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第三十七話 進路

森林の奥に何が待っているのか。

 公爵様がテオドールとヒルダさんと一緒に帰る事になった前日、私はテオドールに呼び出された。依頼自体は終わってるから会う必要ないんだけど、どうしてもと言われ、また、公爵様からも頼まれたので私も渋々会うことに。


 テオドールは私を高そうな食事屋に連れていってくれた。えっ、あの、もしかして私、プロポーズされる? あ、いや、その、テオドールみたいなのはあまり好みじゃないんだよね。ヒルダ様と張り合える気もしないし。


 席に着くなりテオドールは頭を下げてきた。


「今まですまなかった。ありがとう」


 だってさ。あー、まあ、うん。テオドールとしては跡取りをエドワード様に取られるかもしれないと気が気じゃなかったんだろうね。


「兄のオレが言うのもなんだが、エドワードは優秀だからな。跡取りの地位もヒルダも取られてしまうと思ったらイライラしてしまって」


 あー、まあ、エドワード様は処理能力高そうだよね。オマケにイケメンだし。あ、いや、テオドールもそれなりに見れたものではあるよ?


「公爵領を運営していくにはエドワードの方が適任だと自分でも思っていたのだ」


 これは頭でわかってても心が否定するみたいなものだろう。ただ、公爵様の考える「必要な資質」とテオドールの考えていた「必要な資質」が食い違っていただけだ。


 公爵様は言ったんだよ。事務処理能力とかは出来るものに任せればいい。考えが足りないならブレーンを揃えればいい。だが、カリスマだけは違う。それこそが持って生まれたものとして領主が持たねばならん。あとのものは二の次なのだ。それには武力も必要になろうって。


 ちなみにその辺はエドワード様も分かっていた様で、自分には領主の器がないから事務仕事で兄に認めてもらいたかったんだって。なんだよ、エドワード様、テオドールの事大好きかよ。


 という事で勝手に空回りして勝手に不貞腐れていたテオドールがおバカだったって話。うーん、私の言い分も大概だなあ。


「私は気にしてませんから。大丈夫ですよ。頭をおあげください」


 私は優しく声を掛ける。そうでもしないとこの人ずっと頭下げてそう。


「そう言って貰えると助かる。さあ、今日はオレの奢りだ。好きなだけ食べてくれ」


 毒ガス訓練とかされないよね? さすがにお礼でそれはないか。高級な店だけあって出てくる食事も一級品だった。とりあえずマナー訓練で培った食べ方をする。上流階級というのは食べる仕草に限らず、どこの世界でもある程度の共通点はあるものだ。まあ中にはとんでもないマナーとかあったりするのかもだけど致命的な事にはなって無さそうだから大丈夫だろう。


「ふむ、食事のマナーも取得しているとはな」

「嗜み程度ですが」

「その嗜みを取得するのにオレがどれだけ苦労したと思う?」

「想像したくないですね」


 一通りの食事が終わり、食後のワインを飲みながらテオドールは私に言った。


「お前、冒険者を辞めて公爵家に仕えるつもりはあるか?」


 何の冗談だろうか? いや、これは冗談では無さそうだ。目の前に座っているテオドールの目は真剣そのものだ。


「ありがたい話かと思いますがお断りします」

「そうか」


 それ以上テオドールは追及してこなかった。うーん、もしかしたらテオドールにも分かっていたのかもしれない。


 私が公爵家に仕えない理由は、冒険者の方が色々便利そうだということ。行動の自由がね。私はせっかくこの世界では自由になれたのだ。もう少し自由を満喫したいのだよ。


 テオドールと別れて冒険者ギルドに帰る。いや、宿屋に行っても良かったけど、ギルドなら誰かいるかなって。なんか人恋しくなったんだよね。


 ギルドではエレノアさんとベルちゃんさんが迎えてくれた。久しぶりにベルさんのお家に行って暖かい家族と一緒に居てもいいかなって気がしてくる。


「おめでとうキューさん、カッパー級に昇級しましたよ!」


 どうやら私のランクが一番下から上がったらしい。ランクをあげるには貢献ポイントと依頼達成率、達成回数が必要だそうで、街中での依頼を受けまくってた私は早々に上げる予定があったんだとか。


 だが、上がるかなって辺りで公爵様に雇われてしまい、そのまま公爵様の手下になるかもって思って保留されてたらしい。あー、まあ、普通は公爵様の手下って言われたら大企業のエリートコースみたいなものなんだろうね。


 ところが誘いを断って私は帰ってきた。これにはギルドもびっくりしながら歓迎し、私の銅級昇格をすんなりきめたんだそうな。もっとも、もっと上げてもいいんだが? みたいな意見はあったらしい。


 それを止めたのはベルちゃんさん。彼女は私の急なランクアップは本人にとっていい事にならないと主張し、ゆっくりと冒険者として成長してくれる様にしたいと。エレノアさんもそれに賛成したらしい。


 まあ私としても名前が売れるよりは細々と暮らしていきたいと思うもんね。というか有名になると、私の転移テレポートとか鑑定サイコメトリーとかを便利に使いたがるやつに目をつけられそうだもんね。


 とりあえず森林暴走オーバーランが治まったので、森の奥の調査の話はそのまま続行だそうだ。危険は無いと思うが気を付けてくれって完全にフラグの様な気がするよ。


 森に行くのは私一人では無いらしい。あーまあ、私の戦闘力って大してないもんね。今回の件ではテオドールっていう化け物みたいに強いのが居たし、エレノアさんの魔法も凄かったんだから。私は補助的な役割ですよ。


 それで三日後にその一緒に行く冒険者パーティと顔合わせをしてそのまま出発するらしい。移動手段は私の転移だってさ。いやいや、万一合わない人間ならどうするんだろう? ほら、私の肉体に欲情をして襲いかかってくるとか。


 エレノアさんは私の身体を上から下まで眺めてウンウンと頷くと、「大丈夫でしょ」って軽く言って笑ってた。ぐぬぬ、胸か? あんなのは単なる飾りです。エロい人にはそれがわからんのです!

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