3話
飾りつけ
今まで通りだった
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あの日からずいぶんと時間が流れた。
老人が3、4人亡くなったり5、6人の子供が生まれてきたり、ユガ達子供も狩りと呼ぶには少々浅いが、大人達について行って狩りを学ぶようになった、そんなある日。
「村長、さきほど王都まで特産品を売りに行った男達が、近々戦争が起こるような噂を耳にしたらしいです」
「何、本当か!?」
「本人達もあまり真剣に聞いたようではありませんでしたが、王都の民衆はざわついた様子だったとのことです」
「……真実かどうか悩むところではあるが、危ない道は避けるべきだろう。ううむ、そうなるとあまり王都には極力近づかないようにしなければならんか……」
「しかし、そうなると食料などの問題が」
「それはわかっておる。狩りにも限界あるのだろうことはわかりきったこと。獲物の数も最近は減ってきているという報告は聞いておる」
「ということはできるだけ今のうちに王都の方で食料を集めておいたほうがよさそうですね」
「そういうことになる。が、しかし王都のほうも食料の確保に必死のはず。今行ったところでたいしたものは売ってはおらんだろう」
「で、ではどうするので」
「……移動するしかあるまい」
「し、しかしそんな急に言われて村の者達は聞くでしょうか」
「しょうがなかろう。付いてこぬものを気にしていてはその時が来てからでは遅いのだ。即刻皆に伝えよ」
「は、はい」
側近の人間が慌てて外に出て行く音を聞きながらその男は考えていた。
「何事も、起こらなければよいのだが……」
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その頃ユガはというと
「おいユガ、聞いたか?王都の近くで戦争が起こるってよ」
「……」
「やっぱり気になるよな~。ここ最近そんな話は滅多に聞かないっていうのによ~」
「……」
「村長はここを離れるって言うけどさ、正直俺ここに残ってみたいんだよな~」
「……」
「ユガはどうする?やっぱり離れる?まぁユガのことだからな~。」
「……」
「俺の本音としてはユガと一緒に戦争見に行きたいってのがあるんだけどよ~……って、ユガさん聞いてます?おーいユガー」
「……」
「……ユガちゃーん」
瞬間ユガの拳が光ってうなり、少年のあごをきれいに捉えると軽く1mは浮いたであろうアッパーを放った。
「なにすんじゃぁ!?」
「……二度とその呼び方で呼ぶんじゃない。殺すぞ」
「……ユガくーん目が怖いって。怖い怖い怖い!!じりじり寄ってこないで!!」
ユガは少年のある一点を集中して見ながら足を放とうとしてた。そもそもなぜここまで怒り狂っているかというと
「まったくもう、身長が伸びなくなったからって俺に八つ当たりしなくてもいいじゃっうお危ねぇ!?」
「次は外さない」
「そうは言っても村のお姉さん達からモテモテじゃねえか~。ユガちゃーんってごぼっ」
起き上がりかけていた少年のみぞおちにひざを見事にクリーンヒットさせると、少年は白目を剥いて崩れ落ちていった。ついでに蹴り上げておいた、どこをとは言わないけれど。
「……お前の言ったとおりだ。僕はここを離れる。僕はお前みたいに好奇心旺盛なわけじゃなくてな」
「……」
「……あ、まだ気絶してたか」
何度か顔をひっぱたいていると少年は気が付いたようで、あまりの痛みに涙と鼻水を垂れ流しながら抗議の声を上げてはユガに受け流されてを何度か繰り返していると、両親が迎えに来たようだ。
「……じゃあな、ユガ」
「ああ、またな」
別れもほどほどにそういうとユガは両親に付いて行き、もう後ろは振り返らなかった。
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「本当にこれでよかったんでしょうか……」
「まだそんなことを言っているのか。今更我々は歩みを止められんのだ」
「……」
村民の約8割は出て行くことを決意し、約2割のおよそ歩く力のない老人やその付き添いで共に残ることを決意した人たちは今だ村の中である。
「しかし行く当ては……」
「すでに他の村に戦争が起こることを危惧し、すべてが終わるまで滞在の許可が下りるかどうかの話はつけてある」
「そうだったんですか」
側近はあからさまに胸をなでおろした様子だった。
「村長!あちらの方角の雲行きが怪しいですぞ!そろそろ屋根を作って休んだほうがいい!」
「む……確かに。この様子では夜には降りそうだ。皆の者!屋根を作り風雨をしのぐぞ!」
男衆が中心となって木材をつなげて建物らしきものを建てていく。その間女達は食事の準備を進めていた。やがて完成し一段落ついたところで風が強くなってきた。どうやら雲がすぐそこまで近づいていたようだ。
「じきに雨が来る!すぐに中に入るのだ!」
最初はぽつぽつと聞こえていた雨の音は次第に大きくなり、最終的には雷まで聞こえてくる始末だった。
時間が経つにつれて寝息が聞こえてくる数が増えてくる。そんな中一人起きていたのはユガだった。
「さっきまであんなに天気がよかったってのに……」
気分が落ち込んでいるユガだったが、原因は雨のせいだけではなかったようで
「なんかいやな予感がするな……こう……胸の中が痛む感じっていうか……口の中がひり付く感じ……」
周りは全員寝ていて特に仲がいいという人間もすでに遠くの村の中で寝ているのだろう。誰かにそんな話ができるはずもなく、なによりも話をしている暇も、なかった。
「……!?」
ユガは背筋がぞわっとくる感覚に襲われた。
「なにっがっ……!?」
瞬間、ユガの目の前は真っ白に染まった。
予想通り