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労働(episode5)

褒めて伸ばすのが凪沙のモットー。

 朝起きると昨日の様な白い部屋は無い。昨日案内された小さな部屋だった。貴族としての自分の部屋も屋根裏部屋だったので広さはそこまで気にはならない。


 ドアを開くとそこはもう外だ。空腹を覚えたが食べられるものはない。何かそういえば買って食べろと言われたが紙切れは渡されたが金貨はもちろん銀貨も銅貨も貰えなかった。


 困って時計を見る。時間は昨日キューに教えてもらった通りだと八時三十分ぐらいだ。集合時間にはまだ時間があるみたいだ。部屋の中に何か無いかをさがす。


 部屋には布団と明かり、そしてテーブルと私が脱いだ靴。まさか家の中に入るだけで靴を脱がないといけないとは思わなかった。


 そういえば、と自分のカバンを取り出す。保存食の干し肉がまだ残っていた。だが水がない。塩辛いから水が欲しいところなんだが。


 そういえばトイレに水が溜まっていた。でもさすがにあれを飲む気にはなれない。仕方ないので飲料水を魔法で出す。水門は得意分野な方なので水は出るのだが、普通に出すと床が濡れてしまう。


 コップを持って、そこに注ぐように水を出す。調整はなかなか根気がいるけど、上手くいった様だ。そうこうしてると九時を過ぎた。確か十時に来いとか言われていたので準備を始める。


 アパートから昨日の場所への行き方はだいたい覚えているが、道が暗かった為になかなか一致しない。改めて道を歩いてみる。下が土ではないのはびっくりした。石畳の道なんて王都の大通りや帝都でもなければ存在してない。


 いくつかの店らしきところに食べ物などが売っているみたいだ。私はなんでそれを食べられないのだろうか。


 しばらく歩くと昨日のドアのところに来た。入口が別にあるらしく、そっちの方は人で溢れていた。あれがみんな客なのだろうか?


「おはようございます」

「おっ、もう来たのか。良く眠れたか? 朝は何食べた?」

「はい、お陰様で。朝ごはんは干し肉の残りを食べました」

「おいおい、それじゃあ力が出んだろう。おい、ちょっとそこの牛丼屋に連れて行ってくれ」


 ハゲオヤジ……いや、雇い主なのだからオーナーと呼ぼう。彼は奥の方に声をかけると私と同年代、いや、向こうの方が少し上かな? という感じの女性が出てきた。


「オーナー、私も食べるんですか?」

「当たり前だ。また抜いたんだろう? メシ代はくれてやるから行ってこい」

「わー、ほんと? やったー、オーナー大好き! じゃあ行こっか。ええと、何ちゃんだっけ?」

「ティアです」

「あー、ティアちゃんね。私は凪沙なぎさ。よろしくね」


 そう言って凪沙は私の手を取って上下にぶんぶん振った。あ、うん、害意は感じないから抵抗しなかった。


 それから扉から出て来た方向とは逆の方に進み、なんかの柵を潜り抜けて一軒の店に辿り着いた。凪沙は構うことなくするすると入っていく。私も遅れないように入る。


「いらっしゃいませ!」


 昨日も聞いた言葉だ。どうやら歓迎されているみたいだ。


「チー牛大盛りネギだくで。あと味噌汁もね。ティアちゃんは?」

「え? あ? 私? その、何があるのか」


 何やら呪文のようなものを唱えた凪沙を見て呆然としながら私は答える。


「あー、そっかそっか。じゃあはいこれ、メニューね。ここから選んで」


 選んでと言われてもこれがなんなのか全く分からない。困りきったところで何とかスタンダードな牛丼並盛というやつを選択した。


 私の前に運ばれてきた茶色い物体。いや、これが肉料理だというのは分かる。分かるんだけど、ナイフもフォークもない。どうしろというのか。


 縋るような目で凪沙を見ると、横から立ててあった棒を二本取り出して、手に持つ。そしてその棒を日本とも使いながら食べている。もしかして、あれはカトラリーなのでしょうか?


 キョロキョロと見回すと棒の他にスプーンがありました。金属製ではありますが、掬うことが出来そうです。


「あー。ティアちゃんはお箸使えない人? そっかー、ごめんねー」

「あ、いえ、使えない私が悪いので」


 私は謝りつつスプーンにお肉と白いつぶつぶを載せて口に運んだ。肉の脂やタレを白いつぶつぶが吸い取って美味しくなっている。私は空腹も相まってひたすら食べた。


 私が空にするよりも早く、凪沙は私よりも大きい器に入っていたそれを食べきっていた。


「じゃあ戻ろうか」


 そう言われて私は店を出ようとした。凪沙は店員と話をしているみたいだ。紙切れを渡した。昨日私が貰ったみたいなやつだ。店員はありがとうございましたなどと言いながら二、三枚の硬貨を凪沙に渡していた。えっ、もしかして、この紙がお金ってこと? 金貨は?


 店に戻ると凪沙にそのまま更衣室に連れていかれて服を支給された。どうやら制服がある様だ。どこかの騎士団か魔法師団なのだろうか?


「とりあえず今日は私について一日中見て仕事覚えて」

「はい、分かりました」


 私に出来ることなら何でもやってやろう。そう思いながら外に出る。そこは、なんというかやたらとうるさい場所だった。何か小さい玉が転がるような音がそこかしこから響いてくる。時々怒鳴り声もだ。なるほど、もしかして用心棒か何かだろうか。


「おい、ねーちゃん、ドル箱持って来て」

「はいはーい、朝から調子いいですね」

「今日はツイてるぜ」


 そう言いながら凪沙は小さな箱を持ってくる。そして箱を置くと小さなものを渡した。


「これ、おしぼりです。頑張ってくださいね」


 そう言ってその場を離れた。その後も動きながら客の要望に応えたりしている。それからカウンターというところに入って客のところから持って来た玉を箱に入れる。そして表示された数字を客に伝えて商品を渡す。なんかどう見ても使い道のないものも渡してるみたいだけど、あれはいいのかな?


「次、ティアちゃんやってみて」


 そう言われてお客様の玉を回収に。うっ、お、重い。仕方ない。身体強化しよう。軽いものなら無詠唱でもいけるから良かった。


 一連の流れをこなして凪沙に褒められた。褒められるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。家では頑張っても褒めてくれなかったもんね。

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