鑑定(episode30)
凪沙「あ、あー、そんなにタケルの手を取って……どいて、そこは私の! いや、でも、これは魔法の練習だし。ううっ」
パチンコ屋で働きながら魔法をどういう風に教えようかとあれやこれやと考えてみる。とりあえず私が魔法の先生に習ってたような教わり方をすればいいか。まあ本当に初歩の初歩だけど。
あ、でも、どの門派に適正があるかは測定出来ないよね。こういう時になんかの漫画で読んだ水見式みたいなやり方でもあったらいいのに。私は水が甘くなるのが好みだよ。
で、教えることになった日の朝早く。私は凪沙に連れられてタケルのところに行った。タケルはまだ寝ている。そういえば何時からやるかとかは決めてなかったっけ。
凪沙はタケルの家の鍵を簡単に開ける。合鍵を持ってるんだそうな。無理やり作らせたのかタケルが進んで渡したのかは分からない。
部屋に入ると壁には本棚とフィギュアと呼ばれる人形の棚。このフィギュアというのがすごい。私の知ってる人形は、ここまで精密に作られていない。まるで今にも動きそうな躍動感をここから感じるのだ。タケルは人形遣いなのだろうか? とすると金門の素質があるのかな?
「たっけっるー、おっきっろー」
凪沙がタケルの布団を剥いでその上にダイブする。顔面に程よく、私と同じくらいに育っている二つの膨らみが直撃している。
「ふぐっ!? ふがー、ふがー!?」
タケルが蒼穹の下から苦しそうな声を上げている。あ、蒼穹じゃなくて双丘か。
「早く起きなよー」
「ふごっ、ふごっ」
タケルは手足をばたつかせるだけで起き上がってこようとしない。というかそのバタつきも段々と弱くなってきた。
パタリ。タケルの腕がだらんとなって動かなくなった。凪沙は抵抗が無くなった事に何か違和感を覚えたのか身体をタケルの上から退けた。
顔色が土気色になっている。これはやばいかも? とりあえず呼吸を何とかしないといけない。水門はこの場合逆効果だ。となれば風を送るしかない。木門で風を起こし、体内に風を送る。
「タケル、しっかりして、タケル!」
あ、凪沙、そこで揺さぶられると安定しないから落ち着いて、ね? その、タケルにトドメをさしたいなら仕方ないけど。
しばらくするとタケルは自律呼吸を回復した。そして目を覚ます。
「おはよう。死んだじいちゃんが川の向こうで花畑から手を振ってたのが見えたよ」
「おはよう、タケル。良かったよー」
凪沙はえんえん泣いている。これで大丈夫なのかな?
三人で移動する。タケルが車を出してくれた。というかタケルって車の運転ができたんだね。
「普通の移動は電車やバスの方が便利だからね。今回はそれじゃあ行けない場所だから」
タケルに連れられて行ったのは郊外というか四季咲の私有地にある、運動公園らしい。区画としてこの辺り一帯がタケルの母親の諾子さんの持ち物らしい。
「それじゃあ始めようか」
「賛成!」
タケルと凪沙がやる気なので、私も気合いを入れる。よろしくお願いします。
「ええと、まずは五行思想について説明させてね」
タケルは分かってるみたいだけど凪沙は多分わかってない。
「あっ、知ってるよ。ほら、火と風と水と土とかそういうのだよね! あと光と闇だっけ? あれ? 六つになっちゃった」
凪沙が自信満々に言うが、それは色んなファンタジーで一般的なやつだろう。私も五行思想が魔法としてはマイナーな部類に入るとは思ってなかったよ。
「世界は木火土金水の五行で出来ています。世の中の仕組みもこれで回っています。木は火を生み、火は土を生み、土は金を生み、金は水を生み、水は木を生むのです」
「木が燃えると火が勢いよくなるのはわかるけど、他は?」
「火が燃えて灰が残る。灰は土です。鉱物である金は土の中から出てきます。金属の器に雫である水が生まれます。そして水があれば木が育ちます。これが五行相生です」
私の説明に納得したのか納得してないのかよく分からない顔をする凪沙。タケルはブツブツと言っている。
「なるほど。金属の器に雫が出来るのは結露だけど、それを金属が水を生み出してるとしてるわけか。これは面白い」
「タケルだけ分かってないで私にも教えてよー」
凪沙はもっとしっかり勉強した方がいいと思うよ。そもそも凪沙にはあまり魔法は向いてない気がする。殴った方が早いよねとか言いそうだし。それでも金門でも身につければ護身用くらいにはなる。
「続けるよ。で、もうひとつ大事な考え方に五行相剋ってのがあって、これによって適性が決まるんだよ。私は水門だから火門への適性が低いって感じ」
「うん、ぼくが読んだ文献では水剋火だね。水は火を消すってやつだ」
「えー、そりゃあ水掛けたら火は消えるじゃん」
「そうそう。それが五行相剋。他にも火を使ったら金属が熔けるから金剋火、土は水を吸収するから土剋水とかあるよ」
私の説明に何となくわかったという顔をする凪沙と完全に理解しているみたいなタケル。タケルは本当に知識として知ってたみたいだ。しかし、この世界に魔法はないはずなのに理解出来てるのってすごいよね。
「という訳で二人がなんの属性なのかを調べたいと思います」
「できるの?」
「ううーん、多分?」
正直なところあまり自信はない。私たちの世界ではちゃんと判定するための魔法具があるからね。正直な話で言えば時代遅れというかとても古臭いなやり方だ。
「じゃあまずタケルからね」
私はタケルの手を取って両手でギュッと握った。凪沙が目を白黒させているけど、まだ何もしてないよ?
私は両手のひらに魔力を集中させる。タケルに流すのは私の水門の魔力。これによる反発具合で何門かを判断するんだけど。タケルは恐らく火門だろうから、私は流す魔力を最低限にする。
タケルの手のひらから魔力が流れていかない。タケルの身体の芯の部分で私の魔力を拒んでいるんだろう。これは間違いなく火門の反応だ。
「タケルは多分火門だね。私の魔力が流れていかない」
「そうか、火門なのか。ありがとう」
「次! 次は私、私をお願い!」
凪沙が私の手を取るそんなに慌てなくても次は凪沙の番だってば。