4話
若干グロいかな
染まった。
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一体どれだけの時間が過ぎただろうか。丸一日分経った気がする。そう思い、自分が思った以上に冷静だということに少なからず驚きながらもユガは意識を取り戻した。何やらまぶたに焼きつくような感覚があり未だ目を開けられそうにない状況であったが、内心嫌な予感しかしていなかった。真っ白の世界に染まる以前には屋根の下にいたはずなのに雨を全身で受けている現実を鑑みれば当然、何かしらの影響を受けて屋根が吹き飛んだと考えるべきだと。原因はあの真っ白ワールドのはずなのだが、しかし魔法であったとしてもここまでピンポイントに屋根だけを吹き飛ばすことなど可能なのだろうか。何より理由がない。とにかく雨のおかげで多少は目に影響はなさそうだと判断したユガは、ようやく目を開いた。
「……」
目の前が真っ暗になった気がした。
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惨劇だった。あるはずの血の匂いはすべて蒸発しているようだった。焼きつくような熱気は周囲の火のようだがここまで来るものだろうか。おそらくこの辺一帯はすべて、林だったものや遠くに見える煙も含めて考えると焼き尽くされたらしい。ピンポイントに非ず、広範囲のすべてを焼き尽くしたようだった。いや、焼き尽くしたというよりも破壊されたようだ。大地は焼け焦げ黒に染まり、人だったものは炭となっている。屋根は木材ですらなく、灰となっていた。
「はは……」
そして、この現実を見、考え、導き出した結論として、
「僕は死ねないのか……」
ぼんやりとした焦点で一歩踏み出そうとしたユガの足に何かが引っかかったようで、どうやらそれは母親のようなものだったらしくて、まるでどうでもいいかのようにまた歩き始めた。そこにはもう、灰しか残っていなかった。
「どこに行こうか……」
呟いたユガはすぐにある一点を見つめ始めて歩き出した。
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そこに着いたユガはまず絶望という感情が胸の内に生まれた。故郷であったはずの元村は原型を留めるどころか、焦土化していた。しかし何かにすがるように歩き始めたユガであったがとある家の前に立つと膝から崩れ落ちた。
「……ぁ」
何も、残っちゃいなかった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
そこからユガの意識は再び途切れた。
次に目が覚めたときには雨が止んでいた。未だ体に纏わりついてくる熱気で皮膚がピリピリするのだが、どうやらそれだけの性ではないらしい。血流が逆流しそうなほどの体温。それらを意識から排除すると、ユガは家の中(?)を捜索し始めた。それらしき物体を見つけたユガは次にひたすら地面を掘り続けた。焦土となった地面は固く手で掘るには厳しいものがあったが、爪がはがれたところで自分の体を理解している人間にそんなことは関係なかった。延々と掘り続けていくと1m程の深さを作ると、先ほど見つけたモノを入れて土でフタをした。満足がいったユガは目印を探すことにしたようで、辺りを見回すと明らかな違和感を感じた。
「……何で……」
そこには青々とした森があった。
「何で燃えていないんだ……?」
不思議に思ったユガではあったがこれ幸いと、とにかく目印に枝でも刺しておこうと画策し森の中に入っていった。森の中は外の影響を完全に受けておらず、熱気する遮断されていた。完全に違和感どころではなくなっていたが、あの日を思い出し久しぶりに頂上まで登ってみることにした。
「あの日」
3分の1まで登るとユガは唐突にしゃべり始めた。
「あの女に出会ってからだ」
半分まで登った。
「僕の身長が伸びなくなったのは」
3分の2まで登ると、若干悪意がこもったしゃべりで呟く。
「僕が、死ねなくなったのは」
頂上が見えてきた。
「そうだよな」
「ええ、そうよ」
女がいた。
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「何でここは無事なんだ」
「私が結界を張っているからよ」
「ここまで広範囲の結界なんて、都市にある結界装置でも無理だ」
「それは当然私だからできるのよ」
「意味がわからない。それよりも何で僕をこんな体にした」
「君から振ってきたんだけど……。そうねぇ……しかし予想以上に落ち着いているじゃない。つかみかかられてあんなことやこんなことされちゃうのかと思っちゃったけど?」
ファルは疑問を浮かべた表情で尋ねるがユガは憮然としている。
「質問に答えろ」
「つれないなぁ……。はいはい、そんな目で見ないの。理由は単純、この今の世界を見て分からない?まぁ分からないとは言わせないけど」
「……この風景を見ていたっていうのか。だから保険のつもりで僕をこうしたと」
「大正解ねー。どうやら不老の力で狂うこともできないようね。難儀ねー」
「……僕がお前を殺すとは考えなかったのか」
「無駄よぉ。だって私もうすぐ死ぬもの」
「……は?」
「さっきは大正解とは言っちゃったけどね。実はそれ、2番目の理由なのよねー。今私が言ったのが1番目ね」
「そんな……」
「君の考えぐらい分かるわぁ。だって同じだもの。私がいて安心した。僕は一人じゃなかった、ね?」
とたんにユガの顔が青くなったようだった。
「ふふふ……そんな顔もかわいいわね。当然私が死ぬということはこの結界も解けてしまうわ。枝でもなんでも取っていくなら今の内よ」
「…………分かった」
「んもぅ、そんなに絶望しないでちょうだい?それよりも、刺した枝が燃えるとか思わなかったわけ?」
「あっ」
「まあ大丈夫でしょう。私のこの結界を真似して囲めばいいわけだし」
「そんな簡単にできるわけ」
「できなきゃおかしいもの。今のあなたには私の魔力が詰まってる。かるーくできちゃうわよ」
ほれ、とファルは目の前でこんな森の中で火を吐いた。
「なっ!」
咄嗟に腕でかばうが、一切燃えるような感覚は襲ってはこなかった。
「あらぁ、私よりいい感じじゃない。これなら安心して逝けるわね」
おそるおそる目を開けるとそこには薄透明な壁とその向こう側で覗き込んでくるファルの姿が見えた。
「これが」
「ちゃーんと使えたでしょ?」
「…………」
「……?ユガくーん。おーい、聞こえてる?おー」
「すっげえええええええええ!!!」
「ひゃっ」
「ぼ、僕が魔法なんて……夢みたいだ」
「き、君も男の子ってわけね……」
「ほ、他のことも教えてくれない!?」
「そんなキラキラした目で見られたら答えざるを得ないんだけども……どうやら時間のようね」
「ま、まさか」
「そのまさか。もうすぐ結界も消えるし、この森も燃え始めるわ。そうなる前に早く下りなさい」
「で、でも……」
「大丈夫。たかが×××億年程度、寝て起きたらすぐなんだから」
と、ファルは少し寂しそうで、それでいて開放される喜びに震えながらもユガを見つめ続けていた。
「一生恨んでくれてもいいよ。私はそれだけのことをしたものね」
ユガは泣きそうな顔する。
「そんな泣きそうな顔しないでよねぇ。こっちまで泣いちゃいそうだわ。何て、君をそんな体にしっ放しにする私にそんな資格ないわねぇ……ん?」
「ん?」
「これも一種の放置プレイ……!イイ!」
「早くどっか逝っちまえ!」
そう叫ぶとユガは後ろを向いて歩き始めた。
ごめんね、そう呟く声が響くと、何か雫が落ちた音が聞こえた気がした。
跡にはもう、光の粒子しか残らなかった。
これで正真正銘の一人ぼっちとなった。
小学生のときの長崎見学