手折られた花、(7)
「ぅ、……!」
「スカーレット。なあ、可愛いティティ。」
両親が使っていた愛称で呼ばれ、また鳥肌が立った。愛おしい思い出を汚される気がして、首を振って呼ぶなと拒絶した。
結んでいた金髪がはらはらと白い頬にかかり、きゅっと閉じた瞼とこわばった表情は哀れなのに、子爵の目には蠱惑的に見えた。親子ほど年齢が離れていても節操なく、姪に骨抜きにされている。
「お前が、少しでも私に心を許してくれたら……なあ、ティティ。私はお前を誰よりも大切にすると誓おう」
ひっ。
小さな悲鳴が零れた。力で負けて、ずりずりと引き寄せられてもう片方の手が折れそうなほどに細い腰にかかる――寸前で、子爵が呻く。
「ぐ、うう!」
同時にスカーレットを捕えていた手から力が抜けた。必死で抵抗していたせいで足台のときとは比べ物にならない反動に今度こそ尻もちをついてしまうと覚悟をしていたスカーレットを支えたのは、覚えのある逞しい腕だった。
──初対面にも関わらずに一日に二度も助けてもらった。
朝に出会ったときよりもラフな格好の男は、着飾っていたときと変わらない威圧感がある。足台に乗っていないせいで身長差も更に大きく鳴り、スカーレットは男の身体にすっぽりと収まっていた。
また、助けてくれた……。子爵に触られていたときはぞっとしたのに、ドレス越しに感じる男の手のひらは安心感がある。安心してほっと息を吐くと、腰に回っていた男の腕がビクッと跳ねてそろそろと離れていく。
「悪い……」
「え?」
「国境に4年いた。騎士と過ごしていたせいで、レディへの、距離感を間違えた」
レディ。レディ・エンフィールド。そう呼ばれていた過去が風のように脳裏を駆け抜けて、胸が苦しくなる。
令嬢には似合わない服装で、ショールで隠していない美しい身体を目の前にしているのに、深い緑色の目はスカーレットの内面を覗くようにまっすぐな眼差しをしていた。
触れてはいないとはいえ簡単に手が届く距離で、スカーレットよりも体格の良い男がスカーレットを尊重している。じっと見下ろしてくる視線はスカーレットの発言を待っているようだ。
「誓おう。俺はお前が許さない限り、お前に触れない」
誠実な言葉。子爵とは異なり、誓いという言葉が重たい。
きりりとした面立ちで宣誓をしたにも関わらず、「だが、緊急時には……」と視線を逸らして小声でつぶやく男に、スカーレットはまた笑った。




