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解毒(episode47)

参考:テトロドトキシンの耐性(名古屋フグより)

「おい、誰だ! ここには人を入れるなと言ってるだろうが。それともまた患者が出たのか?」


 肌の黒い顔にしっかりとシワが刻まれたおじいさん、と言うには足腰がしっかりしているお医者さんが白衣を着て怒鳴りつけてきた。


「ドク・ラルフ。この方たちが毒の症状を治せるかもしれないというので」

「はあ? この毒をか? ワシでも原因が分からんかった強毒じゃぞ?」

「私は四季咲しきざきのアンネマリーという、御老人、貴方は?」


 アンネマリーさんが進み出てくれて話をし始めた。肩書きの力かおじいさんの態度は幾分か軟化した。


「そうか、八洲やしま四季咲しきざきのなあ。それなら仕方あるまい。雇い主じゃしなあ。ワシはドク・ラルフ。これでも名医の名をいただいておるがここではそれも意味をなさんでなあ。容態を安定させるだけが精一杯のヤブ医者じゃよ」


 おじいさん、ドク・ラルフさんは自嘲気味に笑った。みんな小康状態なのは素直にすごいと思う。毒の種類も分からなかっただろうに。この世界には毒を治癒するポーションなんてありはしないだろう。だって錬金術師だって居ないのだ。そりゃあ昔は硫黄と水銀で金を作り出そうとしたみたいな詐欺師は居たみたいだけど。


 えっ、連勤術師? いや、確かにそういう人は八洲にはいるらしいけど、なんか違わない? 元々錬金術師というのは金を作るのが目的では無い。金門、つまり、肉体強化をする薬を作る為の術なのだ。だから出来た薬を金丹と呼ぶのだ。ポーションはすべからくこの金丹である。


 私は水門の術師であり、金門も使えなくは無いが、今の私には錬金術技能がある。解毒ポーションの作成はそこまで難しくない。


 とりあえず寝ている人を診察しよう。鑑定だ。ふむ、なるほど。タコの毒、って、私の方にいたのイカだったよね。てことはタコはキューちゃんの方かあ。


 ええと、解毒に使うものは……チーズとニンニクとゼラチン? なんだろう、料理でも作らせるつもりかな?


「薬が作れるのか?」

「え、ええ、多分」

「本当かっ!? 何を、何を用意すりゃあええ? なんでも、とは言わんが大概のものはここにあるぞ!」


 どうやら四季咲でもこれを何とかしようと手を尽くしていたようだ。それでも未だ解決には至ってないのだが。


「分かりました。じゃあ今から言うものを揃えてください」

「わかった。ここにあるものならなんでも言ってくれ。足りなければ空輸させる。ええな?」


 ドク・ラルフさんはアンネマリーさんに目で合図をする。アンネマリーさんはもちろんという風に頷く。これで何とかなるかな?


「ええ、分かりました。ではまずチーズを用意してください」

「………………は?」

「昆布とか緑茶でも構いません」

「料理でもするんか? お前、ふざけとらんだろうな?」


 ドク・ラルフさんの目がこちらを責めてくる様に思える。だって鑑定が、鑑定がそう言ってるんだもん!


「それから、ニンニクを。赤唐辛子やタマネギも欲しいです」

「やっぱり料理じゃないのか?」

「違います」

「あ、ブロッコリーや芽キャベツとかもいいですよ」

「料理だろうが!」


 そう言いながらも一応は用意してくれる。チーズとニンニク。どちらもイタリア料理に欠かせない要素だ。


「あとパスタとか言いやがったらてめぇを茹でて食ってやるからな!」

「ええと、お肉の脂身、コラーゲンというかゼラチンが欲しいのですけど」

「どう考えても料理じゃねえか! ちくしょう! こうなったらやけだ。持ってきてやる!」


 とうとうドク・ラルフさんは頭から煙を出しながら台所に行ってくれた。なんか台所で出来ればいっぺんに言って欲しいと言われたそうだ。それは確かに申し訳なかった。


 さて、材料が揃った。抽出するべきは三つのアミノ酸。そこからグルタチオンってのを合成して、ニンニクや赤唐辛子から更にシステインとかいう物質を取り出して、体内の毒に抱合させるってあった。抱合させる為にはポーションで流し込まないといけない。これには私の魔力水を使えばなんとかなるだろう。


 チーズからグルタミン酸。これは旨み成分とも呼ばれるものの一つだ。いや、味とかは別にどうでもいいんだよね。


 ニンニクからシステイン。これは単品で使うのと合成で使うのが必要なので量がいる。赤唐辛子からも抽出した。ハイチオー○Cとかいうシミやソバカスの薬にも入ってるらしい。私は若いからまあ要らないかな。


 コラーゲンからはグリシン。睡眠導入剤などに使われてるアミノ酸とかいうやつだ。人間の体内でも生成してるけど、さすがに人体から材料取るのはちょっと気が引ける。


 この三つを順番に合成して、更にシステインを別で用意、それを魔力水に溶かす。本来なら水溶性かどうかとか確かめるんだろうけど、そこは無理やり魔力で溶かすよ。その為の魔力水でもあるもん。水門の力、とくと見よ! あ、裁きのマーヤじゃないよ。


 出来たポーションを寝ている人に飲ませる。いや、飲まないな。どうするか。体内に入れればいいから少量でもと思ったら注射器って便利なものがあるらしい。正直、口移しで飲ませなきゃいけないかと思ったよ。女性ならまだいいけど殿方とキスするのはちょっとね。


 ドク・ラルフさんに注射器を渡して注射してもらう。針刺すんでしょ。痛そうとは思うけど。でもドク・ラルフさんの手つきは手馴れていてスムーズだ。


「全員終わったぞ。これでいいのか?」

「あ、はい。あとは効いてくるまで待つだけです。多分二時間ほどかと」


 それから非常に長い体感時間の二時間が経過した。私としても錬金術を使っての製薬はまだ不慣れだから失敗したらどうしようとか思っていた。でも、水門の使徒としては見過ごせなかったんだよ。


「こ、ここは? ドク、あんたが治してくれたのか?」


 フラフラの身体で立ち上がりながらその男、屈強そうなタイプだ。やだ、ちょっと胸板触りたい。こほん。その男がドク・ラルフさんを見つけて涙を流しながら感謝の言葉を投げかけた。もちろんドク・ラルフさんも泣いていた。

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