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雑草(episode40)

色んな雑草。

 タケルが家に来る……いや、帰ってくると言うので、ついでに河原で適当に草を取ってきて欲しいとお願いした。タケルはぶちぶち言ってたけど、公園まで行って採取してくれるってさ。なんだかんだいい人だよね。


「ただいま」


 お昼にソーメンを茹でて食べていると、タケルがやって来た。今年は秋になってもソーメンが美味しく食べられるらしい。いや、単に龍二さんがソーメンが好きで帰ってくるまで諾子なぎこさんが取っておいただけなんだけど。


「おかえり」

「父さん。久しぶりだね」

「そうだな、タケルも元気にしてたか?」

「ぼくのほうはぼちぼちね」

「サクヤには会ってるのか?」

「あー、まあ、あいつも忙しいから連絡は取ってるけど、会ってはないよ」

「そうか。まあ元気そうにしてるならいいんだ」


 一通りの親子の会話を交わして食卓へ。諾子さんがウキウキしながら錦糸卵を刻む。


「タケルは錦糸卵好きだったよね?」

「あーまあネギの次に」

「あら、そうだったかしら? じゃあネギも切らなきゃ」

「お義母様、私がやります」

「あら、じゃあ凪沙ちゃんに頼もうかしら」


 などと言いながらワイワイやっている。なんか疎外感みたいなのというか取り残されてる感じだ。これかリア充ってやつ? 私の視線はドバドバと切られた端からタケルの麺つゆカップに注がれていた。


【青ネギ:魔力水と混ぜると疲労回復ポーションになる】


 はぁ!? こ、こんなところにポーションの材料がっ!? いや、待て。タケルが持ってきてくれた草もあるのだ。他のでもポーション作れるかもしれないし。


「タケル、あの、草はある?」

「ああ、うん、あるよ。カバンに入れてるから勝手に取っていっていいよ」


 タケルの言葉に遠慮なくカバンを見る。中には色んな草が入っていた。どんなのかひとつずつ見ていこう。


【スギナ:乾燥させると浮腫をとるポーションに】

【セイタカアワダチソウ:花から採れる蜜は臭いはキツいが美味しい甘味になる。合わない人もいる】

【コハコベ:魔力回復ポーションの材料】


 ……あの、魔力回復ポーションが作れちゃうの? この世界魔法とかなかったんじゃなかったっけ?


 ああ、いやいや、悪いわけじゃない。むしろ助かるんだけど、あ、もうひと袋ある。


【コナラ:キノコの栽培促進ポーションが作れる】

【クヌギ:養蚕飼料として使う。ポーションにして飲ませると、糸の質が良くなる】

【マテバシイ:クッキーの材料。薬効は特にない】


 ドングリ、と呼ばれる、秋にしか見れない木の実だ。他にも栗とか銀杏とかあったんだけど、諾子さんに持っていかれてしまった。銀杏とかすごい臭いがしてたんだけど、食べられるの、あれ?


 そんな中、変な形の葉っぱ、というか私にとっては見慣れた植物まであった。これは、ヒールグラス?


【ヒールグラス:第十二世界に生息するハイポーションの材料となる薬草】


 どうしてこっちの世界にこんな植物が生息してるのかは分からないんだけど、ともかくここにある。まあ数自体は少ないんだけど。


 私はとりあえずこのヒールグラスでハイポーションを作ってみることにしようと思った。あ、でもその前に代替のものがあるネギにしようか。


 ということで諾子さんにネギ……刻んだのでもいいかと聞かれたのでそれでもいいと言っておいた。どうせグリグリして潰すんだし。ネギを分けてもらった。


 乳鉢というものがあるらしいが、それはまあおいおい揃えるとして、とりあえずはすり鉢も借りた。まあ使ってなかったみたいだし。


 やり方を頭の中で思い浮かべようとすると、ネギをすり鉢ですり潰しながら魔力をこめていく。ネギの汁がぼうっと光って綺麗な魔力反応を見せる。


 ある程度すり潰したところで予め用意してあった魔力水に注入。魔力を加えながらぐるぐるとよくかき混ぜる。不純物が無くなって溶け切るまで魔力を注いだら、疲労回復ポーションの出来上がりである。


 さて、誰を研究材料にするかだけど……やっぱりタケルかなあ?


「タケル、こっちこっち」

「嫌な予感しかしないんだが」

「やだなあ、私とタケルの仲じゃない」

「どんなだよ……ま、まあ、興味はあるから協力するけど。ネギだし」


 どうやらタケルのネギ好きは割と面白いレベルなようだ。タケルは思いっきり瓶を傾けて、疲労回復ポーションを煽った。


「おっ? おおおおおおお 」


 タケルの身体がみちみちと音を立てて盛り上がっていくのがわかる。あれは疲労回復ではない。絶対違う。もしかしてタケルの中にあるネギに関する遺伝子が突然変異を起こしたのかもしれない。決して私の薬が失敗したからとかじゃないから!


「清々しい気分だ。歌でもひとつ歌いたいようなイイ気分だ。最高に「HIGH!」ってやつだぁぁぁ!」


 タケル、それ、言ってみたかっただけだよね? 疲労回復ポーションにそんな効果あるもんか!


「いや、でも、なんか身体が作り替えられていくみたいになってるのは間違いないよ?」

「え? タケル、マッチョになるの? それはそれで私には眼福なんだけど」

「いいや、そんなんじゃなくて、なんかこう、体内の悪いものが排出されるような気分っていうか……ちょっとトイレ行ってくる!」


 そうしてドタバタとタケルはトイレに駆け込んだ。出てきた時にはとてもスッキリした顔をしていた。


「ふう、お腹の調子も頭の調子もなんかスッキリしてる。これはいいなあ」


 あー、まあ悪いのを排出してるのかもしれない。となれば疲労回復ポーションは悪くないよね。そういえばスギナとかいう植物で悪いものを排出するみたいな効果って書いてあったような。


「ティアちゃん」

「なんですか、諾子さん」


 いつの間にか諾子さんがそこに立っていた。諾子さんは微笑みながら言う。


「タケルが随分スッキリしたみたいね。羨ましいわ」

「えっ?」

「便秘って辛いのよね。分かってくれる?」


 私は何も言わずにスギナを粉末にして、新たなポーションを作り、諾子さんに謹んで献上したのでありました。

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