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第4話 錬丹術師さんのまったり日常生活♪ ~ あのお宅、なんか変……? ~

 都から西側の、牧歌的な雰囲気が穏やかな地に居を構えてから、桃花タオファパイ。と共に和やかに日々を過ごしている。

 錬丹術師、と名乗ってしまうと目立つため、表向きは普通の薬屋としていとなんでいた。錬丹術自体が稀少に過ぎるため、案外と誰にも気付かれないものだ。


 とはいえ、その効能は絶大。気持ち程度だが村里より少し離れているのに、連日、客足は絶えない。今日も今日とて、近所のおばあさんに対応していた。


「いやあ、すまないねぇタオちゃんや……山仕事で腰を悪くしちまって、アイタタ。タオちゃんのお薬は良く効くから、いつも甘えちゃって」


「うふふ、構いませんよ、せきさん。では膏薬こうやく(※皮膚に塗る薬)を処方しますね。薄い布で固定しますから(※湿布のようなもの)、時間が経ったら変えてくださいね」


「ああ~……助かるよ。おおっ、何だかもう効いてきたみたいだわっ。これならすぐにでも山に入って、猪の一頭でも仕留められそうだねぇ」


「うふふ、ご無理はなさらず♪ うふふっ」


 都でおかしな男どもを相手しているより、全く以て平和な時間である。とはいえ近所付き合いの石おばあさんとしては、気がかりもあるらしい。


「でもタオちゃん、アンタみたいな若くて綺麗な子が、こんな離れに一人暮らしなんて、ちょっと心配だねぇ……この辺は治安がいいって言っても、絶対なんか無いんだからさ。旦那さんでもいりゃ、少しは安心だろうけど……」


「あら、ご心配なく。私には、とっても頼りになる同居人がいるのですからっ」


「おやっ、なんだい、()()()()がいるのかい? いやあ知らなかったよ、見たことなかったからさ。それで一体、どんな人が……」


()()()()、というか……あら、ちょうど良いところに。パイ、おはよう。もうお昼よ、お寝坊さんねぇ」


「おやおや、パイさんだなんて呼んじゃって。気軽だけど、なんだか犬や猫みたいな愛称で……ウオッ」


 おばあさんのお口から、ちょっと尖った呻き声が上がるが、それも当然。

 姿を見せたのは、()()ではない。犬や猫、とも呼べない。


 白い、()――しかも人間一人くらいなら丸のみにしてしまえそうな、巨大な大虎だ。


 暫し固まっていた石おばあさんだが――次の瞬間には、携えていた弓矢を構えて叫ぶ――!


「――ウオオオでけええぇぇぇ! タオちゃんお下がりィ! こいつぁ見たこともねぇ大物だぜェ! 安心しなアタシャ熊も狩れんだナメんじゃないよォ!」


『ム。……仕事中だったか桃花、忙しいならまた後で――』


「喋ったアァァァ!? 妖魔の類かい上等だよォ! 齢八十まで続けてきた狩人生活、残り短い生涯で最大の獲物に、この血が昂るわ! 先に冥府へ旅立った爺さんに良い土産話が出来るぜババア伝説ここに打ち立てたらァ!」


「石さんったら、ご壮健だわ。まだまだ長生きできそうで、何よりです♪」


 さてその後、規格外に巨大な白い虎さんが〝同居人〟であると桃花が説明し、

「オウオウ剛毅な話だねぇタオちゃんは獣使いかい!? ガッハッハ!」

 と石おばあさんは納得(?)して帰っていった。滾る血を鎮めるため、今から山で狩りをするのだという。


 そんな元気なおばあさんを見送り、特に調子を崩すことなく、桃花は改めて白と対話した。


「ふう。あ、パイ、改めておはよう。うふふ、お腹でも空いた?」


『むむう。今の騒ぎに動じぬタオファは、逆に少しばかり心配になるが……いや、腹具合は特に。それより薪が少なくなってきたようだ、少し補充しておこうか?』


「あら、助かるわっ♪ ありがとう、パイ!」


『! ふふふ、なに、お安い御用だ。さて、それでは一仕事するか。とはいえ、この姿では不便だな、よし……』


 白が虎の体躯を裏口へ引っ込ませると――さて桃花は、次の来客である近所の奥方おくがたを室内に呼び寄せ、対応した。


「あらていさん、いらっしゃい。今日はどこか、お調子が?」


「ええ、桃花さん……何だか今朝から、眩暈がして。旦那は兵役で不在だし、どうしても不安になって、こうしてお邪魔したんだけれど……うぅ」


「ああ、大丈夫ですよ、座って楽になさって。……うん、少し血流が滞っていますね。こちら……紅宝丹こうほうたん(※後に解説)を出しましょう。夕食後に一錠だけ服用すれば、明日の朝には良くなりますよ。取り急ぎ今は、こちらをお水と一緒に……」


「ああ、ありがとう、桃花さん……んっ。はあ、何だか楽になった気がするわ。……ふふ、この村には薬師くすしやお医者さんなんていなかったから、桃花さんが来てくれて、みんな喜んでるのよ。大病を患っても都まで行かないといけないのは、大変だものねぇ」


「そうだったのですね……いえ、皆さんが喜んでくれるなら、私としてはそれが何よりですから」


「桃花さんは優しい人ねえ。でもこのお家、貴重そうなお薬も多いし、一人じゃ不用心かも……よかったら、()()()()でも紹介しましょうか?」


「あ、いえいえ、石さんにも言われましたけれど、私には頼れる同居人が……あ、ほら、ちょうど今」


「あら、そうだったの? ふふ、余計な気を回しちゃったみた――イェアッ」


 何だか奇特な呻き声をあげた程さんだが、そんな彼女が目の当たりにしたのは――長身の偉丈夫、だがしかし面貌は天上人の如く秀麗な、絶世の美男だった。


「タオファ、薪を割り終えたぞ。あれほど補充すれば、当分は充分だろうよ」


「あらパイ、ありがとう、助かったわっ」


「なに、先も言った通り、お安い御用だが……そうだな、褒美を賜れるというなら、口づけの一つでも――」


「いえ。それはご遠慮します」


「うう……この姿だとタオファが塩対応すぎる……つらい、戻ろ……」


 高い位置にある肩を、しゅん、と落として退室する姿は、何だか哀愁がある。

 が、そんなパイを見送った後――程さんが見せた反応とは。


「――――――」


「ふう。……あっ、すみません程さん、お話し中に。といっても処方は終わりましたので、もう大丈夫で……あの、程さん?」


「なっ――なんッッッじゃあの超絶美形はァァァ! どないしてん! 只事やないでしかし! あんなん都でも見たことないわ何者やホンマ!?」(※中華的な方言みたいなものとご理解ください)


「なるほど……人化したパイの姿を見たら、普通はこんな反応になるのねぇ。勉強になるわ……普通かはちょっと疑問だけれど」


「ハアハア、体が熱いッ……これが桃花さんのお薬の効果なのね! こいつぁ辛抱たまらんで……刺激に乏しい田舎暮らし、たまにゃ目の保養も必要やっちゅーねん! ほな失敬しますわ桃花はん、いざ貞淑なる人妻の魅力、解放する時――!」


「うーん、お薬の効果かしらコレ……貞淑かどうかも悩ましくなってきましたし。あと不貞はダメですよ~程さん~」


 軽めのご注意で止まるはずもなく、裏口側へ向かった白を、程さんが追いかけると――直後『キャアアア虎!? トルァァァァ!?』という元気な悲鳴が響いた。何はともあれ、体調の回復は申し分ないようである。


 そんなこんなで桃花も仕事が終わると、白虎の姿に戻った白が入室してくるが、出し抜けに一言。


『変な人しかいないのか? この国』


「うーん、どうなのかしら? まあ都でもあんなものだったし、普通じゃない?」


『ああ、そう……だいぶヤバイのかもな、人の世……いやしかし、タオファは働き者だな。貴重な薬だろうに、惜しまず使うし。錬丹術で作成した薬品など、本来は王侯でも手に入らぬほどの逸品だろう?』


 それはまさしく、白の言う通り。石おばあさんや程さんに処方した薬は、それぞれに宝石が使われており、材料だけでも相当の価値があるものだ。

 効能も処方によって違う。一部ではあるが、以下に例を示そう。


紅宝丹べにほうたん:紅宝石(※ルビー)が原料。血行改善、身体の活性化などの効能。程さんに処方。

緑宝丹りょくほうたん:緑宝石(※エメラルド)が原料。治癒、精神の安定、疲労回復などの効能。石おばあさんに処方したが、残念ながら精神安定の効果はなかった。

(※注意書き:この世界で錬丹術師・桃花だけが実現した技術なので、実際の服用などはご遠慮ください)


 そんな貴重な薬の数々を施していた桃花だが、やはり惜しくなどないようで、微笑んで答えた。


「いいの、別に暴利を求めて始めたお仕事じゃないし。私は元々、病に苦しむ人のためになればと、そう思って錬丹術師の道を志したのだから。こうして人のために技術を使えるのなら、それ以上のことはないわ」


『! タオファよ……何と清き心根、どこまで我の心を掴むのか……!』


「それに無償タダというわけではないし、石おばあさんは猟で得たお肉をたくさん分けてくださるし、近所からお野菜や果物もたくさん頂けるから、食事や生活にも困らないもの。あ、食事と言えば……パイって私が錬丹術で作ったお料理しか食べないけれど、味とかって材料によって違うの?」


『うむ。紅宝丹ならめっちゃ辛い、辛旨からうまがたまらぬ感じである。緑宝丹が材料なら、白菜をめっちゃ煮込んだ感じである、体内からホクホク温かくてたまらん』


「なるほど、けっこう違うのねぇ……じゃあ神獣さん専用料理のお料理として〝錬丹膳れんたんぜん〟とか名付けちゃいましょ♪ 紅宝丹を使う場合は、〝紅宝膳べにほうぜん〟という感じねっ」


『た、タオファ、我のために、そんな……ウオオオオン! 昂る気持ちが抑えきれぬ、我は嬉しいぞ! グオオオオオオオッ!!』


 そうして、真っ昼間から雷鳴の如き咆哮を響かせる白だった。

 しかしそんなことも含めてか、この地に越してきた桃花の居住は――


〝腕利きの美しき薬師くすしが住まう家〟

〝天上人のような美男いけのめんをたまに見かける〟

〝なんか……でっかい虎おる……やべぇ……〟


 と、総合的にかんがみて〝あのお宅、なんか変……?〟と噂されるようになった。妥当な結果である。


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