周囲を囲むように回転している。発動を確認したユガは次の疑問に当たる。
なぜ、結界は発動したのに光の収束魔法は発動しなかったのか。それは今にも餓死で倒れそうなユガの体を魔力で補っている現状、体内の魔力はそちらに割けなかったのではないかと1週間まるまる考えた。とすると木の結界と同じように周囲から魔力を取り込めばいいのではないかとも思ったのだが、どうやら空気中の魔力は薄くそれこそ結界にしか使えないようなものでしかなかった。
ならば逆に体を維持しようとする魔力を使って何かしようかと考え、とりあえず体内で操作することを思いついた。仮想筋肉というべきか、魔力を腕やら足やらに溜めることで腕力、脚力諸々が上昇するようだ。試しに走ってみたら風で顔が変形するかと思った。
弱めに設定することで普段使ってる分には負担がなかったため、このままでいることにした。ただ寝るときはさすがに魔力回復に努めるために解除していた。とにかく食料さえあればもう恥ずかしい思いはしなくていいはずだと落ちをつけた。
「また暇になった」
途方もない暇という絶望がユガ少年(?)を襲う!
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その日暗くなり始めたため焚き火をし、そのまま寝付いた。しかししばらくして何か体を水滴が流れるような感覚を浴び何事かと起き上がってみると、雨が降っていた。しばらくぶりの雨だった。あの日屋根の下で雨宿りしていたあの時ぶりの雨。すでに火は雨で鎮火しており辺りは真っ暗闇。月すら見えぬこの世界でただ一人ぼんやりと佇んていた。
海水すら半分以下になったこの世界で雨がどんな効果をもたらしてくれるのか、と考えていた。暇を弄ぶユガという存在にとって変化は大事なものだった。ただ曇天の空を眺めているだけだった。しばらくして雨が止むとユガは走りだした。水たまりができ、昇ってきた太陽を横目に熱を持った足に水の冷たい感覚を存分に感じながら、無言で走り続けた。
辿り着いたそこは海だった場所。雨の影響で若干増えて見えなくもない。ユガは最大強化した体を持ってして海を走った。まさに右足が沈む前に左足を出す要領だ。なぜユガはなんでまた海を渡ろうとするかというと、地面が揺れた気がした。ただそれだけの理由だ。500年以上も生きて今更大陸動こうとも気にはしないだろうが、500年にして今更雨が降りその直後に地面が若干の振動を見せたのか不思議でしょうがなかった。
原因はすぐに近くの山を見ることで分かった。赤々と眩しく光るドロドロとした物体が頂上が流れ出ようとしている。今まさに噴火の直前のようだった。狭い範囲だけであるならばよかったのだが遠目から見てもかなりの量の煙が吐き出さされている。とりあえず興味本位でどんどん加速すると山の大きさが目に見えて分かるほどの距離まで詰めていくユガ。すぐに麓まで来ると今度は重力制御の魔法陣をもって、火口まで近づいていった。大量の不純物を含んだ煙が辺りに立ち込めている中にユガは飛び込むと、中を覗き込んだ。
ぼこぼこ泡が弾ける音がする。噴火までまもなくといったところだが、ユガは離れない。自分の身すら守ろうとはせずにただただ見守っている。近づきすぎて見にくいのを避けるのか再び宙に浮くと平行移動し麓の上空まで移動すると、ちょうどその瞬間爆発音が聞こえた。
轟音。
見上げると煙が噴き上がり地表を覆うように広がっていっていく。
見下げれば流れでた溶岩は辺りを地面を這うように移動している。
熱気とたまに飛んでくる溶岩で肌を溶かしながらもボーっとしていたユガだったが、飽きたのか暑かったのか戻ることにした。
当然ユガに重症という概念はないわけだが、それでも飛んでくる火山灰には参るようで肺がやられ続けていた。さらに影響は肺だけでなく噴き出た煙も問題があった。急に気温が下がり始めたのだ。強烈な分厚い煙は様々な物質を含み太陽の光を阻害しているようだった。気温差の影響で風までも吹き始め煙は遠くまで広がった。水たまりがあった場所は氷になり海だった場所は凍結して動く様子はなかった。噴火の目の前にいたと言っても寒すぎたユガ。そこであの木なら大丈夫じゃないかと考えたユガは旧村まで移動することにした。 元気そうな枝だった木は結界で寒さを防いでいた。この結界は気温の影響を受けないものだ。ユガの魔力の影響を受けたようで大気の浄化作用が発達したようだった。便利になった木の側で一人静かに眠った。
起きると一面銀世界だった。
木の周囲は結界で地面が見えていて至って平均的な気温だった。
「寒っ」
雪なんてものは初めて見るわけで、試しに外に出てみると強烈な寒さに一瞬で体の震えが止まらなくなった。裸足だったからというのもあるのだが。とりあえず少しすくって結界に戻ると丸め始める。なぜかおもむろに木に当て始める。
「……寒いだけだな」
寂しくなっただけらしい。
空は相変わらず日の光を通さずにもくもくと漂っている。どうせ1000年も経てばこの気温も元に戻るだろうと、外も歩けないユガは眠り続けることにした。
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1000年が経った。結論から言って、気温に変化は見られなかった。13万年ほどを過ぎた頃にようやく日の光が差し込むようになった。それから20万年にして雪のほとんどが地面に染み込んだようだった。ちなみにユガは20万年も何をしていたかというと、宝石を埋め魔力の収束効率を上げた靴を作り大気の状態が安定した頃に再び歩き始めることにした。
最初は途方もない暇に襲われていたユガだったが、途中からは木から伸びては落ちる枝を使っていろいろと杖や家具などを作っていた。杖には昔拾った(盗んだ)宝石を埋め込んでは魔力を周りから集めるように魔法陣を組んだ。平和な結界内だからこそと、とてつもない量の魔力を詰められ虚の隅っこに放られた。一本ぐらいは自分の代わりに~と木の近くに刺しておくことにした。そのため、耐久性の問題が出るとすぐに魔力強化もつけられた。
「久しぶりに大陸を廻ってみるのも楽しいか」
と、すぐに反対側まで走っていくことにした。木の結界が一瞬暴風で揺れた。
どこに向かってるんだろ。
あと3人称下手。