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錬金(episode39)

鑑定内容は【】で括ります。

 朝目が覚めると知らない天井だった。あ、いや、ここのところ、自分のアパートではなく、タケルのお家でもなく、マンション最上階のお部屋でもない場所と転々としている気がしたので。


 思えば屋敷に住んでいた頃はいつも代わり映えのない景色だった。冒険者になろうと家を飛び出して、野宿した時は空の大きさに驚いたけど、疲れからか黒塗りの高級車に激突……じゃない、疲れからかすぐ寝てしまっていたから。


 今の状況を考えると割と恵まれている。あのポンコツ女神のやらかしたことは酷いけど、おそらくはやんごとなき事情があったに違いない。神でさえ間違うのだ。いや、こんな事元の世界で言ったら真神教の奴らに目付けられちゃうけど。浄化派と呼ばれる奴らなんて殆どテロリストだよね、よく考えたら。こっちの世界は神の存在が希薄で……あ、いや、八洲やしまが希薄なだけらしいんだけど。なんか世界にはメシア教とか聖典教とか厄介なのがあるらしいからね。


 さて、目覚めたからには行動を起こしたい。惰眠を貪るのも悪くは無いが、私は今、試したくてうずうずしている。それは錬金術だ。お詫びと称して女神様から強奪……もとい、授かったものだからね。


 とりあえず、まずは材料を探さないといけない。台所行こう。


 台所には諾子なぎこさんが鼻歌歌いながら朝ごはんを作っていた。なんかとっても機嫌がいいのはなんでなのだろうか?


「あら、ティアちゃん、おはよう」

「おはようございます。なんだか楽しそうですわね」

「当然よう! だって今朝はリュージ君が居るんだもん」


 ああ、旦那様にご飯が作れるからご機嫌なんですね。私はそういう色恋沙汰はあまり得意では無いのでよく分かりませんが。凪沙もああなっちゃうのかな?


「それにしても早いわね。お腹すいちゃった? それとも私と一緒にクッキングする?」

「あ、いや、そういう訳では」


 私はとりあえず鑑定能力を試そうとした。大根、人参、ネギ、豆腐……私でも知ってる食材の名前が並ぶ。うん、知ってるわ。いや、だからね? ポーションとか作るのにこっちは使えないのかって話なんだけど。


「あらあら、お野菜は嫌いだったかしら? でも昨日までは食べてたわよね?」

「あ、はい、食べ物、美味しいです」

「でしょう? これはね、リュージ君のお兄さんの畑から送られて来たのよ」


 どうやらタケルの伯父にあたる人物は農家になると言って郊外に広い土地を買って大規模農業をしているらしい。お陰で美味しい野菜が食べられるんだとか。ちなみに源三オーナーは叔父。同じ「おじ」って音なのに意味が違うのは面白い。


「やあ、おはよう。いつも早いね」

「リュージ君! おはよう! 良く眠れたかしら?」

「おいおい、若干寝不足なのは知っているだろう?」


 龍二さんは私が寝る前もなんか会議みたいなのしてたし、忙しかったんだろう。しかし、家に帰ってきた時くらいはゆっくりすればいいのに。いや、ここは家じゃないんだけど。


「おはようございます……」


 凪沙も眠い目をこすりながら起きてきた。私は凪沙がちゃんと目を覚ます様に付き添って洗面所へと辿り着かせる。凪沙は眠い目のまま、歯ブラシに研磨剤……あ、歯磨き粉って言うんだっけ? それをつけてシャコシャコ磨いていた。


【歯磨き粉:研磨剤、発泡剤、香味剤など。合成する事で飲みやすいポーションを作れる】


 は?


 ええええええええええええええー!?


 歯磨き粉で、ポーションが、出来る!? なんのこっちゃ! いや、ポーションって回復だけじゃない飲み薬全般の事なんだけど、飲みやすくなる? あー、まあ、それはいいとしよう。それじゃあポーションは、ポーションはどうやって作れるわけ? こらでも勉強はしてたけど、この世界って薬草とかないじゃない!


 気を取り直して食卓に行く。ま、まあ、ポーションはそのうち作るって事でとりあえずは野山に出て採取はしたいなあ。あ、でも外に出れないんだよね、今。


 そしてふと視線を龍二さんと諾子さんに向ける。相変わらずイチャイチャしおって。諾子さんは甲斐甲斐しくコーヒーを入れてあげる。あの味にはなれない。


【コーヒー:興奮剤。体内に多量に摂取すると中毒症状を起こす事がある】


 うわっ、これマジ? まさか自殺志願者なの? 早まっちゃダメでしょ!


「あの。そのコーヒーってやつ、身体に悪いんじゃ?」

「ああまあ、飲みすぎたりするとカフェイン中毒とかになったりするね。少量を嗜む嗜好品だよ」


 よく分からないけどお酒みたいなものだろうか? 確かにお酒のアルコールは身体に悪いけど、みんな酩酊する為に飲んでたりするからね。


 どうやら諾子さんもコーヒーに関しては受け入れてるみたい。とりあえずコーヒーは保留。薬草とか色々欲しいなあ。採取には行けないからどうするか。


 そんな風にモヤモヤしていたら頭の上にポンっと手が置かれた。大きい手だ。父親の手なのだろう。私には望んでも得られなかったものだ。


「心配はいらない。近いうちに決着は着く。だからもう少し我慢しておいてくれ」


 優しく撫でられながらそんな事言われたら了承するしかないじゃないか。それを見た諾子さんが「いーなー」って割り込んできて私の頭の位置を奪っていった。あー、まあその辺は夫婦なんですし、ご自由にどうぞ。


 凪沙は仕事に行けなくてフラストレーションが溜まってるみたいだったので、魔力の循環を練習してもらおう。わかりやすいのは水だ。コップに水をいれて、ぐるぐると循環、というか還流させる。渦を巻く様にぐるぐるやるんですよ。目に見えるからやる気も起きるし。頑張って……


【魔力水:魔力を含有した水。ポーション作りの基礎となるもの】


 循環させたコップをふと見るとそんな事が書いてある。って、ポーションの材料ってこうやんの? という事はもしかして水門の回復効果って、ポーションを原液で使ってるってこと? あー、まあそれなら傷ぐらいは治るわな。ますます薬草が欲しくなってきたなあ。

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