第四話 &episode4 夢現
二人で共有する夢の世界。セッティングした神はそのうち。今日は初顔合わせです。
二人が目を開けると、そこは真っ白な部屋だった。辺りには何も無い。ただ、向こうの方にテーブルが見えた。椅子もある。何も無いというのは不安を掻き立てるものだ。二人とも図ったように立ち上がり歩き出した。
お互いにテーブルに近付くと、その向こうからお互いの姿が見える。お互いの姿をお互いが認識すると、テーブルに辿り着いた。テーブルの上にはティーポットとカップ、そしてお菓子が幾つか置いてある。
お互いの顔を注意深く見詰める。そして驚くべき事に気付き、素っ頓狂な声を上げた。
「えっ!? 私?」
「私のクローン!?」
どうやら一方の方、キューの方はまだ耐性がありそうだ。直ぐに戦闘態勢に入ろうとするキュー。慌てるティア。
「待って待って待って! あなたは私?」
「そんな事は分からない。研究室の追手だというなら死ぬ気で抵抗する」
「研究室? あなた、学園の生徒か王城の魔法省の人間?」
「言ってる意味が分からない。煙に撒こうというのか?」
「そんな魔法持ってないわよ!」
そこまでのやり取りで頭が冷えてきたのか、二人とも攻撃の意思は無くなったようだ。そもそも同じ顔をした人物を攻撃するのは躊躇いが出る。いや、逆に全く躊躇わない人種も居たりはするが。
「自己紹介をしておくわ。私はティアリエル・バイス・ブルム。こう見えて侯爵家の娘よ」
「……鱗胴研究所、実験体九号。一応キュー・リンドと今は名乗っている。見ての通りの実験体だ」
「見ても分からないわよ! だいたいあなた、私と胸のサイズ以外全部同じじゃない!」
「実験体に性的なものは必要ないということで抑制された。普通サイズにはあるが」
「まあいいわ。その研究所というのは?」
「私のような実験体を使って超能力の研究をしているところだ。まあ存在自体秘密裏にされているのだが」
「そんなの聞いた事ないわよ。王都にでも行けばあるのかもしれないけど」
「王都? 王都と言ったか? 私はその王都という単語をさっき聞いたぞ。冒険者ギルドというところで」
それを聞いてティアはバンッとテーブルを叩いて立ち上がった。
「あの、あなた、もしかして大八洲という国に聞き覚えは?」
「聞き覚えも何も私の居たのは大八洲の政府が金を出してる研究所だぞ?」
その言葉にハッと気づいてとすんと腰を下ろす。椅子にもたれながらぶつぶつとティアはつぶやき始めた。
「もしかして、あなたと私が入れ替わってる?」
「ふむ、私は異世界と感じては居たがそういう事かもしれないな。もっともあなたの、ティアリエルの世界とは限らないが」
「一応魔法があって冒険者ギルドがあるからおそらくは間違いないと思うけど。そう、そういえばギルドマスターとか居ませんでした?」
「居たな。確か、イケメンでアリュアスとか呼ばれていた様な」
「英雄アリュアス様!? という事は魔の森の最前線、辺境の街、ヘッジですわね!」
どうやらティアの知っている人物だった様で酷く驚いていたが、キューには実感がない。というか街の名前が判明したなあっていうくらいだろう。
「ティア、私はこちらの世界で生きる。その為に冒険者というものをやってお金を稼がないといけない。やり方を教えて欲しい」
「そ、そうですわね。まずは冒険者となる為には試練の洞窟に潜らねばなりません」
「え? でもギルドマスターの権限で冒険者にするって」
「辺境の街の特例措置! そういえば魔の森に対抗する人手が足りないから条件を緩和するっていう場所があると。そっちに行ってれば」
「あ、うん、なんかごめんなさい」
「いいんです。で、最初は薬草採取とか街中の仕事の手伝いとかですわね。ギルドに依頼票がありますから……あなた字は読めますの?」
「うん、何故か分かるんだよね」
「私も日替わり定食は読めましたからきっとそういうものなんでしょうね」
それぞれ違う文字であると認識してるのに書けるし読める。これは異世界転生あるあるなんだろうか。
「あなたもお金が必要じゃないの?」
「そうね、私も元の世界に帰る気もしないし、こちらで生きるにしてもお金が必要だもの」
大きい胸をぷるんと震わせる。キューの目がちょっとジト目になったのは言わぬが花だろう。
「とはいえ私も働く事になってますけど。ええと、確かやたらとうるさいぱちんこ?とかいう場所で。詳しい仕事の説明は明日らしいですが、危険がないといいのですけど」
「あー、うん、モンスターが襲って来たりはないかな。たまにモンスターみたいな文句言う人はいるみたいだけど」
「人がモンスターに変異するんですか?!」
「あ、違う違う。ともかく生命の危険は滅多にないから」
モンスタークレーマーの説明は難しい。ましてや、実際にモンスターがいる世界の人なのだ。
「それにしてもここは何なんだろうね」
「おそらくは就寝したタイミングが全く同じだったからでは無いかしら」
「時計合わせて寝れたらいいんだけど」
「そう、こちらでは鐘はなりませんのね」
鐘? というのにキューは首を傾げたが、そういえば昔は鐘の音で時間を報せていたというのに落ち着く。
「時計は持った方がいいと思うけど」
「あるけど見方が分かりませんわ!」
そこから地面に時計を描いて文字盤の見方を説明する、という小学校低学年の授業が始まった。
「六十分で一時間というのはとても不便に聞こえますわ」
「時間の概念すらなくて、朝の鐘、昼の鐘、夕の鐘の三回鳴らすだけの世界の人に言われてもなあ」
「あら、それで十分ではありませんか」
「いや、時間は守れって言われたんでしょ? 明日は何時に行くの?」
「確か十時だったかしら」
それを聞いてキューはほっとした。それだけ遅ければ何とかなるだろう。ゆっくり起きても間に合うはずだ。ティアはキョトンとした顔をしている。
「ええと、とりあえず頑張ろう」
「そうね。お互い頑張りましょ」
お互いの健闘を祈りあったところで二人は目を覚ました。それぞれの世界での一日が今日も始まる。