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手折られた花、(1)




 かつて輝いていた金色の髪を一つに結び、簡素な部屋の割に大きなクローゼットから今日の服を選ぶところからスカーレットの一日は始まる。

 何度見ても、眉を顰めたくなる服はすべて子爵の趣味で大人に近づくスカーレットの身体のラインを浮き彫りにさせ、肌を透けさせるレースが下品なほどにふんだんに使われていた。すべてを身に着ける前に定期的に服は増えたり減ったりしており、子爵の手間がかかっていることがひどくおぞましい。


 端から端まで確認し、中でも布面積に多いものを選びナイトガウンから着替えてヒビの入った全身鏡の前に立つとスカーレットの大好きな母親によく似ている顔で、母親とは正反対に異性を挑発するようなドレスを着ていることが恥ずかしかった。


 肌が見えること以上に、貴族令嬢として、エンフィールド令嬢である自分の名誉やプライドが汚されていること、それを受け入れることしかない弱い自分が恥ずかしい。


 ただ、弟のダレンが王立貴族学園に通えているのも、エンフィールド領地を経営しているのも実質は叔父と後継者教育を受けた従弟だという。スカーレットに知識も財力もない以上、どれだけ悔しくても恥ずかしくても泣きたくても、抵抗できる立場にない。エンフィールドと名乗ることも恥ずかしくなるほど、この2年間でスカーレットは疲れてしまっていた。


 ただ弟のため、エンフィールドの領民のため、と言い聞かせて日々を過ごすだけ。


 鏡の前で大きなため息を履くと、スカーレットの起床を確認するノックの音がした。軽いノックだけで震えるドアから目を逸らして窓を見ると、寝る前には星が見えていたのに曇天が広がっている。


 雨が、降りそうだ。


 両親の馬車を横転させた日も雨が降っていた。だからスカーレットは雨が好きじゃない。花や草が喜ぶからと雨の日に窓に張り付き、ぱたぱた、さらさら、雨の音に耳を傾けながら読書や昼寝をしていた思い出が今では信じられない。


「お嬢さま! 準備ができましたら庭にいらっしゃってください!」


 落ち込んでいても仕事はやってくる。荒々しいメイドの声に急かされてスカーレットはドアを開ける。

 メイドは毎朝、このドアが開くたびにはっと息を呑む。子爵が用意したのは胸元も背中も開いた、どう考えても18歳の未婚の貴族令嬢には不似合いなものだ。真っ白なドレスはぴったりと身体に密着し、なだらかな曲線を強調させていた。


 自分で身支度をしているので凝ったヘアスタイルも化粧もしていないのに、それでも伏せた睫毛の下で揺れる青い目と、淡々とした表情がぞっとするほど美しい。羨望と嫉妬を集める、不穏な美。


「……今日は忙しくなりますよ。お客さまがいらっしゃいますからね」


「お客さま?」


「国境での遠征を終えられた騎士さまが、天気がよくなるまでボイエット領で休まれるんです」


「ここにいらっしゃるの?」


「遠征部隊の隊長と側近の方々はこちらで宿泊されます。お嬢さまのことは奥さまから何もご指示をいただいておりませんから、いつも通り働いてもらいますよ」


「ええ」


 子爵はスカーレットを着せ替え人形にしたい。


 ただ子爵夫人はスカーレットを一介の使用人同様に、あるいはそれ以下の扱いをしたい。その意見がぶつかった結果、スカーレットは働くのにふさわしくないこのドレスで今日も働かなくてはならない。

 ボイエット邸で、スカーレットに自由はない。だがこの不自由さから逃げ出し、自らの道を自分で切り開く勇気がスカーレットにはなかった。




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