硝子(episode50)
NIKKEはやってません。
それからファミレス寄ってみんなでスイーツ食べながら凪沙に携帯電話の使い方教えてもらった。正しくは何とかフォンって言うらしいんだけど通じるからいいよね。
何も無い画面を手で触ると電源が入る。いや、電源は入ってたんだけどスリープモードとかいうのになってたらしくてそれが起動したらしい。眠ることで内蔵魔力的なものが回復するのかな?
凪沙に色々教えて貰って、通話アプリとかを入れてアンネマリーさんとガンマさんの連絡先を聞いた。遠くにいるはずなのに話せるのはすごいなあ。
アンネマリーさんはヨーロッパの方に行く用事があるみたい。本来ならそういうのはもっと上の人が行くらしいんだけど、今回のダイヤモンド鉱山で四季咲と協力して、鉱毒を治癒したのが評価されたらしい。仕事はそこそこに買い物をして遊ぶそうだ。ごゆっくり。
ガンマさんはしばらく休暇らしく、のんびりしてるのでいつでも呼んで欲しいと言っていた。いや、でも、ガンマさんみたいな戦闘力の必要な現場ってなさそうなんだけど。
「そうだと思う。だからいつも暇なんだ」
どうやらガンマさんの同僚たちは諜報とか家事能力とか操縦とかそういうのが得意らしくて、戦闘特化のガンマさんはお呼びでないという訳。
ボディガードとかならいいだろうけど。大抵は自分の家のつけてるらしい。他家はあまり信用出来ないというのもあるのかもしれない。
そんな愚痴を聞かされて私たちはデザートを食べきってファミレスを出た。食べた気がしなかったよ。
帰国してからする事はと言えば新しいポーションの開発だ。まあその前にポーションの瓶を作れるようにならないといけない気がする。
錬金術でポーション作ったらポンって瓶まで出てくる仕様なら良かったんだけど、そんなに簡単にはいかないみたい。
まずはガラスから作らなきゃって事でガラス工房を訪ねる。幸いにして古森沢の伝手で、そういう工房があったから紹介して貰えた。凪沙とタケルも一緒についてくるらしい。いや、パチンコ屋はいいの、凪沙?
「だって、タケルがティアみたいな可愛い子と一緒に居るの、嫌だし」
みたいにブツブツ言ってた。いや、だからタケルみたいなのは要らないし、タケルが万一襲って来ても魔法で返り討ちにするよ?
で、件のガラス工房。中に入るなり高温の熱気にあてられた。ちょうどガラスを釜から出す所だったんだそうな。責任者の人は地黄見畷さん。優しそうなハンサムイケメンだ。うん、線が細すぎる。きっと大きな竿状武器とか持ったらふらつくんだろうな。
「ええと、君たちが見学希望者かな? 今日はよろしくね。色々危ないから触らないように。知りたかったら説明するからね」
営業スマイルなのか爽やかに笑う。あ、そういうのいいんで。いや、別になんというか嫌ではないんだけど、貴族やってると愛想笑いって見慣れちゃうんだよね。辟易するんだ。困難でも一応侯爵家の人間だった訳だから家中の者以外には敬われてた(多分上辺だけ)と思うんだ。
私たちはまず釜に案内された。真っ赤に燃えているガラスの元をまじまじと見る。
「これがガラスの元になるもの。これを吹き竿の先につけるんだ。そしてこうやって」
畷さんが息を吹き込むとぷっくりとガラスが膨らんだ。なるほど、息を吹き込む事で成形するのか。手元を見るとクルクルと回転させながら吹いている。確かに丸くするにはそれがいいだろう。
「体験教室だからこうやって作るけど、瓶を作るだけならあっちの工場に成形機があるんだけどね」
どうやらこのやり方では大量生産ができないと分かってるらしい。でも、このやり方でないとダメだと思う。何故なら、ポーションの瓶には魔力を通さないといけないのだ。機械に魔力は通せまい。いや、この世界の人間にも出来ないだろうけど。
という訳で指導員の前で三人でやってみる。タケルはやたらと上手い。こういうの得意なのかな? 凪沙は息を吹き込みすぎて破裂しちゃってる。もっと慎重にやらないといけないみたい。
私は出来るだけ魔力を込めた呼気をガラスに送り込む。この呼気に魔力を込めるやり方はそこまで難しくない。手から出る魔力を口の中からにすればいいだけだ。手を突き出すという動作を息を吹きかける動作にすると言えば簡単さは分かるだろう。
くるん、と丸くて薄いけど丈夫な丸い瓶が出来た。私の瓶の出来と丈夫さに畷さんはびっくりしてたけど何も聞いてこなかった。
あとは除冷炉とかいうのに入れて冷ますだけらしいのでその間に工場の方を見学。工場ではあれよあれよという間に機械から瓶が出てくる。魔力の込めどころはない訳ではないが、一日中ここに居ないといけないのは非常に気が滅入りそうである。
一通り見学して、色んな作品も見せて貰った。天使が羽ばたいているような香水瓶はすごく綺麗だった。サモトラケのニケとかそういう名前だった。タケルによれば勝利を呼ぶ女神なんだそうな。決しておしりを出した子一等賞じゃないよって言ってたけどなんの事だろうか?
除冷炉での冷却が終わり、瓶を取り出す。タケルのはとても綺麗ですぐにでも店に出せる様なものだった。器用だな、こいつ。
凪沙のは、まあ豪快だけどそれなりに使えそうなものに。タケルにあげたら喜ぶのでは? 私は使いづらそうだから要らないけど。
私の作ったのは、なんというか、色々とまずいというか。まず、色が七色に光ってるのだ。魔力の影響だろうか。いや、水門の魔力だと思うよ? 何も考えなかったから。
次に硬さ。普通の瓶は落としたら割れそうなのに、私のは薄いのに割れなさそう。というか落としても割れなかった。なんでわかったかって? いや、さすがに七色はまずいと思って、「ああっ、手が滑った!」ってわざと落としたんだよ。叩き付けたとも言う。八洲語ムズカシイ。
でも床で跳ねて無傷だったんだよ。私の瓶。これには畷さんもびっくりして、何をやったのか教えて欲しいって血走った目で迫って来たよ。いや、やめてやめて。