手折られた花、(4)
がっしりと強い力で突然掴まれて、スカーレットは小さく悲鳴を上げた。驚きと恐怖で震えて硬直していると、「なにをしている」と低い声が降ってくる。
スカーレットが聞いたことのない声だ。
視界にある自分の腕を掴む手は健康的に焼けている。スカーレットの腕が細いせいか、男の手が大きいせいか、腕を掴む指がかなり余っていて掴みにくそうだ。
「なにをしている?」
返事をしないスカーレットを責めるように同じ質問が繰り返される。
ただ仕事をしていたと言えばいいだけなのに、スカーレットはすっかり委縮していた。早く返事をしなくてはと焦って、足台の上に立っていることを忘れてしまい身体が傾く。襲ってくる浮遊感にぎゅっと目を閉じると、腰を逞しい腕が支えた。
自分の体重がかかった腕はびくともしないのに、腕が当たった腰が痛い。
「うぅ……」
自分の身を守るように寄せて、眉間に皺を寄せて呻くと腰を支える腕がわずかに弾引けた。スカーレットはその腕に身を委ねていたので腕の傾きと共に身体が傾くので、このまま地面に放り出されるのではないかと恐ろしくてまた身を硬くする。
だが、腕はそれ以上傾くことはないし、スカーレットをまっすぐに立たせることもない。そして低い声も急かしてこない。
おそるおそる、目を開く。まず目を引いたのはスカーレットを見ている緑の目だ。木々の深い緑よりも、もっと深い。赤褐色の髪は腕に抱かれているスカーレットの顔に触れそうに揺れている。
彼の腕がスカーレットを支えているのに、最初に腕を掴んだ大きな手はこれ以上触れないとでも言いたそうに指が開いてスカーレットから離れるように反っていた。
じ、と見つめ合う時間は数秒程度。
「……起こすぞ」
男が一言告げて、ゆっくりと腕を動かしてスカーレットを足台の上に立たせた。腕がスカーレットから離れる前に、男は足を上げたかと思えば足台へと振り下ろすこと2度。大きな振動で落ちないように支えつつ、男が足台を勢いよく踏むと足が地面に突き刺さって安定性を増していた。
腕を放しても不安定でないことを確認する男は、足台に乗ったスカーレットよりもまだ背が高かった。
突然のことできょとんとしているスカーレットとまた目が合うと、何かを思い出したようにハッとした。そして、スカーレットがたった今結んだロープを両手で掴むと、頑丈なはずのロープをぶちぶちとちぎってしまう。
「な、なにをするの!」
「……」
「せっかく結んだロープが……」
断面から繊維をあちこちに跳ねさせたロープが男の手を離れると地面に落ち、木に残ったままのロープへ思わず手を伸ばす。指先がロープに触れる寸前に、男の硬い手にぶつかる。行く先を阻むように手のひらをロープとの間に差し込まれた。まるで、壁のような硬さのある手のひら。ごつごつとしていて、このままスカーレットの手は食べられてしまいそう。
「馬鹿な真似をするな」
木と男に挟まれ、狭い足台の上にいるスカーレットは威圧感で身を竦める。
厳しい顔で見下ろしていた男はスカーレットの怯えに気付いてもう片方の手で顔を覆い、深く長く息を吐いて仕切り直しをするかのようにまたスカーレットを見た。
「病気か、何か知らないが、死んだら終わりだ」
「……病気?」
死んだら終わり、って。
そこでスカーレットはようやく男の勘違いに気が付いた。
だがしかし、状況を整理すると確かにそんな場面にも見えるに違いない。足台に昇り、少し高い場所にロープをくくる女。
「細いな。……患って長いのか」
彼はスカーレットが病気を患い、絶望してこの世を旅立とうとしているように見えたのだろう。
幸いにも病気はしていないが、自分が不健康に近い体つきをしている自覚はあった。怖い顔と低い声で誤解をしてしまいそうだが、きっと、心配をしている。
ぱち、ぱち。青い目を瞬かせながら男を見上げていると、少しだけ気まずそうに男のほうが目を逸らす。
何かしてしまっただろうか、と悩んでいるのが透けて見える、表情と仕草。




