~3~ 国外追放
エリオット「ジュリア、起きて。」
ジュリア「ん。。。?」
エリオット「客人だ、準備して。」
私はその一言に飛び起きた。
ひたひたひたひた
耳を澄ませると足音が聞こえてきた。
フードを深く被った人物が私達の牢の前で足を止め、蝋燭をかかげた。
客人「ジュリア嬢。。。起きていますか?」
ジュリア「こんな時間にどちらさまですか?」
客人「私だ、アントン。助けに来たよ。」
ハッとして人物を見ると、その人はフードを片手で脱ぎ、顔を見せ、また深く被りなおした。
アントン「母上は君たちを国外追放で済ませたくないようなんだ。それ以上の刑は、この国では極刑しかない。僕は、君たちに生きていて欲しいんだ。」
ジュリア「・・・・。」
アントン「だから鍵を持ってきた。衛兵は眠らせてある。さぁ、今がチャンスだ!一緒にここを出よう!」
ジュリア「あの。。」
エリオット「こんばんは、アントン第一王子。」
アントン「エリオット殿!ちょうど良かった。この後、あなたも探す予定だったのです。3人でここを出ましょう。」
エリオット「うーーーん。それがねぇ、僕、意外とこの貴族牢生活が気に入っていてね。もう少しここにいようと思うんだ。」
ジュリア「私はお兄様と共に行動しようと思います。」
アントン「どうして?このままだと君たちは処刑されてしまうんだよ?今なら逃げられるんだ。生きたいなら、今しかチャンスはないんだ!命を無駄にしないでくれ!」
エリオット「そうなんですか?極刑になったとしても、上院議会が判断してから執行日が決まるので、まだ数日猶予がありそうですけど。上院議会はもう結論を出したんですか?」
アントン「いや、まだだ。だが、上院議会が王妃に逆らえると思うのかい?母上は、この数日でしっかり根回しをしているようだし、極刑になる可能性は高い。処罰が決まってからは監視の目も厳しくなるし、僕がここに来るのは難しいだろう。だから今夜、僕が動けるうちに逃げるしかないんだ。僕が一緒なら見つかってしまっても時間稼ぎになれる。頼む、君たちを救いたいんだ。一緒に出てくれ!」
エリオット「・・・お気持ちはありがたいのですが、僕はこれまで王国に仕えてきました。ジュリアは命をかけて、王国を守ってきました。二人とも、それを誇りに思っています。もし極刑という判断になったとしても、僕たちはこの王国の一員として、上院議会の結論を待ちたいと思います。それに、今脱獄すると後ろめたいことがあるように誤解されてしまいそうですからね。」
アントン「どうしても、一緒に来てくれないのか・・・?」
ジュリア「申し訳ありません、アントン第一王子。」
エリオット「はい、今夜はご一緒できません。」
アントン「ちっ。。なら、力ずくで行くまでだ!」
ジュリア「【バリア】」
アントン「な!なぜ、魔法を?くっ、こうなったら、魔法のスクロールを。。。!」
ジュリア「【バインド】」
アントン第一王子の腕と足がピタッと体にくっつき、バランスを崩してそのまま横に倒れた。
アントン「なっ!なっ!王子になんてことをするんだ!」
ジュリア「ふぅ。。。王族には魔法が効きにくいと聞いてたけど、そんなことなかったわ。よかった。。」
エリオット「うーん、本物じゃないしね。」
ジュリア「え?【真実の姿を見せよ】」
アントン第一王子?「や、やめろ!これ以上罪を重ねるな!!!」
倒れた際にズレたローブから見えていた顔が、アントン第一王子から知らない人物のものへと変わった。
ジュリア「え、だれ?」
客人「見るな!離せ!はなせーーー!!」
エリオット「へー!これは王妃の側近じゃないか!ずいぶん大物が釣れたな!」
ジュリア「そう言われてみれば。。。表彰式の時に王妃の隣にいた人!そっか、このローブは魔力を阻害するのね。だから魔力が見えなかったんだわ。」
側近「おい、お前たちこんなことをしてタダで済むと思うなよ?!」
エリオット「レオに連絡して、引き取ってもらおう。」
ジュリア「あ、この人が邪魔でタイルをノックできないわ。」
側近「おい、無視するな!放せ!今なら許してやる!!」
エリオット「この人をどかそう。手伝ってくれる?」
ジュリア「うん、せーの!」
側近「押すな!蹴るな!おい!魔法を解け!!!」
こんこんこんこんこん
側近「後悔するぞ。。。お前たち、絶対後悔するからな!!」
エリオット「ねぇ、この人、ちょっとうるさくない?」
側近「なっ。。。!」
ジュリア「そだね。【サイレント】」
側近「(なにか叫んでいるようだが、何も聞こえない。)」
エリオット「お、局所的に防音魔法かけたんだね。いいじゃない?」
そんなことを話しているうちに、レオと数人の騎士が走ってきた。
ジュリア「はやっ。。。」
エリオット「おそいよー。控えてたんでしょう?訪問者に気づかなかったのー?」
レオ「本当に申し訳ない!!衛兵待機所全体に睡眠魔法がかけられてしまい。。。ケガはありませんか?あれ?これ、誰ですか?」
エリオット「もー!君たちがのんびりしているうちに、ジュリアが対処してくれたよ。あとはよろしく!」
レオ「特別牢に連れていけ。」
側近は、レオ以外の騎士に抱えられて去って行った。
レオはひざまずくと、私を心配そうにのぞき込んだ。
レオ「ケガはない?怖い思いをさせて、ごめん。」
エリオット「レオ、僕たちは大丈夫だ。何も被害はない。他にもやつらの仲間が隠れているかも知れない。一応、騎士達についていった方が良いよ。」
レオ「はい、すみません。お怪我がなくて本当に良かった。また来ます。」
レオは、私の手に自分の手を重ねて、少し力を込めたと思ったら、すぐ立ち去って行った。
ジュリア「あ、うん。大丈夫・・です。お疲れさまです。って、もういない。。」
その晩、私はアドレナリン大放出していて、眠れなかった。
魔物を討伐したことはたくさんあるけれど、人と対峙した経験は少ない。
安堵感と恐怖が入り混じって、ジッとしていられず、筋トレと稽古して気を紛らわしていた。
お兄様は、疲れたようでぐっすり眠ってらした。
次の日、昼食を食べ終わった頃に衛兵がやってきた。
衛兵「エリオット殿、ジュリア嬢、お二人の罪状にまつわる処罰に関して、上院議会の結論が出ましたのでご一緒願います。」
ジュリア&エリオット「はい。」
衛兵が鍵を開けてくれた。
大きな伸びをして、深呼吸してから一歩出る。
エリオット「いよいよだね。」
ジュリア「はい。どうなりますかね。」
エリオット「大丈夫だよ。僕たちはずっと一緒だ。」
上院議会の間に足を踏み入れたのは、この日が初めてだった。
豪勢な部屋の中央に並べられた椅子の一つに座らされた。
隣には、すでにお父様が座っていた。
お父様は、私の顔を見るなり目を細めて笑い、ウィンクしてくれた。
反対側にはお兄様が座らせられた。
上院議員「皆様、お静かに、お静かにお願いします。静粛に!静粛に!!はい。さっそくですが、フォーティス家の処遇について、審議が完了しましたので結果をお伝えします。エリオット・フォーティスとジュリア・フォーティスは詐称の罪で身分剝奪の上で国外追放となります。父であるフォーティス伯爵からは一部領地を没収し、今後フォーティス子爵として活動していただきます。」
ジュリア「お父様まで。。。」
上院議員「なお、王妃が提議されたジュリア嬢の罪状は、いずれも証拠不十分でした。しかし、昨夜、王妃の側近であるマルスが捕らえられました。フォーティス兄弟の貴族牢の前で倒れていたところを発見されています。これについては騎士団から報告をお願いします。」
騎士団長「はっ。昨晩、巡回中の騎士が物音に気づき、倒れているマルス氏を発見しました。取り調べの結果、マルス氏に変身魔法と睡眠魔法、暗示魔法使用の痕跡が見つかりました。フォーティス家のお二人に牢屋から出るよう促していたとの証言を得ているため、その用途で使われたと考えております。」
上院議員「ほかに何か分かったことはありますか?」
騎士団長「はい。マルス氏の仕事部屋を捜索したところ、国内で頻発している少女失踪事件の被害者と見られる女性の名前がすべて記載された帳簿を発見しました。このことから、マルス氏が何らかの形で少女失踪事件に関わっているとして今朝あらためて逮捕いたしました。」
上院議員「連続多発少女失踪事件は、ジュリア嬢が春を売る事業を行っていると疑われた発端の事件ではないか!」
騎士団長「はい、どうやら実際に加担していたのはマルス氏のようでした。」
上院議員「王妃が本日いらっしゃらないのは、本件のせいか?」
騎士団長「いえ、今朝、王妃にご報告に伺った際に、暗示魔法を施された痕跡が見つかりました。長期間にわたって、少しずつ暗示魔法を施されていたようでしたので、侍女も気づかなかったようです。王妃に怪我はなく、現在は治癒士のもとで療養中ですが、ここ数日間の記憶が混濁しているようでした。」
上院議員「つまり、王妃はマルスに操られていたということか?」
騎士団長「まだ取調中のため、結論を申し上げることは出来ませんが、その可能性は十分にありえます。騎士団からの報告は、以上になります。」
上院議員「・・・・報告ありがとうございました。他に質問など無ければ、陛下からお言葉を承ります。みなさま、よろしいですか?はい。では陛下、お言葉をお願いいたします。」
王「うむ。。。これまでのフォーティス家の貢献を考えると、こたびの処罰はこの国にとって損失になるであろう。しかし、罪は罪。法治国家として、罪を犯した者は罰せねばならぬ。情状酌量の余地が十分ある状況をふまえて国外追放とする。財産は一部没収とする。これ以降、この王国の土地を踏むことは許されぬ。2日後、望む場所へ送りだすことを約束しよう。・・・達者でな。」
陛下はそう言うと、退室された。
私たちは深く頭を下げた。
そしてエリオットがつぶやいた。
エリオット「・・・そうか、陛下は僕たちに何があったか伝えるために、騎士団の報告を入れてくれたんだな。」
こうして、私とお兄様は隣国との国境付近に少しの荷物と一緒に置いて行かれた。
私達との別れを惜しんでくれた人もたくさんいた。
その様子を見て、私はこれまでの頑張りを認めてもらったような気がした。
いつかは去るかもしれないと思っていたから心の準備は出来ていたけれど、やはり別れはさみしいものだった。
陛下も出来るだけ罪を軽くしようと手を尽くしてくださったらしい。
だからだろうか。
王国からの追っ手はなかった。