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手折られた花、(3)



 細い指を冷たく濡れたシーツに差し込み、ショールがずれないようにゆっくりとロープにかけ、皺がよらないように広げる。水仕事を知らなかったスカーレットの指にはあかぎれができて、関節を曲げるたびに痛むがせめてただでさえ迷惑をかけている他のメイドに今以上に邪見にされないように与えられている仕事はしていたい。


 スーザンは時々スカーレットを気にして声をかけてくれる。


 遠くで鳥が鳴いている。

 シーツは真っ白で清潔な匂いが心地いい。

 肩にかけたショールは温かい。


 南部に近いせいで変わりやすい天候にボイエットの領民は慣れているようで、スカーレットは2年過ごしてももうすぐ雨が降りそうなのに外で干すことに慣れないでいる。雨が降れば気分が更に落ち込み、動くのが億劫になるのにシーツを抱えて屋敷の中へと走らなければならないのも苦手だった。


「今日はシーツやカーテンが多いですね。お客さまの分があるからかなあ」


 ロープはシーツやカーテンで埋め尽くされており、いつもよりも随分と量が多い。客を迎えるために屋敷中の布を洗濯しているのかと思うほどの量だ。


「あの木にもロープを張る?」


「ううん。そうしましょうか。ロニーさん! 干場を増やしたほうがいいですか?」


 干す場所が足りないとなれば増やすしかない。まだロープをかけていない木を指差してスカーレットが提案すると、スーザンは洗濯場を担当する他のメイドに声をかけ、予備のロープと足台を持って戻ってきた。


 スカーレットと一緒にロープを張るつもりらしいが、小柄なスーザンでは足台に昇ったとしても高さが足りないだろう。158センチのスカーレットなら20センチはある足台に乗れば十分は干場が作れるはずだ。


「一人でも大丈夫よ」


 洗濯場で働いて2年になるので、ロープをくくるのも何度かしたことがある。スーザンの心配は嬉しいが、好意に甘えて彼女の仕事の邪魔をするのは申し訳ない。それでも一緒に行くと繰り返すスーザンをやんわりと説得させて持ち場へ戻らせると、シーツの隙間を抜けていく。


 スカーレットはいつも屋敷に近い位置の干場で働いているが、奥から手前へ干していくのが決まりのようで、歩き始めはまばらに干されているシーツが奥に行くと壁のように敷き詰められている。


 最後のシーツの壁を抜けて振り返ると屋敷は真っ白な波に沈んでいるようだった。あの屋敷から離れただけでも肩の力が抜ける。下がった肩からずれたショールを整え、スカーレットは整列した木へ近付く。


 高すぎるとメイドの手が届かず、低すぎると洗濯物が地面についてしまう。手を上にあげて、指先が届く高さ。ロープはたわんで中心が下がるので、そのことも考えなくてはならない。


 ちょうどいい位置の枝を探し、目星を付けるとそばに足台を置く。ヒールの低いパンプスで気を付けながら台に乗ると地面に足台が少し沈んで傾いた。


 思ったよりも難しそう。それでも自分から言いだしたことなのでスカーレットが腕をあげてロープを結び始める。ショールがずれるたびに上げて、太い枝の根本にロープを投げて、回して、きつく、きつく結ぶ。


 万が一でも解けるとシーツがすべて洗い直しになるので、責任は重大だ。


 踵を浮かせ、不安定な場所で慎重に作業をしているので集中していたスカーレットは背後から近づく影に気付かなかった。



 ざくざくと草を踏む音が耳に入り、振り返る前にロープを結ぶ腕を掴まれた。


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