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第二星 悪夢

 やっと今日から数日間泊まれる宿が決まった。


それにしてもやけに薄暗い村だ。

それに加え、所々にとても艶やかな髪を持つ不気味な人形が置かれている。村人達も皆、不気味な人形をとても大切そうに抱きかかえている。


「不思議な村…怖いわ…姉様」

とルカ。


「大丈夫よ。ドミも居るし、私達とっても強いもの」

とルイが続く。


この消え入りそうな淑やかな声は仲の良い姉妹だ。


しかし不思議な事に二人に名前を聞くと口を揃えて“ジェミニ”と言う。


だから区別をつける為、姉の方をルイ 妹の方はルカと皆呼んでいる。


二人はお互い抱き合いながら、きょろきょろと辺りを見回している。


今日は僕の乗っていた馬車代やら宿代やらで、酷くお金を消費してしまった。


此処にあるギルドにでも寄って、給料のいい仕事を受けよう。

おおかたのギルドは三人以上で出られるはずだから大丈夫だろう。


「じゃあ、僕達もう寝るから。おやすみ」


流石に十四人も部屋に入り切らないし、女性と同じ部屋というのも不味いだろう。


就寝の別れを告げた後二手に分かれ、別々の部屋に行った。


此処の村でお金を調達したら直ぐに立ち去ろう。


貧相なベットの上にも人形。クローゼットの中にも人形。

三面鏡の台にも、至る所に不気味な人形。アリエス達のいる部屋もこんな感じなのだろうか。


此処の部屋に皆も同じ事を考えているようだ。


普段顔色を変えないカプリコーンも底気味わるそうな顔をして、不穏な空気が漂っている。


もう早く寝よう。


部屋にあった人形を全てクローゼットに押し込んだ後、皆と目配せをして布団に潜り込む。


                        ♦︎ ♦︎ ♦︎


その日の深夜、両部屋のあの不気味な人形の手足や目がキリキリと不気味な音を立てながら動き出しているのだった。


                        ♦︎ ♦︎ ♦︎


皆が寝静まった中、たった一人恐怖と不安で眠れず、布団に潜り込んでじっと息を潜めている者がいた。


それがアクエリアスである。


アクエリアスはとある魔除けのお守りを強く握り締めていた。


それは、アクエリアスの生みの親、つまり教授のくれたお守りだった。


教授には霊現象を研究し続けている専門家の友達がおり、彼からもらった臆病なアクエリアスのためだけに作られた強力なお守りだ。


アクエリアスは、このお守りをもらった時の事を思い出し、少し安心したのか、お守りを優しく手で包み込んだまま、眠りについた。


                      ♦︎ ♦︎ ♦︎


次の朝、僕は隣の女性達の泊まっている部屋から聞こえた悲鳴で目を覚ました。


何事かと隣の部屋に駆け込むと、ヴァルゴとレオが、真っ先に大抵の女性は嫌うサジタリウスと、カプリコーンに縋り付いてきた。


いつもヘラヘラ笑っているサジタリウスも、驚いて部屋の中で怯えている女性達に目をやった。


皆の視線の先に、部屋の四隅に首の落ちた不気味な人形があったのだ。


そして何より皆が恐れていたのはクローゼットの中から異様に香る、甘ったるい匂いだ。


一番香りや音に敏感なライブラが例の異臭にやられ、急な吐き気に襲われたのか、膝の力が一気に抜けたように座り込み、苦しそうに嗚咽している。


ただ、その中にも勇敢にもクローゼットに震えて力の入らない手が差し伸べられた。


その手は、女性を泣かせる者が何より嫌いなサジタリウスのものだった。


サジタリウスは、怯え切ったレオを僕に託し、必死に泣き出したいのを堪えるように唇をきつく噛み締め、クローゼットの取手に手を置き、喉を鳴らして息を飲む。


先程まで嗚咽して泣いていた者も恐怖の為に声も出ず、涙だけが頬を伝っている。


サジタリウスがゆっくりとクローゼットの取手を引き、ぎぃ と古びた重たい音が沈黙の間に響いた。


みんな怯え切った不穏な空気の中にいたのは、様々な色をした四匹の陶器でできた猫であった。


魔除けの象徴である猫が、“死”を意味し、皆が忌み嫌う数字の“四”匹、首を刎ねられ、中からは例の異臭の正体と思われる紫色の煙。


医療や毒物にも詳しいスコーピオの鼻がぴくりと動く。

そして何かを必死に伝えようとしている。


すると、下の階にいる宿主かと思しき足音が、きしきしと慎重に階段を登ってくる。


皆の泣き声に痺れを切らして怒りにきたのか?


いや…違う。


「皆、隣の部屋に入って鍵を掛けろ!布団に入って寝ているふりをするんだ」


そうして皆が部屋のドアに施錠し布団に潜り込んだ後、宿主が僕達のいる階に上がってきた。


そして隣の陶器の猫のある部屋に入っていき、布団の中をひとしきり確認した後、何かの軽い音を立てそれを僕達のいる部屋の前に置いたかと思うと、足早に下の階へと駆け降りていった。


そっと僕がドアを開けてみると、部屋の前に僕達十三人分の甘い匂いの放つ紅茶が置いてあるではないか。


スコーピオはまたもや反応した。


ーーそれは毒だ


スコーピオの電子記号を読み取る前にそう言っているというのがわかる。

これが本能というものなのだろう。


先程まで声も出ずにいたジェミニ達が、


「姉様、これ…」


「そうね、ルカ。これは毒だわ。ねぇドミ、私たち此処から出たほうがいい」


相変わらず姉のルイは冷静だ。


だが、ジェミニ達の直感は正確だ。

従っておいた方がいいだろう。


あぁ、こんな朝っぱらから面倒臭い___

いけない、今はみんなをこの村から出さないと。


僕達はこの悪夢のような村を出た。


だが、僕はもうわかっていたのだ、この村に潜める伝統を。


そこで最後に一通の手紙を書き残した。

その手紙にはこう書いた


「貴方達の古き良き伝統を守り抜かんとするその心行きに、栄光あれ」_____


次の章へ続く__

如何でしたでしょうか?

面白いと思って頂けたら嬉しいです٩( 'ω' )

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