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第三十話 雑事

趣味です!

 私は咄嗟に転移テレポートを発動した。間一髪で、私頼んだ料理は床に吸い込まれずに済んだ。


「お姉さん、これ、私の分?」


 言いながら私は今まで座っていたテーブルを指さす。


 ウェイトレスのお姉さんはびっくりしたようにこくこくと頭を上下に振る。なるほど、じゃあこれは私が食べても構わないよね。私はそのまま串焼きの鳥を口の中に放り込んだ。うん、ジューシー。タレはちょっと味気ないけど、これは普通に塩で食べても美味しいのではないだろうか。


 私はそのまま皿を手に自分の席にゆっくりと戻ろうとする。だって座ってゆっくり食べたいじゃない?


「おい、待ちな!」


 店員のお姉さんを保持したまま男が声を掛けてくる。なんだろう、私は別に何もしてないんだけど。


「なんですか?」

「なんですか?じゃねえんだよ! びっくりして酒ひっくり返しちまったじゃねえか!」


 お酒をひっくり返したのは私のせいなのか? いや、自分でひっくり返したんでしょうに。


「あー、それなら追加で頼めば良くないですか?」

「そういう事言ってんじゃねえよ! オトシマエつけろやコラァ!」


 大変めんどうくさい。恐らく言ったやつがリーダー格か何かなのだろう。他のメンバーまでドンドンと騒ぎ始めた。はあ、めんどい。


「ええと、どうしたらいいので?」

「このお姉ちゃんと一緒に一晩付き合えよ」


 ひっ、という顔をする店員のお姉さん。もう自分が一晩付き合うのは確定コースなのかと絶望している。でも逃げようにもしっかり掴まれてて逃げられない。


 こういう時は誰かが衛兵を呼んでくれればいいんだけどな、と思いながら周りを見渡しても自分は関わりになりたくないとばかりに視線を逸らすやつだらけ。


 仕方ない。ここは私が動くか。王都の衛兵詰所なんてどこにあるかわかんないや。どうするか。悩みながら透視クレヤボヤンスで壁の向こうを眺める。おっ、裏路地の方に衛兵さんがいる。ちょっと行くか。


 私はそこに転移しようとしていたが、直前にリーダー格の奴に手を掴まれた。


「あっ!?」


 しまったと思いながらも転移を敢行する。転移先は裏路地である。三人分の質量が転移先に現れた。


「なっ、何事だ! お前ら誰だ!」

「あ、すいません。私たち、そこの宿屋の酒場のものなんですけど、乱暴されて出てきまして」


 他の二人は何が起こったのか分からずぽかんとしている。今のうちだ。


「そ、そうなんです、この人が私を捕まえて一晩中弄ぼうと」


 先に意識が戻ったのは店員のお姉さんだったようだ。というより目の前に衛兵が居たから条件反射みたいな形で縋ったのだろう。


「君は、囀る小鳥亭の看板娘のミナちゃん!」

「私をご存知なんですか?」

「いやあ、何度か店にも行ってるし、話した事もあるんだけどなあ」

「あー、すいません。ちょっと気が動転してまして」


 どうやらお姉さん、衛兵たちの間でもアイドル的存在らしい。いや、この衛兵だけか?


「よし、ミナちゃんの頼みとあれば! おい、お前、大人しくしろ!」

「はっ、はぁ!? な、なんで衛兵がこんなところに?」

「問答無用!」

「ま、待ってくれ、いや、その、酒が入って浮かれて」

「それで済むわけがねえだろうがよ! こんな少女ばかりかミナちゃんまでも!」


 その場にいた衛兵三人が力を合わせて取り抑えた。そしてミナちゃんさんが「まだ宿の中に仲間が!」と言うと衛兵たちは招集をかけてくれて二ダースくらいの衛兵が集まってくれた。


 ミナちゃんさんは「こっちです!」と勝手知ったる裏口から入って、そのまま宿屋の中に雪崩込んだ。


「お前らだな、大人しくしろ!」

「えっ、なんで衛兵が?」

「お、俺たちゃまだ何もしてねえぞ?」

「あ、ボスが捕まってる!」

「なんてこった!」


 そんな感じで酒場の中は大捕物の舞台となってしまった。私は手に持ったままの肉串を口に放り込む。うん、冷めても美味しい。宿に泊まる手続きはしてあるし、部屋もあるので私はこっそり部屋に帰った。


 下の階がうるさかったので寝るまでに大分掛かったが、翌朝には清々しい目覚めをした。朝食を取ろうと階下に降りていくと、ミナちゃんさんが声をかけてくれた。


「あの、昨日はいつの間にか居なくなっちゃったのでお礼とか言えませんでしたが、助けてくれてありがとうございました!」

「あ、うん、まあ、成り行きで、ね」

「あのままだと私、どうなっていたか。それにしてもなんでいつの間にか裏路地に居たんですかね?」

「あー、まあ、その辺は魔法だよ、魔法」

「へぇ、魔法使いってすごいんですね。憧れちゃうなあ」


 ミナちゃんさんは目をキラキラさせながら言う。私の朝ごはんを運んでくれながら昨日の顛末を話してくれた。


 あのまま奴らは衛兵に連れて行かれたそう。この宿はギルドとも懇意にしているということで、冒険者っぽいあいつらにはギルドからもペナルティが課されるらしい。


 身元は王都に一攫千金を狙って来たおのぼりさんみたいで、そこそこの実力者ではあるようだ。お金稼ぐなら王都よりもエッジに行けばいいと思うだけど、その辺は腕と相談なんだろうなあ。


 それにしてもご飯食べてるのに身体を擦り付けてくるのはやめて欲しいんだけど。食べづらいんだよね。


「ねえ、あなた、女同士ってどう思う?」

「えっ? あ、まあ、その、個人の好みなので自由にすればいいかなって」


 八洲でも色んな愛の形があった。私はなんというか実体験とかはないけど、興味本位でそういうのを仲間内で試したりはしていた。うん、まあ、それなりに気持ちは良かったけど暇つぶし以上にはならなかったね。


「そうなんだぁ。ねえ、もし良かったらなんだけど、今夜の宿代は私がもつから、ね?」


 ミナちゃんさんの指がなんか私の胸元にするりと伸びてきたんだけど。あの、いや、その、私は別にいいかな。というか公爵様のお手紙を届けないといけないので!


「公爵様かあ、それはダメね。でも、いつでも待ってるから」


 可愛くウインクされた。私は朝ごはんを食べ終わると改めて公爵邸に向かった。

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