龍二(episode36)
源三、龍二、一太郎とかにする予定です。
あ、でも一太郎のところはもっといい案が浮かべば入れ替えます。
そんな感じでメイと諾子さん、凪沙の三人に魔法を教えながらダラダラと過ごす。うーん、私は貧乏性なんだろうか。何もしてないと身体がうずうずしてくる。
「あらやだ。欲求不満?」
なんて諾子さんにはからかわれた。いやまあ欲求不満なのかどうかは別として家から出られないのは普通にどうかなって思うよ?
外に出るのは絶対禁止。家の中でも単独行動しないで、常に三人中二人は私と一緒にいる。凪沙は仕事しなくて生活費大丈夫なのかと聞いたら、諾子さんが、私のボディガードとして危険手当込みで給料を払ってるし、食事も寝るところも提供してるから問題ないって。
諾子さんとしてはこのままなし崩し的に一緒に暮らして、母娘でキャッキャウフフしたくて仕方ないらしい。さすがは四季咲の神算鬼謀。いや、何も考えてないのかもしれない。
そんな生活が一週間も過ぎたあたりで誰かが玄関のところに立った。私だって気配くらいは分かる。何よりここに三人とも居るのだ。きっと不審者に違いない。私はこっそりと魔法を詠唱する。
そいつかドアを開けた。玄関には鍵が掛かってたはずなのに容易くドアを開けてきた。もしかしてピッキングとかいう技術? 聞いてはいたけど見るのは初めてだ。金門の術者なら鍵なんてあってないようなものだけど。
そいつは我が物顔で廊下を歩いてくる。明かりがここに点いているのに堂々と真正面から来るのだ。さぞかし自信があるのだろう。ならば私ももっとも自信のある水門の魔法で迎え撃つ!
「喰らえ、必殺、水門〈水龍波〉」
「ただいまナギちゃん」
「あぁん、おかえりなさい、リュージ君!」
私の魔法が発動する直前、諾子さんがその男の面……まあなんというか野暮ったい眼鏡をかけた冴えなさそうな男なんだけど、をまじまじと見て、喜色満面で男に抱き着いた。
私は手の中に発動したまま行き場をなくした水龍を呆然としながら押し留めていた。あ、バカ。あれはダメだ。敵じゃない! よし、じゃあ上に撃とうって上は天井がある! しまったあ!
バシャーンと音がして天井にぶちまけられた水は部屋の中を水浸しにしてみんなを濡れネズミにしてしまった。
「あらあら、スケスケねえ」
「あの、ナギちゃん、これは一体」
「お久しぶりです、おじ様」
そこで説明すべく凪沙が立ち上がった。メイさんはいつの間にか居なくなっていた。
「君は、確か、そうか、タケルの彼女の」
「まだカノジョじゃありません!」
いや、もう彼女認定されてもいいんじゃない? 時間の問題だと思うよっていうか
この人は一体誰なの?
「他にも居るみたいだけどナギちゃんのお友達?」
「ああ、いえ、タケルの二号さんよ」
「違います!」
「あの、ティアと申します。現在はタケルに助けられてパチンコ屋で働いています」
こういう時はこちらから自己紹介した方がいいだろう。私は丁寧に頭を下げる。
「なるほど、源三のところか。私は古森沢龍二。ナギちゃんの夫であり、タケルの父親だよ。息子がお世話になってる様だね」
あー、なるほど。今まで現れなかったタケルの父親か。そう言われてみれば冴えないところがどことなくタケルに似てる。
って口に出したら「タケルは冴えなくなんかないもん!」って凪沙に怒られたし、諾子さんにも「そうよ、リュージ君はかっこいいんだから!」と別のベクトルで怒られた。愛って凄いね。まあここは私の好みに欠片も掠ってなくて良かったと思っておこう。
しかし、諾子さんがいそいそと食事を作ろうとしたが、家の中は水浸しでそれどころじゃあない。まずは片付けないといけないけど、作業量に途方に暮れる。
「旦那様」
「うわっ、びっくりした。ええと、メイ君だっけ?」
「はい、こんな事もあろうかとここより近くの隠れ家を解放しましたのでそちらにお移りください。お風呂の用意も出来ております」
なるほど、メイが居なくなっていたのはこの状態の家に居させることは出来ないと踏んで別のセーフハウスを用意する為だったんだね。さすがはメイドさん。やる事が早い。
「やあ、それは助かるな。いつもならお断りするところだが、今日は緊急事態ということでお言葉に甘えさせてもらおう」
リュージさんは柔らかく笑った。ああ、別に無能とかじゃなくておおらかなのかもね。とんでもない大物か、とんでもないバカかどっちかなんだろうけど。大物には見えないよねえ。
私たちはゆっくりと移動した。途中で襲撃が来るかなと身構えていたが距離が短かったからから襲撃はなかった。これで私も外に出して貰えるようにならないかなあ?
辿り着いたのはこないだのマンションとは違う場所。なんというか普通の一軒家だ。アパートとかじゃないんだ?
「では、まずは龍二様からお身体を流してお寛ぎください。その間に食事の用意をさせていただきます」
入るならメイがお風呂を促す。私たちもお風呂に入りたいなとは思ったけど、メイの指示に従うか……あれ? 手招きされてる? あ、こっちに従業員用の風呂場があるの? 私と凪沙はこっちに入ればいいのね。
ふう、いいお湯だった。台所には私たちだけ? 食事の準備は粗方出来てるみたい。まあデリバリーだけど。あのピザってのが美味しいよね。チーズがびろーんって伸びて、それをコーラで流し込むの。もうハッピーって感じだよ。
それからしばらくしてお風呂場からリュージさんと諾子さんがくっついて戻ってきた。あー、もしかして、諾子さんが居なかったのはそういう? いや、私も貴族だし、そういう知識はあるのよ?
諾子さんが上機嫌だからお風呂に入ってる間に何かあったのかもしれないわね。かれこれ、入浴した時間から二時間近く経ってたし。
食卓でも諾子さんはリュージさんにベッタリで手づから箸をとってあーん、なんてしている。すごい光景だ。凪沙もなんかすごい顔して食べてる。もしかして。 タケルにあーんってしてるところを連想しちゃったのかな?