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やっつけ
少年は選ばれた
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「……あらぁ。これはまたかわいい坊やたちですこと」
「……お、お前は」
「あらあら、レディに対してお前だなーんて、ひどい言い方だとは思わない?私にはちゃんとファル・デュレッタっていう可愛らしい名前があるんだから。ファルおねーさんと呼んでくれてもいいのよ?」
「そんなことはどうでもいい!なぜ夜中に誰も入ってはいけない山の中に大人がいるんだ!?」
「私の名前をどうでもいいの一言で……。お姉さん、泣いちゃいそう。だいたいそれはキミ達にも言えることじゃあないかしらぁ?キミ達だって同じように、こんな暗ーいこの山に足を踏み入れてるじゃない」
「そんなことを言っているんじゃない!僕は一昨日からこの山に入るまで!確かに入って行った人達は皆が皆、村に戻ってきているのを確認している!それなのに!」
ファルは目を閉じて黙っている
「なぜあんたはそんなに綺麗で汚れてもいない服を着て、ここまで歩いて来たにしては清潔そうなんだ!」
「……うれしいこと言ってくれちゃって」
「何よりあんたみたいな女が村周辺にいたら誰かが噂するはずだ。だがそれもなかった。これをどう言い訳する」
「……うふふ。それは新手のくどき文句かしらぁ?かわいい顔して、なかなか言うじゃない。それにしてもどうやらもう一人の子は混乱していて何がなんだかって顔をしているようだけれど」
「ユ、ユガ……?」
ファルはユガから目をそらし、そう言って歩き出した。咄嗟にかばう様に両手を広げてかばうように立ちはだかる。
「なぁに?仲良しの友達を守ってあげようとしているの?かわいい」
クスクス、と笑うファルに対してユガは
「な、なんで僕がこんな奴を!」
「え、えぇ、ひ、ひっどい・・・」
ユガは若干照れたように顔を赤くして後ろを向きながら言い放つ、と同時に再び振り向いた。
「なっ、お、おい」
「まぁ、安心して」
「え……」
ユガははユガの目と鼻のすぐそこまでにファルが近づいていたことに驚き、立ち尽くしてしまった。
「私が用があるのは」
「ちょ……」
女はユガの頬に手をかけるとそのまま
「チュッ」
「……!!?!?!!??!?!?」
口付けをしたのだった。
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「……う。ここは……」
「ユ、ユガ!?ユガ!」
「え、うわ、ちょ、待っ」
ユガは目が覚めるや否や、誰かに抱きつかれたために驚いてしまい、寝ていたのであろう大きな石の上からもろとも落ちてしまった。
少年ごと
「いったたたた・・・」
「ユガ、ユガ、大丈夫か?怪我してないか?」
「わかったわかったからちょっと落ち着けって近づくな暑苦しい蹴るぞコルァ!」
「もう蹴ってるぶふぁぁぁぁ!?」
少年は昇天したようだ。
「いってぇ……怪我してないかを聞いておきながら怪我させてんじゃないぞ……まったく」
「ご、ごめんってさっきから謝ってるだろ?」
ユガ達はどうやら森の入り口にある、大きな石の上にユガ達は寝ていたようで、気が付いたらここにいたようだった。
「……さて、何があったか覚えてるか?」
「いいや、ぜんぜん」
「そっか……。僕も思い出せなくてさ。何かが山頂にいたような記憶があるような、ないような・・・」
「うぅん……俺はなにかもやもやとした物がいたような記憶しかないんだが……」
「まぁ、思い出せない物はしょうがないし、もうすぐ夜も明ける。すぐに家に戻ろう」
「そうだな」
そう言ってユガ達はそれぞれの家に帰っていった。どうやら少年は家に帰り着くとすぐに登山の疲れからか、床について寝てしまったようで、しかしユガは家に帰ってもずっと考え事ばかりをしていた。
それはなぜか。
理由は簡単で、昨日夜中に山頂で起こった出来事が全部頭に残っているから。あの女はいったい誰だったのか。そしてあそこにどうやって進入できたのか。なぜファーストキスを奪っていったのか、疑問は尽きないようだった。
若干顔が赤いように見えないでもないのだが、気にしてはダメなのだろう。
「結局なんだったんだ……」
疲れと疑問が渦巻く中、そこでユガは気づかなかった。いや、気づくわけもなかった。
抱きつかれて落ちた時に付いた傷、そして今までについた切り傷・掠り傷にいたるまでがすべて
つるつるに無くなっていたことに。
付焼刃