第四十四話 湖影
繋がりました。
「クラーケン? それにしては触手が違う気がするけど」
「多分違うわよ。散開!」
グレイさんたちのパーティは散開して、触手の狙いを分散するらしい。悪くない手だ。
「ふっ!」
シノブさんが素早い動きで切り付ける。効いてるのかどうかは分からないが攻撃が当たる度に悲鳴のようなものをあげている。
エレノアさんがシノブさんが切り付けた部分を凍らせているみたいだ。なるほど、凍らせたら再生しないとかそういうやつかな? いや、再生するかは分からないんだけど。
グレイさんは果敢に攻める。アンガーさんが前に出て攻撃受けようとしているが、攻撃はスルーして女性陣に。
特にジャニスさんよりもサーラさんが狙われてるのがびっくりだ。という事は隠れ巨乳というやつだろうか? ジャニスさんも大きくて好きなんだけどなあ。
もちろんエレノアさんも狙われてる。が、攻撃はシノブさんが叩き落としていた。シノブさんは攻撃が来ないとわかっているからか思いっきり攻撃に集中している。
それを考えたらあのタコ入道は実は潔くて好感が持てるのでは無いだろうか? あ、もちろん、私も狙われません。ええ、狙われませんとも!
タコ入道はどうやってこんな所に来たのだろうとか考えたい事はあるけど、先に倒してしまわねばならないのだ。タコ入道は紳士の情けなのか譲れない意地なのかは分からないが男性陣には全く攻撃を当ててない。
「サーラ!」
アンガーさんが大きな声を出してサーラさんに直撃コースだった攻撃を食らう。多少転がったものの大してダメージは負ってないみたいだ。
「アンガー!」
これまた大きな声を出したサーラさん。大きな声出せるんだ。二人はなんか戦闘中にも関わらず見つめあってる。あー、いや、グレイさんとジャニスさんの組み合わせは分かりやすかったけど、こっちはこっちでくっつきそうだね。発進五秒前じゃん。宇宙スペースでも戦国魔神でもないけど。
タコ入道はなんか真っ赤になったぞ? もしかして怒ってる? これはなんだろう、嫉妬? 嫉妬なのか? 攻撃目標がアンガーさんとグレイさんに変わった!
アンガーさんは懸命に盾で防いでいる。サーラさんも付与を掛けてアンガーさんをカバーしている。グレイさんは交わしながら攻撃はしているみたい。狙われてるからか決定的な攻撃は入って無さそうだ。
「とっちにしても私は狙われてない」
シノブさんがボソリと呟いて弾丸の様にタコ入道に向かった。私はタコの弱点を思い出した。
「シノブさん、目と目の間を!」
「知ってる。でも近付けない」
どうやら弱点は分かってるみたい。となれば近付けさえすれば攻撃は出来るって事だ。私は走ってシノブさんのところに行く。
「前に出るな。危ない」
「いや、攻撃、私にも全然飛んできませんし」
「……そう」
シノブさんが私の身体の一部を見て悲しそうに納得した。いや、だから! 私は別に悔しくなんかないんだから!
「今からシノブさんを抱えてあいつの目の前まで飛びます。そこに攻撃を叩き込めますか?」
「バカにしないで。出来るに決まってる」
シノブさんは不敵に微笑む。これで決まりだ。私はシノブさんを抱えて転移する。短距離転移だ。目測過たず、タコ入道の目の辺りに出る。タコ入道は凄まじい反応速度で私たちに攻撃を叩きつけるというよりは咄嗟に払い除けようとする。
「障壁!」
私は攻撃が来た方の触手に自ら飛んで先に障壁を展開してぶち当たる。当然ながら私は吹っ飛ばされる訳だが、シノブさんは無事だ。
「蜂の一刺し」
コマンドワードなのかシノブさんがそう唱えると持っていた短剣が薄紫色に光り、目と目の間にそのままそれが突き立てられる。
「クォォォォォォォン!」
タコって鳴くんだとか余計な事を思っていると、その刺さった短剣目掛けて電流が走る。
「水門〈氷結武器〉!」
「木門〈雷霆槍〉!」
エレノアさんとジャニスさんがそれぞれ魔法を撃つ。エレノアさんは武器に凍結効果を掛けた。表面にうっすらと水が付いている。という事は雷魔法の威力が上がる!?
「クォォォォォォォン……」
タコ入道は力なくそのまま沈んでいった。うわあ、びっくりしたけど一時はどうなる事かと。皆さん、大丈夫ですか……
振り向いたその先には、
・手を取り合うアンガーさんとサーラさん。よく見ると二人ともかなり整った顔なんだよね。アンガーさんは兜被ってるし、サーラさんは俯きがちだからまともに顔見てないけど。
・拳をコツンとぶつけながら「やるじゃない」「さすがね」「信じてたもの」「私もよ」みたいなどこかの少年マンガみたいな世界を繰り広げるエレノアさんとシノブさん。そういや少年マンガはしばらく読んでないなあ。もう海賊王にはなれたんだろうか?
・感激のあまり、ジャニスさんに飛びついて抱き締めるグレイさん。ジャニスさんはふにゃあ!とか声が出てるけどそんなのはお構い無しにきつく抱き締めている。まあジャニスさんも満更でもないからちょっとやめなさいよ、みんな見てるじゃないとか言いながらグレイさんを突き放そうとはしない。なお、見てるのは私だけである。
これらの景色が広がってて、喜びを分かち合う相手が居ない私は全くもって孤独である。寂しくなんかないやい。
まあやれやれと思いながら湖の底に沈んだタコ入道を回収しようかな、どの辺まで沈んでるんだろう、なんて思って湖を覗き込む。
私は目を疑った。そこには確かに見覚えのある顔が映っていたからだ。でも、こんな所にいる顔じゃない。というか私も出会うのはあの白い部屋だけだ。だって、彼女は私と入れ替わりに元の世界に居るのだから。
「うそ、ティア?」
「えっ、本当にキューなの?」
向こうも私の事が見えてるみたいだ。お互いに指を差して驚いている。ある意味、私たちだけが遭遇を果たして良かったのかもしれない。もしかしてここも時空が歪んでたりするわけ?