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触手(episode44)

こっちにも触手!

 洞窟の中は真っ暗で明かりがないと何も見えそうもない。私が明かりの魔法を唱えようと思ったらアンネマリーさんが明かりといってランタンをつけてくれた。カナリアを忘れたとか言ってたからなんでこんなところで鳥を愛でるのかと思ったら毒ガス対策だって。そ、そんな事しなくても結界張ってれば問題ないでしょうが!


「えっ、何それ?」


 あー、魔法の事は秘密でした。私のバカ。でもまあ言っちゃったんで、みんなの安全のために結界は使います。水門は得意なんだから。本来ならこの鉱山という場所は土気と金気が強く出てるので水門は使いにくいはずなんですけど、奥の方から水気が漏れてくるんですよね。おかしな地相だなあ。


 緩やかに続く下への道を道なりに進んでいく。転ばないように足元には注意はしている。心配なのはガンマさんなんだけど、小さいだけで身体能力は高いらしい。


 ところどころから水は出ている。ダイヤの原石もそこら辺に転がってるがこれらの欠片だと精製しても工業用の品ぐらいにしかならず、採算が取れないんだそうな。


 私はそこにある水を調べてみる。水門の魔法、〈水質検査ウォーターインスペクション〉である。本来は飲み水を確保する時に使う魔法だ。自然界の水には毒とか含まれてたりするからね。


 調べた結果はグレー。直ちに死ぬ様な毒では無いが継続摂取すれば身体に影響は出るだろう。ただ、問題は、何故か微妙に含まれた、魔力? あれ? この世界って魔力なかったんじゃ?


「ティア?」

「あ、うん、ごめんなさい」


 心配ではあるけど、魔力の事なんて凪沙に話しても仕方ない。ましてやアンネマリーさんやガンマさんには尚更だ。まあそこまで注意するような量でもないから黙っていよう。


 しばらく進んでいくと地底湖に辿り着いた。鉱山の中に地底湖だなんておかしいにも程がある。これは何らかの事情で出水にぶつかったんじゃないだろうか。


「湖、だって?」

「そんなのは聞いてないわ」

「大変拙うございますね」


 ガンマさんが警戒を緩めず地底湖の方を見ている。水面が揺れた気がした。


「何か、来ます」


 ガンマさんが武器を構える。確かサブマシンガンとかいう感じの名前の武器だったかな? どこから持ってきたんでしょうね。あの子のスカートの中? きゃー!


 ざっぱーんと水面が割れて中から巨大なイカが出て来た。って、あれ、クラーケンじゃない? いや、私程度だと多分にゅるにゅるぱくんって食べられちゃう感じのやつだよ!


 クラーケンは触手をにゅるりと伸ばしてきた。あっという間に掴まれる私、凪沙、そしてアンネマリーさん。触手が胸の下にくい込んで、ヌメヌメしてる上に動きづらい。凹凸が激しい身体だというのは自覚しているが、こんなにも捕まりやすいものだとは。


 いや、まだ、捕まってない人がいる。おそらくはこの中で最高の攻撃力を誇るガンマさんだ。


「ふっ!」


 ガンマさんは懐から取り出した鋭いナイフの様なものを使ってあっという間に凪沙とアンネマリーさんを助け出した。……あれ? 私は?


「いっぺんに三人は無理なんです、ごめんなさい! だから頑張って!」


 頑張っては酷くない? こうなったら魔法で。えーとえーと、こういう時は。


「ティア、じゅうまんぼると!」


 凪沙が叫ぶ。私はポケ○ンかっ! いや、でも電気は悪くないかもしれない。私は木門の魔力を呼び出す。


「木門〈雷纏サンダーボディ〉」


 身体の周りに雷を纏わせる。イカが電気苦手ならこれで逃げられたりするはず! あっ、触手焦げた。今なら!


 私は触手の戒めから解き放たれて地面に降り立った。ガンマさんがグッジョブとばかりに親指を立てて讃えてくれるが嬉しくもなんともない。


 改めて依頼品……じゃない、クラーケンを見てみよう。どう見ても巨大なイカのように見える。まあデカくて触手があるやつはみんなクラーケンでいいんじゃないかと思うのでその辺はいいかな。というか、クラーケンなのかどうかも分からない。だって見た事ないもん。お話の中には出てくるし、討伐譚も聞いた事あるけど。


「ティアさん、さっきの電撃出せますか?」

「えっ? あ、多分大丈夫」

「分かりました。じゃあ出すのは合図しますのでお願いしますね」


 ガンマさんがそう言ってクラーケンに向かっていった。手に持ったサブマシンガンを表面に叩き込む。だけど効いてる様子はない。


「こいつ、硬い」


 ガンマさんがサブマシンガンを捨てて懐からデカい槍みたいなものを取り出す。どこに隠していたんだ、って思うけど、折り畳み形式みたいなやつだったみたい。周りから群がってくる触手を払い除けながら近付いていく。


 私は雷撃の準備をする。厄介なのは私は雷撃系統は割と苦手だということ。だから凪沙の身体を借りる。


「凪沙、ちょっと身体借りるね!」

「えっ、ティア?」


 凪沙の身体は電撃と相性が抜群なのだ。何せ木門の魔力を持ってるんだから。となれば、私の魔力を凪沙に注ぎ込めば凪沙が木門の雷撃を撃てるって話だ。これは合体魔法と呼ばれるもので、魔法使い同士だと自我を合わせなくてはならないので至難の業だ。


 だけど、凪沙は魔法使いではない。いや、まだ修行中なんだけど魔法使いとは呼べない。つまり、私が好き勝手できる余地があるのだ。


「凪沙、私の言ったように詠唱して。天にまします雷霆よ」

「て、天にまします雷霆よ?」

「御身によって敵を穿つ神の槍を今ここに」

「御身によって敵を穿つ神の槍を今ここに」

「雷帝の雷霆を来定させん!」

「らいていのらいていをらいていさせん?」

「木門〈雷霆槍グングニル〉」

「今!」


 ガンマさんがちょうど触手を切り払って胴体への道が出来たのと、私と凪沙が魔法を発動したのはちょうどピッタリだった。ピッタリじゃなかったらどうしたのかって? ええとね、とりあえず遅延術式で何とか我慢させてたかな。


 凪沙の手から放たれた雷撃は一筋の光の槍となって、クラーケンに突き刺さった。クラーケンはその巨体をゆっくりと崩れ落ちさせて、湖に沈んでいく。

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