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第三十二話 昔話

公爵家はあと二つある予定です。

「あれは十歳のころ、私が退屈なダンスパーティーを抜け出した時でしたわ」


 あ、なんか語りが入りました。回想モードなのかな? まあ聞いて損になるかは分からないけど聞くしかないんだよね。


 以下回想。


 多くの方がヒルダの事を「公爵家のお飾りさん」としか見ておらず、辟易しながらパーティーに参加していました。私はそんな息苦しい日々が嫌である時、パーティーを抜け出してしまいました、


 抜け出したとて行く宛ても無く、フラフラと歩いていると王都の暗がりから悪漢が飛び出してきたのです。その悪漢達は言いました。私のことを可愛いと。きっと誘拐でもするつもりだったに違いありません。私は公爵家でそういうのは何度も遭遇していましたから。


 しかし、いつもなら護衛の騎士がいる場なのに、パーティーを抜け出した私にはその様な者はおりません。このままだと、魔の手が伸びて、私はさらわれてしまうでしょう。ああ、何たる最期! 私はいざとなったら自害しようと腹を括りました。


「待てい、貴様ら!」


 その時に塀の上から声が響きました。見ると私と同じ歳位の男の子が剣を片手にとう、と塀から飛び降りました。着地に失敗して尻もちをつきながらも涙をこらえて立ちはだかる姿。私の心はその姿に見惚れて奪われてしまいました。


 男たちは「おいおい、すごい音したけど大丈夫かい? そんな危ないもん振り回してないでこっちにおいで」などと懐柔策を取ってきました。その男の子、テオドール様から剣を取り上げるつもりでしょう。


「うるさい、黙れ! ぼくはリンクマイヤー公爵家のテオドール・リンクマイヤーだ!」


 なんと堂々とした名乗りなのでしょう。その雷名に恐れをなしたのでしょう。男たちはそそくさと逃げ去ってしまったようです。私は助かった安心感に大声で泣き始めてしまいました。テオドール様はそんな私を気遣うように「女が泣くのは苦手だ。まあ無事でよかった」と頭を撫でてくれました。


 それからパーティー会場に戻り、お父様に謝って、私は一生懸命自分磨きをしました。あの方に、テオドール様に釣り合うために。時には寝食を削って努力をしました。その甲斐あってか、私の頭脳も運動能力もメキメキと成長を遂げました。


 一方で、私の肉体は女性らしさに欠けていました。その、柔らかい胸とか太ももとかはなかったのです。鍛えましたから。そんな私は結婚するにあたって、テオドール様以外には嫁ぎたくなかったのですが、父が言えば嫌とは言えません。あえて相手に嫌われるようにしようと振る舞うことも考えましたが、体型的に誰も私に興味を示しません。


 それは別にいいのですが、テオドール様にまでそんな風に思われたら死んでしまいます。そんなある日、父が縁談を持ってきました。この縁談については有無を言わせずに引き受ける様にと言われました。とうとう私に求婚するものなど居なくなったのでしょう。この話も潰してやる。そう思いながら相手の姿を見ました。


 テオドール様だ。私が恋い焦がれたテオドール様が目の前にいる。なんでも行状があまり良くないらしく剣を振ってばかりで政務を覚えようとしないどうしようもないダメ息子なんだとか噂で聞きました。


 私の心は歓喜で震えました。政務が苦手ならば私が支えればいい。何より、あのテオドール様は昔のままに目が輝いていたのだか。テオドール様にお好きなことをしてください、私が支えますと言えば、頼んだぞ、と任せてくださった。やはり運命の相手だったのだと私は心から思った。


 回想終わり


 ……ええと、私たちは何を見せられているのだろう? 何を聞かされたのだろうか? おそらくヒルダの中ではとても綺麗な思い出として残ってるみたいだけど、多分貴族みたいな服を着た嬢ちゃんが珍しくて声を掛けたら公爵家が出て来たからビビって逃げたみたいな話なんだと思う。酔っ払いさん達に何も無くてよかったよ。


「そうか、ヒルダ、お前はあの時のレディか」

「覚えておいてくださったのですか?」

「当たり前だ。私はあの少女、いや、ヒルダを守れた事が誇らしくて剣の道に励んだのだから。書類仕事では守れないからな」

「テオドール様……!」


 あー、まあ、ラブコメはお家でやってください。ってここお家ですね。


「エドワード様は何かないんですか?」

「ぼ、ほくは兄上みたいに堂々と出来ないし、そもそも人前に出るのもそこまで好きじゃないから書類仕事自体は好きなんだけど」


 テオドールは少々堂々としすぎてると思うんだけど、まあ跡取りがそんな意見ならばまあいいんじゃないの?


 となればやる事はヒルダを公爵様の前まで引っ立てて行くことかな。公爵様の許可が貰えれば万事オッケーだね。


「じゃあヒルダ様、今から行きましょうか」

「えっ? 行くってどこへ?」

「公爵様のところですよ」

「お父様の?」


 あー、そうだった。ヒルダ様のお父様も公爵家でしたね。ミルドレッドだっけ?


「そちらは後回しで。まずはリンクマイヤー公爵様に」

「えっ? いきなりお義父様に? いえ、覚悟は出来てますが」


 そう言われたので私はヒルダはに舌を噛まないように注意をするとそのまま転移テレポートを開始した。ちなみに、一回の転移で移動できる距離は段々と長くなっている。


「きゃあ!?」


 可愛い悲鳴が聞こえてくるがお構い無し

 、私は何度も転移を繰り返してエッジの街に到着した。城門のところでヒルダ様は呆然としている。


「こ、ここは、紛れもなくエッジの……どうやって、ねえ、どうやってここまで!?」

「お、落ち着いてください。さあ、公爵様に会いますよ」


 そうして私たちは公爵様の居る執務室の扉の前に転移した。中に気配はあるから間違いなく居ると思う。


 ノックを三回。「なんだ?」と中から誰何の声。中には公爵様がいるみたいだ。


「キューです」

「どうした? 今来客中だから後にして欲しいのだが」

「ルドルフ、構わんよ。急ぎの話では無いのかね?」


 もう一人の声が聞こえた時にヒルダが「お父様!?」などと叫び声をあげた。あー、扉の向こうにいるのはヒルダのお父様なのね。

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