第四十七話 代官
エドワード様が入れ替わりにこちらに来てました。
冒険者ギルドに行くとベルちゃんさんは特に暇という訳でもなく、ビリー君とリリィちゃんに業務を教えていた。そうか、暇な時間に教育してるのか。
ベルちゃんさんは私の姿を見つけるとリリィちゃんをカウンターに立たせる。
「いらっちゃいまちぇ」
あざといし、実際リリィちゃんの歳ならまあ舌っ足らずでも不思議ではないんだけど、あなた、喋り方十分に流暢だったよね?
「リリィちゃん?」
「あ、お姉ちゃん、どうだったかな?」
「どうって……いやまあ、初見なら騙されるんじゃない?」
「よかったあ。あのね、ベルさんが、こうやって喋れば少しくらいしっぱいしても多めに見てもらえるって」
ベルちゃんさん! なんてこと教えてるんですか! それで、アンコールはいくらですか? 私、妹とか居なかったからそういうのに弱いんですよ! みんな私よりも早い番号だったし。
「あははは、それでキューちゃんは何しに来たの?」
「冒険者に何しに来たのも何も無いと思いますが。依頼を受けに来たとは思わないんですか?」
「キューちゃん、しばらく休むって言ってたじゃない。それだけの蓄えもあるんでしょ?」
「あるのぉ?」
まああります。というかリリィちゃん、ヨダレ出てる。ご飯なら奢ってあげるから後でビリー君と一緒に来なさい。
「実は、その、家を買おうと思って」
「えっ? 買えないわよ?」
「は?」
普通に不動産屋行けば買えるんじゃないの? あ、まあお金はいるか。でもお金も持ってるよね。うん、問題ないはずだ。
「だって、キューちゃん、まだこの街に来て三年経ってないでしょ?」
「ほへ?」
何を言われたのか分からない。三年ってなんだ?
「この街の決まり、というか王国法で、重要な街には三年の居住を経ないと家屋の購入は出来ないって」
「えっ、そんなのがあるの?」
「だって、他国からのスパイとかいるかもしれないでしょ? 身元が分からないのに定住されて中から城壁崩されたりしたらダメなのよ」
なんということでしょう。これが、ファンタジー世界の住宅事情なんだろうか。元の世界なら保証人さえいれば借りるのはそんなに難しくなかったのになあ。あ、でも八洲でも家屋の購入には保証人が三人とか必要とかあった気がする。
「ううっ、じゃあ賃貸でいいです」
「賃貸も一年以上の居住が必要よ」
「八方塞がりじゃないですか!」
悲しみに打ちひしがれてるとビリー君が言った。
「スラム街に空いてる廃屋ならあるぜ? ちょっとすきま風が酷いけど」
慰めにもならなかった。いや、スラム街に住む気は無いよ。私は街中に自分の家が欲しかったんだから。
「あー、それなら公爵様に相談してみたら?」
なるほど。公爵様なら法律をねじまげてでも私のために動いて……くれるだろうか?
「いや、法律ねじまげるっていうか貴族特権ってあるからね。特に公爵様はご領主様でもあるし、自分の自治権の及ぶ範囲なら融通効かせてもらえるでしょ」
「さすがベルちゃんさん! となれば公爵様の所に行ってこなくちゃ!」
私は冒険者ギルドを後にすると代官邸に向かった。あ、よく考えたら公爵様ってもう領地に帰られたんだっけ? となれば代官の人に取り次いでもらってとかしなきゃなんだよね。頭越しに王都に行ってもいいけど、それだとなんかあった時に恨まれちゃうかもだからなあ。
そんなことを考えながらダメ元で代官邸に行くと門番の人に面会を希望した。いや、一介の冒険者なんかにすんなり会ってくれないだろうなあ。
……そんな事を考えてた時が私にもありました。すんなり、しかも直ぐに会ってくれるって! なんなの。もしかして公爵様から申しつかってるとか? あー、それくらいの事はやりそうだな。
「やあ、キューさん、久しぶりだね」
現れた代官の人はエドワード様だった。えっ、いや、意味がわかりません!
「あれ? エドワード様? 領地の事務は?」
「父上が帰ってきたし、正式にヒルダ義姉上が頑張るそうなので、私は暇になってね。それでこの街を任されたんだ」
「そうですか。代官就任おめでとうございます!」
「ぼくとしてはもう少し兄さんと父さんと仕事をしたかったんだけどね。ところで、キューさんには言わないといけない事があるんだ」
もしかして告白? あ、その、私、エドワード様みたいなイケメンが好みで。いや、付き合うとかじゃなくて目の保養的な意味で。
「ありがとう。兄上と父上を助けてくれて」
真摯に頭を下げるエドワード様。あー、いや、助けたというのはどうかと。ま、まあ、頑張りはしましたけど、最終的にはテオドールの独り舞台だったし。
「それから、森の中の話なんだけど、教団の手先を見たっていうのは本当?」
にこやかに近寄ってきて肩を掴まれた。しまった、今、転移発動したらエドワード様も巻き込んじゃう! しまった、逃げれない!
「時間はあるからゆっくり説明してくれないかな? 詳しく、ね?」
にっこり笑うエドワード様。目が、目が笑ってませんよ! いーやー、許して、嘘っていうか嘘のような本当のような。でも教団とは断定してないんです。私が言ったんじゃないし。黒ずくめの奴らがタコ入道持っていっただけなんです! そういう風に言っとけば勝手に勘違いしてくれるってティアちゃんが!
ああ、もう、ティアちゃんに会いたくて白い部屋に行こうと思ったのに頑張って寝ても行けなかったし。あの子寝ないで何やってんの?(「こっちはこっちで解毒薬作ってんだから大変なのよ!」)
はっ、なんか幻聴が聞こえた気がした。いや、気のせいか。あ、エドワード様、お忙しそうなのでこれで失礼を……痛い痛い、爪が肩にくい込んでる!
「まあゆっくりして行きなよ」
「……はひ」
私は観念してソファーに腰かけた。うむ、なかなかに柔らかい。だが、人をダメにするにはもう少し足りないかな。
「それじゃあ森でのことを一部始終話してもらおうかな。あ、喋りやすくなるようにお茶とお菓子はおかわり自由だからね」