第三十四話 吶喊
テオドールの評価を上方修正。
私は頑張って王都に転移で戻りました。ヒルダさん? あー、テオドールの晴れ姿見たいからって一緒に戻せって聞かなかったから連れて行きました。
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
「あ、ベルガーさん、テオドール……様は居ますか?」
「……少々お待ちください」
ベルガーさんも言いたいことを飲み込んだみたいでテオドールを連れて来てくれた。
「ふん、どうだったのだ?」
そう言いながら手はムズムズしながら動いている。こういう時は平静を装いながら心待ちにしてたみたいな感じだと思う。
「ええと、リンクマイヤー公爵様の許可は貰えましたよ」
「そ、そうか」
「ですが、そこにミルドレッド公爵様がいらっしゃいまして」
「なに、お義父上が?」
テオドールも満更でもないんじゃない。まあテオドールにとっては無条件で慕ってくれる女性だもんね。
「まあそれはどうでもいいんですけど」
「全然良くない! 言え、何か条件を出されたのだろう?」
「あー、はい。森林暴走を食い止めればみたいな話を」
「話が見えんぞ? だいたい森林暴走なんていつ起こるというのだ!」
「あー、それはもうすぐ起きますよ」
「なんだと? 急ぎ防衛をしなければ。どこが襲われるのだ?」
「エッジです」
「は?」
「ですから襲われるのはエッジの街です」
私の言葉にみんなぽかーんとしていた。まあそりゃあそうだ。王都でもリンクマイヤー公爵領でもないのだ。いや、大きく分ければ公爵領なのだけど。
「今からエッジの街の防衛に兵を出したところで間に合うかどうかはギリギリだぞ?」
「ええ、ですが、食い止めねばリンクマイヤー公爵家は降格かお取り潰しに」
「どうしようもないではないか!」
エドワード様は頭を抱えてどうしようどうしようと呟いている。あー、本当に打たれ弱いんだな。
「テオドール様、リンクマイヤー公爵様はテオドール様が兵を率いてエッジの街を守るのを期待しております」
「うむ、もちろん期待には応えたい。しかし、さすがにエッジまで進軍させるのは」
「実はテオドール様に試してもらいたいことがありまして」
私はテオドールに耳打ちをすると本当にそんなことが可能なのか?なんてびっくりされた。いや、だから可能かどうかを確かめるんだよ? あと、ヒルダさん? そんなものすごい顔で睨まないで。盗らない、盗らないから。というかテオドールは好みじゃないんだよ! エドワード様ならいけるかもだけど。
私はテオドールに頼んで軍隊を遠征準備させて待機してもらっていた。練兵場には精鋭と呼ばれる兵士たちがいる。
「えー、それではなるべく動かないでくださいね。私も初チャレンジだから成功するかなんてわかんないし」
私は兵士たちの周りに線を引いた。正直、転移に必要なのは転移させるものの位置だ。転移というのは位置の置き換えと言ってもいい。そこに元からあったものを押しのけて物体を割り込ませるのだ。
これが自分の身体なら転移先に何があったところで空間がズレるだけだ。だけど大規模転移なら? 一人二人くらいなら手を繋ぐことでひとつの個体として転移出来る。でも大人数にみんな手を繋がせるのは現実的では無いし、形としても捉えづらい。
という事で範囲を指定してそこのものを転移させるという考えに辿り着いたのである。出来るかどうかはまだ分からないけど、できたらいいよね。
超能力はイメージだ。私もビギナーだからあれだけど、ここ数日で転移は何度もしたから何となくわかる。私は自分が跳ぶ時に転移先に何があるかとかは気にしてない。にも関わらず、事故などは起きてないから、これはきっと修正力みたいなのが働いてるんじゃないかと思う。
目の前にいる全部をひとつの個体として捉えて、その「荷物」を持って跳ぶ感覚でやる。それが成功の秘訣だと思ってる。さて、その為にはものとして扱わねばならない。なのでテオドールには黙っててもらおう。
「おい、今ものすごく失礼なことを考えなかったか?」
「テオドール……様。ええ、まあ、その、今はそれどころではないかと思います!」
「後で覚えていろよ」
テオドールの尋問が未来で決定したけど、未来は未定であり確定では無いので忘れてくれるといいなあ。
「それじゃあ大規模転移、やります!」
私の周りに超能力のフィールドを展開する。そしてそのフィールドで兵士たちを包み込む。みたいな具体的に見えるものがあれば違うんだろうけど、何となく力を込めてえいってするだけなんだよなあ。ええい、ままよ!
私が転移を発動させて次に目を開くと屋敷とは違うところの原っぱがあった。そしてみんなは呆然としている。よし、成功だね。これに調子に乗ってどんどん行くよー!
私は何度も転移を繰り返した。途中、森の中で木々に邪魔されたりしたけど、木ごと転移させた。質量はあまり関係なくて空間だけが大事なのです。
七回目の転移でワープアウトした時に遠くの方にエッジの街の灯りが見えた。これは間に合ったかな? って思ったら街の手前で砂埃が舞っている。
「テオドール様はここで待機!」
私は一目散にそこに跳ぶ。出くわしたのはエレノアさん。
「キューちゃん!」
「あ、エレノアさんだ。なんか大変そうですね」
「見たらわかるでしょ!」
ふと、周りを見ると緑の肌をした小人、ゴブリンや、犬の頭をした二足歩行の亜人、コボルト、ブタ面の亜人、ワーボアが武器を持って暴れ回っていた。
「このままだとジリ貧だからギルドにいるビリーやリリィちゃんと一緒に逃げなさい!」
なんて言われたけどエレノアさんの言うことに従うとは言ってない。私は再びテオドールのところに戻った。
「エッジの街がもう既に襲撃にあってます」
「なんだと? それは聞き捨てならん。皆の者! 私に続け!」
テオドールは掛け声をあげると森林暴走に向かって吶喊した。呼応するように兵士たちも鬨の声を上げながらテオドールの後ろについて行った。