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第四十二話 待伏

グレイとテオドールの技量差はかなりあります。テオドールはこの国で五本に入るくらいの剣技です。

「なあ、あんた、キューとか言ったか」

「え? はい、キューです」


 突然、剣を手入れしながらグレイさんが話しかけてきた。余所見しながらだと剣で手を切らないか心配になってしまうが、どうやら視線は剣に注がれたままらしい。私との会話の方がついでなのだろう。まあ、話していた方が眠気は紛れるしね。


「一人でやってんのか? パーティとか組まないのか?」


 ここで言うパーティというのは冒険者が数人で組む集まりの事だ。だいたい三から六人くらいが一般的なんだとか。


「別に不思議なことでは無いのでは? シノブさんもおひとりみたいですし」

「いや、シノブは別格だろ」


 どうやらシノブさんはシルバー級の光槍ライトニングパイクに言わせても別格なんだとか。なんか異名も怖い感じで、宵闇の魔手とかいうらしい。おおっ、なんかかっこいい。


「私はそこまで戦闘能力ありませんから」

「いや、戦闘能力ないなら余計にパーティ組むべきじゃねえか?」

「あー、まあそういう考え方もありますね」


 実際はパーティを組むなんて考えたこともない。第一、私一人ならば転移テレポートでどうにでも逃げられるからね。追い付ける訳もないし。この場合、仲間がいた方が不都合なんだよね。


「なんならうちのパーティに来ないか? 女性も二人いるし、やりやすいと思うぜ?」


 なんだろう、ナンパってやつかな? どっちかと言うと難破してしまえとか思ったりはするけど。というかあんなタイプの違う美人が二人も居るのに私に声をかけるなんてロリコンってやつ? あ、いや、私は胸以外は年相応なんだから!


「残念ですけど、私は遠慮しておきます」

「そうか。まあいつでも言ってくれ。もうパーティのヤツらには了解もらってる」


 なんと! 私を誘うのはパーティの総意でしたか。いやまあ確かに転移があれば移動の時間は省ける訳ですから仕事はスムーズになるでしょうけど。


 そんな感じでグレイさんとの見張りは何も出てくることはなく、そのまま夜番を交代して朝までぐっすり眠った。


 野営を撤収して森の奥へと進む。森が深くなるほど道も無くなって、背丈ほどもある草を刈りながら進む。私もナイフでお手伝い。


 しばらく歩いて行くと森の奥の拓けた場所に出た。何故かそこだけ拓けているのは大変不気味だ。その時、上から何か大きな岩が降ってきた。このままじゃあ潰される!


障壁バリア!」


 私は宙に飛んでそこで障壁を展開した。これなら万一失敗しても下に落ちるだけで済む。頑張ったからか障壁を貫通することも無く、岩は弾かれた。ふう、危ないところだった。


「な、なんだ今のは!?」


 グレイさんが慌てる。アンガーさんが冷静に物事を観察していたようで崖の上を指差した。そこにはこないだ森林暴走オーバーランで見たことあるサイクロップスがいた。あ、目からビームは多分出ない種類だ。


「グオオオオオオオオオ!」


 サイクロップスは大きな声で吠えたけると崖の上から飛び降りた。どうやらこの空白地帯はサイクロップスのナワバリらしい。手にはでかい棍棒というかあれはもう大木そのものだよね。盾は持ってないけど、多分必要ないんじゃないかな?


 オマケになんか狼が群れでこっちに来るのも見えた。どうやらサイクロップスの倒したやつをお零れに与るつもりなのかもしれない。


「くっ、全員、戦闘態勢!」


 グレイさんは顔色が悪かったものの、対峙することを決めたらしい。私はどうしよう。まあグレイさんたちが危なかったら助けに入ろうかな。


 シノブさんは……狼の群れの方に走っていって群れを蹴散らしている。エレノアさんがそのバックアップみたいで抜けてこようとした狼を仕留めていた。


 さて、グレイさんのお手並み拝見……なんて呑気なこと言ってる場合でもないと思うが、振り下ろすサイクロップスの攻撃をアンガーさんが盾で逸らした。まあ受け止めたらぺちゃんこになっちゃうもんね。あれはパリィだろうか、ディフレクトだろうか? いや、盾で防いでるからジャストガードとかジャストディフェンスとか?


「アンガー!」

「大丈夫だ。暫くは持つ。サーラ、頼む」

「はい、金門【神盾ディバインシールド】」


 サーラさんの魔法は恐らくアンガーさんの守備力を強化するものだろう。その間にグレイさんが攻撃するんだろう。いや、ジャニスさんも何か詠唱してる。


「くらいなさい、風の刃、木門【鎌鼬カマイタチ】」


 カマイタチって八洲の妖怪じゃなかったかな? とは思うが恐らくこっちの世界でもそういう生き物がいるのかもしれない。魔法の名前にまでなってるんだもの。でもイタチなのか。確かカマイタチって三位一体攻撃なんだよね。転ばせて、切りつけて、血止めをするみたいな。なんでわざわざ治療するんだろうね? 治療するくらいなら切らなきゃいいと思わん?


 とか考えてたらサイクロップスは手足に作られた傷に痛みで怒りモードで棍棒振り回してるみたい。アンガーさんが巧みに捌いている。おっ、ここでトドメかな?


「くらえ、必殺! ぶった斬り!」


 必殺技なのかいまいち分からないネーミングの技をグレイさんが繰り出した。アンガーさんを踏み台にしてジャンプ。どこを狙うのかと思ったら肩口。棍棒持ってる方の腕を切り落とそうとしてるみたい。大丈夫かな?


「金門【鋭刃シャープエッジ】」


 サーラさんがアンガーさんの付与を取りやめてグレイさんに付与を掛けた。グレイさんが叫ぶと身体が魔力に包まれる。なんか自分では無意識だけど身体強化してるらしい。


「どっせい!」


 ズバン!と子気味のいい音がして、片腕がボトリと地面に落ちた。サイクロップスは痛みからか再び咆哮をあげる。


「ぐっ。しまった。麻痺咆哮かっ!」


 あれ? 前に戦った時はそんなの使ってこなかったよね? あ、でもあの時はテオドールがその暇を与えなかったんだっけ?


「回復、間に合わない!」

「グレイ!」


 悲鳴のようなサーラさんの叫び声。心配そうなジャニスさんの声。それらをはじき飛ばすように黒い影がサイクロップスとグレイさんの間に割り込んだ。

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