試撃(episode32)
ティア「何もしてないのに捕まった!」
若林「……勘弁してくれ」
魔法の試し打ちをしようと思います。そのいち、まず服を脱ぎます。いや、違うか。待って待ってこれにはちゃんとした理由が。
魔法って色んな要素に影響されたりするんだよね。だから本来は裸の生まれたままの姿でやるもんなんですよ。 その方が魔力も感じやすいしね。まあでも、そんな事やってたら変態に思われちゃうので、そういうフィールドを使ってやるんですよ、本来は。
でも、この世界ってそういうフィールドないじゃない? 少なくともそこらの施設には置いてないんだもん。だから裸。故に裸。別に痴女って訳では無いのです。
だからこんな誰も来なさそうな橋の下に来た訳なんだけど。でも、居るね。居る居る。何人か人が居る。あの日は誰も居なかったのは間違いないんだけど、今は何人か居るなあ。
まあいいや。隠すほどの事でもないし。えっ、隠せって? うーん、まあタケルには隠した方がいいよって言われてるし、凪沙にもおおっぴらに使うなって言われちゃいるんだよね。
まあ私の風魔法、木門なんてそよ風が吹くくらいだよ。あれ? でも、なんか前に強い風を起こせた様な記憶が。気のせいかなあ?
「風よ、舞い踊り、水を吹き上げよ。木門 〈竜巻〉」
私の竜巻なんて水面がクルクルして終わりだと思うんだけ……ど……
どうぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんかいきなり竜巻が生まれて天まで付き上がったんだけど!? これ、橋の真下でやってたら橋破壊してない!? あー、ストップストップ、やばいやばいやばい!
ふう、止まった。もしかして、私の魔力上がってきてる? この世界と相性がいいのか、それとも私自身が成長してるのか。いやまあ、私が成長してたのって水門だけだったもんね。向こうの世界では他の魔法は空気中の魔力に負けて………………あれ? そういえばこの世界って空気中に魔力無いのでは?
という事は今まで阻害されてた魔法がバンバン使えたりする!? た、試してみようかな。よし、ここは私の使える唯一の火門で。
「火門 〈種火〉」
私の言葉に手のひらに火が灯る。うん、小さい炎だ。というか炎と言うのも烏滸がましい位の火だ。でも自然に消えそうには無い。もしかして持続時間も上がってたりする?
「火門 〈赤熱円舞〉」
どかん、という凄まじい音がして、目の前が真っ赤に染った。幸いだったのがそこが河原で、燃えやすいものがなかったからだ。少し離れた場所には何故かダンボールが幾つかあったりするけど、そこまでは届いてない。
「うわぁ」
私は呆然とその炎が鎮まるのを見ていた。あの日、私が先生に見せてもらった赤熱円舞の魔法。あの日の炎と比べても私の方が劣ってるとは思わない。もちろん思い出補正をかけて私がまだ小さな子供だった頃っていうのも加味しても。
「出来ちゃった」
使う場所を間違わなければ男をどん底に落とす魔法の言葉だけど、私の口からは自然に出たし、そもそも目の前に男の人なんか居ない。
いや、遠くから男の人が駆けてくる。いや、別に求愛アピールはしてないですよ? ほらデモンストレーションでギルドの修練場ででかい魔法撃ったりするってのは聞いたことあるけど、今は冒険者になる訳にはいかないからね。明日も仕事があるし。
「う、動くな!」
二人の男が私に何やらを向けている。確かあれは銃だったかな。まあ水壁で止まるから大したことなさそうだけど。
「凶器はなんだ! こんな爆発起こしやがって。爆弾か? 他にはどこに仕掛けた!?」
あー、いや、私は狂気じゃなくて正気ですよ。ほら、ちょっと魔法の練習というか試し打ちしてただけて。
「話が通じてないのか? ホールドアップだ!」
確かホールドアップって両手を上にあげろって意味だったよね。まあ銃を撃ってこられても困るし、いざとなったら手を上にあげた状態でも魔法は撃てるしね。私は素直に手を挙げたよ。
「よ、よし、動くなよ?」
一人の男が私に近寄って来て私に触れようとする。視線は胸に釘付けだ。あ、もしかしてこいつら私のおっぱい揉もうとしてる?
手が近寄ってくる。銃で狙われてるけど水壁はいつでも展開できる。無詠唱でもちょちょいのちょいだ。私の身体はタダで触らせてやるほど安くはねえぞ!
恐る恐るといった感じて近寄ってくる手を膝で弾き飛ばし、そのまま足の先を顎に直撃させる。柔軟性には自信があるのですよ。
「貴様、何をする、撃つぞ!」
撃つぞ、と言いながらも撃つ素振りが見えない。もしかして戦闘をしたことないやつだろうか。という事は雑兵みたいな見習いさんかな? うーん、これはどうするべきか。
「何の騒ぎだ!」
向こうから団体さんがこっちに向かってくる。人数で囲まれると多勢に無勢だよね。まあそこらの相手には負けないけど!
「おい、お前は確か古森沢さんのところのティアだったか」
「あ、ジャック!」
「その呼び方はやめろ! 何があったんだ?」
先頭にいたジャック……若林さんが私に話しかけてきた。どうやらこの人たちは警察だったみたい。そういえば警察署に行った時に見たような気がする。
「まあいい、話は署でゆっくり聞く。ご同行願えるか?」
「え? 私、明日も仕事あるんだけど」
「わかったわかった。とりあえず事情聞いたら返してやるから。なんなら古森沢の坊ちゃんも呼んでやるぞ?」
おそらくはタケルの事を言ってるんだと思うけど、タケルも凪沙も疲れてゆっくりしてるだろうから呼び出したくないんだよね。
「あー、じゃあタケルのお母さん、ええと、諾子さんだっけ? あの人ならいいよ」
「諾子さんっておめえ、あの四季咲の姫様かよ」
おや、どうやら若林さんは諾子さんのことを知ってるみたい。それなら話は早いよね。まあ呼んでくれるならいいか、とばかりに私は若林さんに連れられて警察署へと連行、というのかな? 一応手錠は掛けさせろって言われたからガチャリってしてもらったんだけど。まあ金門使えばどうにでもなるけどね。