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第三十一話 錯綜

すれ違い

「おや、キュー殿。おかえりなさい」

「ありがとうございました」

「何の話ですかな?」

「すいません、言いたくなりました。訳は聞かないでください」


 ベルガーさんは何も聞かないでいてくれた。うん、その方が精神衛生上いいんだよね。


「あの、ご主人様の様子はいかがでしたでしょうか?」

「あ、はい、その、当分は王都に帰れないからベルガーさんに任せると」

「そうですか……」


 ベルガーさんははぁ、とため息を吐く。私がいない間に何かあったんだろうか?


「テオドール様がエドワード様のところに来て恨み言を言っていくのです。エドワード様は何も言わずに耐えていらっしゃって」

「エドワード様は反撃などしないのですか?」

「はい、お優しい方ですので」


 そういうのは優しいじゃなくて頼りないって言うんだよ。これは早めに誤解といた方がいいと思うんだ。


「あの、ベルガーさ」

「大変です、ベルガー様! エドワード様が、エドワード様がっ!」


 メイドの女性が駆け込んできた。なんかあったのか? 私らは急いでメイトに案内されて執務室へと向かった。そこには剣を振りかぶっているテオドールと机の陰に隠れているエドワード様がいた。


「テオドール様、おやめください!」


 ヒルダがテオドールを必死になって止めている。


「うるさい! お前も、お前もエドワードの方が優れていると思っているのだろう!」

「テオドール様……?」

「私のところには来ないのにエドワードのところには足繁く通っているというでは無いか! なら貴様はエドワードの元にでも好きに行くがいい!」

「そんな、テオドール様、私は」


 あー、これはなんか致命的に何かがこじれてこうなった感じかな。あのヒルダさんとエドワード様じゃ壊滅的に合わないと思うんだけど。エドワード様の相手はもっとこう、ほわほわした感じの柔和な女性がいいよねえ。


 あっとそんな事言ってる場合じゃない。止めなきゃ。


「お二人共、おやめください!」

「ベルガー! お前は黙っていろ。お前も私の排斥を望んでいるのだろう?」

「テオドール様、決して、決してそのような事は」

「ならば何故、父上は領の運営をお前とエドワードに任せているのだ!」


 もういい加減腹が立ってきた。これもう言っちゃって良いよね。無礼とか知ったことか。いざとなったら転移テレポートで逃げる。


「何言ってんの。最初にアンタが書類仕事はやりたくないって言ったんでしょうが!」


 私のセリフにベルガーさんがあわあわと慌て出す。そりゃあそうだ。相手は武器持った貴族なんだもん。


「なんだと貴様、もう一度言ってみろ!」

「何度でも言ってあげるわよ。あんたが、お父さんに、事務仕事したくないって、わがまま言ったんでしょうが!」

「なんだと! オレは、オレは、そんな事言ってないぞ!」

「いえ、仰っておりました」


 テオドールの否定をベルガーさんが更に否定する。


「あれは、五歳の頃。勉強が嫌とごねるテオドール様に何の役に立つのだ、と聞かれましたので、領地の経営についてと答えましたら、ぼくはそんなことやりたくない!ってハッキリと仰いました」


 ……いや待って? じゃあやりたくないって言ったの五歳の時の話? それからずっと事務仕事から遠ざけられてたと? あのさ、そんな年齢の子が勉強したくなさで言い出したことを真に受けて今まで?


「なんだと? じゃあ私はその時に継承権を放棄したと?」

「それも違います。公爵様はちゃんとテオドール……様を跡継ぎに指名するつもりですから」

「はぁ!?」


 そこにいた全員が素っ頓狂な声を上げた。何せエドワード様ですら、自分が継がないといけないのだと心重くしていたらしい。というかエドワード様は仕事をしろと言われたからしているだけで、重い責任の仕事はやりたくないと常々思っていたそうだ。なるほと。決定権が必要な書類は全部ベルガーさんがやってたんですね、それもあとから公爵様が追認する様な形で。


「待ちなさい。公爵家の後継問題など秘中の秘。何故あなたがそれを知ってるのですか?」


 ヒルダが視線鋭く私の方を見る。そんなに睨まないで。石化能力ないのに固まりそうだ。


「エッジの街で公爵様に聞きましたから。後継はテオドール……様で、テオドール様は書類仕事が苦手だからエドワード様にやらせていると」

「それならば妻になる私が!」

「いえ、その、ヒルダ様はまだミルドレッド公爵家だからダメだと」

「私は身も心もテオドール様に嫁いだも同然です!」

「いや、ヒルダはエドワードの方が良いのであろう? 無理はせんでも良いぞ」

「そんな!?」


 あれ? ここでも齟齬が起こってる。ちょっと情報を整理してみて欲しい。まず、テオドールがヒルダ様がエドワード様の方が好きという考えに至ったのはエドワード様と逢瀬を重ねていたから?


「あの、ヒルダ様が毎日のように来て、テオドール……様にも書類仕事を回すようにと言って来てたのがもしかして逢瀬ですか?」


 そう。ヒルダ様はテオドールが書類仕事をやる気になったのだからとエドワード様に独占させずに仕事を回せと言ってきていた。これは私がメイドとしてそばに仕えていたから知ってる。


「なっ!?」

「エドワード様のところに仕事の交渉以外で行くつもりはありませんもの」

「その間、私の方にはあまり来なかったではないか」

「その、それは、成果が上がっておらず申し訳なくて」


 どうやらヒルダ様はテオドールに合わせる顔がないからと避けてたみたい。んんっ? でも確かこの二人って政略結婚だよね? どう見てもヒルダ様、テオドールにベタ惚れなんだけど。


「あの、ヒルダ様、そんなにテオドール……様の事好きなんですか?」

「あなたね、さっきからテオドール様の事呼び捨てにしようとして慌てて様つけてるわね! 私だってまだ様付けでしか呼べないのになんなのよ!」


 あ、なんか変なところのスイッチ押しちゃった。いやだって私からしたらテオドールってどこも尊敬できる場所ないんだもの。

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